第十二話 邂逅、掴み取るために
おはようございます!!!
学校から投稿になりますが、よろしくお願いします
俺、黒鉄 遊兎は戦場を駆け抜けている。
全身には淡く輝く『魔法陣』。さっきの戦闘よりも少ない魔力を流しているが、それでも十分なほどに俺の能力は向上している。
目指すは、幼馴染である白木 咲がいるであろう魔界と人の国を二分する壁の方。この戦争が始まる前から、そこに白木が陣取っていることは知っている。
武器の類は無し。ガリスとメドラトとの戦闘の時に手放してから回収もせずに向かっていく。
「くっそ、怒りで我を忘れて武器の回収を忘れるって……流石に血が上りすぎだろ、俺……ッ!!!」
自分を罵倒するが、そうはいっても今から戻ればまたあの二人に会うことになる。それは嫌だ、子供じみた気持ちではあるが、あの二人にはできるだけもう会いたくない。
そう思ってしまうくらいに二人に対する印象は良いものではなかった。
急ぐ、急ぐ、急ぐ。
二人、というかメドラトには結構本気で睨みを利かせて威圧を活用してくぎを刺しておいたが、ほかの騎士団員が追いかけてこないとも限らない。今そんな木っ端共に囚われている暇はない。
俺の気持ちが早く白木と会いたいと体を動かし、俺の感情が白木を救い出したいと陣にさらに魔力を流していく。
そうしてどのくらい走っただろうか。景色が少しずつ緑色に染まっていく。
今までは荒野だったのが壁に近づくにつれて野原というか草原のようになっていく。
更に地面の色が緑を増したころに、ようやく俺が探し求めた人の姿が見えてくる。
まだ距離はあるが、今の俺の速度は100メートル走のピーク速度くらいは出ている。なので足を止め、勢いを殺すために滑るような恰好になる。少し砂ぼこりが立つが、俺は探し人の数メートル手前で止まった。
「ふぅん。やっぱりこっちまで来たのね」
腕を組んで睥睨するようなポーズで俺の方を睨む彼女__白木の呟きが微かに聞こえてくる。それが当たり前であるように、飢狼騎士団では俺を、いや“勇者”を止めることができないと確信しているようだった。
「……白木。」
俺は、彼女を前にしてどういう風に動けばいいかわからなかった。彼女とこの世界で会ったのは二回目だ。だが彼女は俺のことを覚えていなかった。だからこそ俺は動けなかった。覚えていないというのはある意味では“否定”なのだ、簡単に動けるわけがない。
「久しぶりね、魔界の勇者様。やっぱりあたなはこちらへ来たのね。悪いけれどここから先は通せないわ、今回の私の任務はあなたをこれ以上進ませないことなの。ということでさっさと立ち去りなさい。直ぐに身を翻せば“今回は”見逃してあげられるわ」
白木はそう言った。彼女は俺の目的がここから先、つまりは壁の向こうにある国へ侵攻することだと思っているようだ。そして、彼女はそれを阻止することが任務で、それさえ成せれば俺への危害を加えない、とそういうことなのだろう。
だが、その任務の根底にある俺の行動は全く別だ。俺の目的は、彼女自身なのだ。
「すまないが、俺はここから引くわけにはいかないんだ。それに、壁の向こうにも興味はない」
「へぇ……。それじゃああなたの目的は私を殺すことっていうことで良いのかしら?随分と物騒ねぇ」
「半分正解だけど、ちょっと違うかな。
俺は白木、君を殺すわけじゃない。君を攫いにに来たんだよ」
そういうと、彼女の視線はさらに険しくなった。俺の言葉が気に入らなかったのかその視線には殺気が混ざっていた。
「あなた、自分が何を言っているのか理解しているの?たかが数週間前に召喚されたばかりで碌に力も持っていないあなたが私を攫う?調子に乗りすぎじゃないかしら?しかも無手の状態で?そんな命知らずにもほどがある言葉をしゃべれるなんて、余程ここで死にたいのね?」
いいわ、相手をしてあげる。
そう白木は言いながら腰に掛けていたソレを外し、振るう。
どうやら、ソレは短く畳まれた杖のようだった。先端には菱形の石__たぶん何かの宝石だろう__が付いており、杖自体は木でできているようだが、勇者が持っているような武器だ、相当の力を持っているのだろう。
どうやら俺は、少し言葉の選択を間違えたようだ。彼女をやる気にさせてしまったらしい。
こうなれば仕方がない。というか、最初っからこうなることは分かっていたので俺も構える。
体を左肩を前に右肩を後ろに向けるように横にする。右腕を引き胸の前へ、左腕は手のひらを白木の方へ向け、前へ。足は肩幅よりも少し大きめに広げ、やはり左脚を前に右脚を後ろに。
元々日本にいた時から習得していた古武術、その中でも無手の状態の構えを取る。
相手の攻撃を回避し、接近攻撃を仕掛けやすい構えだ。因みに、相手の攻撃を防御するときは前後に体を構えるのではなく左右に広げて構えたりする。
