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報われない運命の奏鳴曲《ソナタ》  作者: 呉葉 織
天命Ⅱ:『天命』に見離された者
8/11

血に濡れた鎮魂歌(4)


意識を戻したばかりにその声が大きく鼓膜に反芻し、顔を顰める。煩い、そんな大声出さなくても聞こえてる。俺の耳はちゃんと正常だ。


「アシュレイ君!」


俺の名を呼んだ女は、煌めくマロンブラウンのロングウェーブの髪を持つ――名前をミリルーシェ・ウィレ・カルドリエ。俺と同じ学年で、総合評価トップクラスの世間知らずのお嬢様だ。総合評価はトップクラスのくせに空気が読めなくて本当にウザい。コイツ、自分が中心に世界回ってると思ってんだよな。んなわけあるかよ、頭お花畑なのかよ。て思うくらいに、てか頭お花畑だ思う。


「アシュレイ君も同じ班なのね!」

「……そーですね」


 特段、あんたらに興味なんてないっつーの。生きて帰ることが優先だから、誰がどこで死のうが俺には一切関係のない話として割り切っている。俺はそんな人間だ。ちなみにトップクラスの奴らは全員科が違って居たはずだ。

 ちなみにトップはこの女を含めて5人。そこの頭お花畑女は魔術化、この女ベッタリな脳筋バカは魔体術科、誰とも話さない無口メガネは魔知識科、頭お花畑女を嫌悪している泣き虫は魔猟銃術科、頭お花畑女と適度に距離を保っている胡散臭い笑顔の腹黒は魔獣術科だ。そして、俺が魔剣術科。学科は全部で6学科あり、全学科揃っている。


「ミリル!」

「ランディック!」


 来た、頭お花畑女が大好きな脳筋バカ。これでも魔体術という魔力を全身に行き渡らせて驚異の身体能力を司る超接近戦のバカだ。体格から見ればそう見えるほどに全身の筋肉はかなりついている。が、残念なことに考え成しだ。ちなみに俺は魔剣術科だから、剣を生成しその剣に自身の魔力を宿して使う中距離戦特化型。まあ、近距離戦もいけるが遠距離は無理だ。

遠距離はこの頭お花畑女が所属する魔術科だろう。その名の通り、魔力を術に変えて攻撃するタイプであり、俗世間にはよく知られている。


「あ? んだよ、テメェもいんのか」


「……好きで来てるわけじゃねぇ」


 好きで来てたら単なる戦闘狂だろうが。誰が戦闘狂だ。あくまで生きて行く手段の1つで俺はここにいる。むしろ、そうでしかない。本当、誰が好き好んで死地に赴きたがるのか。……就職先は、先程出てきた知り合いの元だ。ぜってぇこき使われることは間違いなしだが、衣食住はもらえるのでいいだろう。


「テメェは居なくても平気だぜ、何せ俺がいるからな!」

「そーかよ」


 脳筋バカに前線は任そう。俺は後方支援でもしてよ。取り逃がした雑魚の処理とかその辺やろう。てか、やりたい。楽だし。後2人……魔猟銃術科と魔獣術科の奴らが居ただろうから、そいつらを前線にでも行かせておけばいいと思う。わざわざ俺が前に出ずとも平気だろう。

 なんて考えていたら、他の奴らも来た。どうやら洞窟ダンジョンに行く準備はできているらしい。周りと会話しないがその膨大な知識量で洞窟ダンジョンのルートを決める魔知識科のアイレム・カルツィオルト。

頭お花畑女が大嫌い過ぎて顔を合わせるだけで泣きだす魔猟銃術科のフィルティレ・ザリス・ネルシアン。

いつも肩に小さなフェレットのような魔獣を乗せて胡散臭い笑顔が怪しい魔獣術科のメゼル・サンノリード。

 このメンツで洞窟ダンジョンに潜るのは初めてだ。特に経験を積んでるのは俺と笑顔が胡散臭すぎるメゼルだが。


「お前ら、大丈夫だよな! 総合成績がトップのお前達なら簡単にこなせるはずだ!」


 教師の言うことがこれか。今から俺らに死にに行けと言っているお前が言うことか。内心で軽く呆れながらその話を聞き、ようやく洞窟ダンジョンに向かうことになる。難易度H。舐めてかかれば痛い目を見るに違いないこの洞窟ダンジョンだが、俺はどこか底知れぬ不安と違和感を感じていた。

 難易度が高ければ高いほど、その奥に潜む魔物はバカみたいに強いし、手強い。ただ、それだけではない何かを、得体の知れない何かを感じていたからこそこの違和感が拭えない。こういう時の勘は、妙に当たる。つくづく、俺は運命に嫌われているとも言えるほどに勘が当たるのだ。


「どういう編成で臨む気だ?」

「カルツィオルト君!」


脳内お花畑女が読んだのは魔知識科のアイレム。彼はあの女に呼ばれてキョトン、としていたがああ、と頭の中で構築していたであろう編成をスラスラと読み上げる。頭の中、マジでどーなってんだ? というくらいに各個人の癖や攻撃パターン、能力値を上手く組み合わせて作り上げた編成で、前衛は脳筋バカのランディックと笑顔の胡散臭い魔獣術科のメゼル。

中は魔猟銃術科の泣き虫フィルティレと頭お花畑女のミリル。後衛は俺とカルツィオルト。この編成で臨み、調整していくらしい。化け物かよ、と思うほどだ。まあ、さっさと終わらせて帰れたらそれに越したことはないんだけどな……。この憂いは、というより俺の嫌な勘というものは当たって欲しくない時ほど当たってしまうらしく本気で嫌な予感しかしない。

洞窟ダンジョンに踏み入れてみれば、充満するのは濃く、黒い禍々しいくらいの重い空気だ。訓練されていなければ、すぐに倒れるだろう。

一般的に、この重苦しい空気は瘴気と呼ばれている。発生源さえ絶てばどうとにでもなるが、害はある。人は瘴気に当たり過ぎれば魔力が上昇しすぎ、制御が効かなくなる。そうして暴走した結果、命を落とす。 特に、魔力量が多ければ多いほど、当てられると危険な状態になるのだ。


「じゃあ、防御魔術詠唱なんてかけるね! 『エ・セルティ・リウォラ……』」


頭お花畑女の声が洞窟内に響く。つか、それ洞窟ダンジョンに入る前にかけるもんだろ。何で忘れてたんだよお前。とか、もはや突っ込む気にもなれず。

黙ってその長ったらしい詠唱を聞いていた。まあ、魔術科くらいしか詠唱なんてしないが。他のところは……魔獣術科は使役魔獣を呼び出す時に名前を呼ぶくらいか。魔剣術科は魔力を体外に出して剣を生成するがカッコつけたい奴は「出でよ! 」とか言ってた奴がいた気がする。あまり興味がないから視界の端に入れていた程度だが。


「どうだ?」

「もう少し先に行けば沢山いるぞ」


ウジャウジャと居そうだな。カルツィオルトはジッ、と奥を見据えている。コイツは瞳に強化を掛けて奥の様子を見ているそうだ。まあ、何とも器用な事をする。俺だったら勘で動くな、確実に。勘で動く他にすることはない。その方が楽だろ。


「うおっしゃぁぁ! とっとと潰していくぞぉ!」


煩い奴が元気なもので。後衛は特にすることがないだろうから、大人しくしてよう。そう決めた俺だったがこの後に誰がその先のことを知っていたのか――――。 カルツィオルトが言っていた通り、ウジャウジャと居る魔物共だったが先頭を走る脳筋バカと胡散臭い笑顔の魔獣使いにとっととやられていた。

 泣き虫銃使いと脳内お花畑女は中距離から魔物をどんどん倒していき、俺と無口な知識人は後ろからただ傍観。何つー楽な仕事だこと。

脳筋バカが身に染み込んだ体術を駆使して魔物をぶっ飛ばし、飛んできた魔物は笑顔の胡散臭い魔獣使いが召喚した、大きな黒い獅子と茶色い豹がおこぼれと言わんばかりに食いつく。


「暇だな」

「本当は、お前を前衛にしようと思ってた」

「は?」


いきなり何を言い出すんだコイツは。片手に剣すら生成してない俺にとんだ爆弾発言吐いてくれたな……?呆気に取られながら、隣の無口な知識人を見る。カルツィオルトは俺の方にチラリと視線をやって、また前を向く。


「だが、後ろで良かったようだ」

「……。」


俺の編成は正解だった。そう言ったカルツィオルト。正解、ね。そんなこと、生きて帰れるのならばどうだっていいことに過ぎないんだけど。と、内心で思っていた、その時。


「……っ、離れろ!」


カルツィオルトの鋭い声が響く。弾かれたように脳筋バカは下がるが、笑顔の胡散臭い魔獣使いはその場に居るだけ。……どうした?


「メゼル!」

「ご苦労様です、メゼル」


ここは、最下層の一歩手前。順調に行き過ぎていたから、ちゃんと把握してなかったが大分瘴気が濃い。

その中、顔には見えないが全員立っているのもやっとなくらいだった……俺と、メゼル以外は。なのに、メゼルはそこに平然と立っていて。呼ばれた名に顔を上げる。そこに居たのは、青白く髪は霞んだ灰色の髪の男。


「まだ出てくる時間じゃないですよ」

「おや、そうでしたか?」


 一見普通に見えるが違った。奴は、魔族だ。魔力を持つ人間よりも遥かに強く遥かに多い魔力を持っている。それが分かったのだろう、カルツィオルトの顔色は悪い。にしても……


「サンノリード君?」

「うん?」

「その人だ……」


 頭お花畑女の声が途切れる。その直後、ぐしゃりと音がした。


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