「私が珍しく見逃してあげるって言ったのに突っかかってくるなんて、身の程を知りなさい」
彼女はそう言って杖を横へ振る。
次の瞬間、彼女の背後に魔法陣が多数展開される。
彼女もう一度杖を振る、たったそれだけの動作で魔法陣から幾つもの現象が降りかかってくる。
炎の玉、水の槍、風の刃に土の塊。それらはすべて俺の方へ向かってくる。
それにワンテンポ遅れて俺は走りだす。白木の魔法で一番速度の速かった風の刃が俺がさっきまでいた場所を切り刻み、地面を削り取った。
それだけで終わるはずもなく、他の魔法は俺へと殺到する。
炎の玉がまっすぐに俺へと向かってくる。それをギリギリで避けながら、その後ろに紛れていた水の槍を左手で弾く。
土の塊はそこを狙ったように空いた俺の胴へと飛来する。しかも、さっき避けたはずの炎の玉がこちらへと反転というか、バックスピンのかかったゴルフの玉のようにまっすぐこちらへ迫る。
「マジかよっ!?」
まさか火の玉が戻ってくるとは思わずに、少しだけ思考が硬直する。だが、流石にこの程度でやられる程俺は出来ない奴じゃぁない。
着弾寸前の魔法をギリギリでしゃがみ前に転がることで回避し、白木への距離を詰める。
白木は舌打ちを一つ打つと直ぐに新しい魔法を俺に向かって放つ。
今度はただ直線的に俺を狙うのではなく、上下左右から挟撃をしたり時差を付けて迫ってくる。
それらを避けて弾いて時には掠りながら白木へどんどん近づく。
「っく!中々やるじゃない!」
「ありがとさん!そう思うなら、大人しく捕まってくれ!」
「何を言ってるの。この程度の魔法を避け程度で、私を捕まえられると思ってるのかしら?甚だ心外だわ!!
生意気な口を利いてくれるから、もう少しだけ強めで行ってあげるわよ!!!」
白木はそういうと杖を振る。それに伴って先程と同じように魔法陣が空中に浮かび上がるが、どの魔法陣も先ほどのものとは別物なのが一目でわかる。以前よりも複雑で大きめなのだ。
「さっきまでのは全部初級魔術。魔力適正さえあれば小学生でも発動できる簡単な魔法よ。でもこれは違う。中級魔術や上級魔術を使って実力の差を分からせてあげるわ」
なるほど、白木の言う通りだとすれば今までの魔法が単純なものが多いはずだ。魔法の初歩の初歩の術を使われて応戦されていたのだから。
心の隅で舐められたものだと思うが、それが自分にとって都合のよかったのもまた事実。今白木が放とうとしている魔法は先程とは段違いになるのがなんとなく分かる。俺がそれらを避け白木の元へ辿り着くのが格段に難しくなる。
「でも、まだいける!!!」
そう自分を鼓舞してまた走り出す。あっちが魔法の質を上げるなら、こっちも自前の魔法の効率を上げるべきだ。
走りながら、自分の体に流している魔力の量を改めて調整していく。
必要なのは白木へと近づくためのスピード、魔法を見切り、避け切るだけの動体視力と瞬発力と万が一の時の魔法に対する防御!
ならば魔力を流すのは射手座・鷲座・牡羊座・天秤座だ。それぞれ、右の太もも・右目の下・左太もも・左手の甲に刻んである『魔法陣』だ。
それらだけに魔力を流し、余計な部分をなくしていく。
白木はそれを見ても目を細めるだけで何を言ってくるわけでもなかったが、俺の準備が整ったとみるや否や魔法を放ってきた。
炎水土風、四元素の魔法が初めの時よりも更に密度と精度を増して降りかかる。
炎がカーテンのように広範囲へ広がる。それを体に掠りながらも躱した先には待ち構えたように回転のかかった土槍が地面から生えてくる。それらを見てから回避すると、その先に更に別の魔法がある。その先にも、その先にも……。
宛ら魔法の障害物競走とでも呼べるほど大量に魔法が設置され、発動する。しかもそれらはすべて障害物どころか致死性のトラップだ。目の見張り、全身に緊張を走らせながらもなんとか突破していく。それでも体には少しずつ傷が増えていくが。
「こなくそぉぉ!!!」
叫びながら、距離を詰める。白木は余裕そうにその場から動かずに杖を悠々と振るう。その姿はどこかのオーケストラの指揮者みたいで今は壮大な音楽ではなく大音量の爆音や俺の叫び声を指揮しているようだ。笑えない。
それでも少しずつ距離は近づく。残りはあと十数メートルといったところ。借り物の防具も傷だらけ、魔法への耐性を施していても体は悲鳴を上げそうだ。
だが、あきらめない。
「もう……少し!!!」
俺は、そう自らを奮い立たせ、前へ進む。
白木はそれを見つめ笑う。
「えぇ、もう少しね。はやく捕まえてごらんなさい」
と。
ありがとうでした!!
次回次次回で1章部分が終わり、2章に入りたいと思います。
皆様応援よろしくお願いします!!!
では、また次週お会いしましょう