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静寂に朽ち果てて(1)

今創作の元凶:創世の神を一番に嫌う忘却の神とその契約者の話。


 ――終焉。それは、世界の終わりを指し示す啓示である。終わりとは原初の原理において万物・空間・時間といった概念全ての崩壊を指し示すものであるとかつてこの世界の基礎を創り上げた始りの神たる開闢の神が定義した。その開闢の神は今はどこかに隠れ、何を思ったか万物の創世を司る創世の神がこの世界を創世したと戯れ言を吐いた。それが、何もかもの始まり。狂った『運命』である天命の存在も、刻一刻と迫る終焉の徴候が現れたのも、全て全て傲慢たる者の戯れ言から始まった。それにより、神々の保つ均衡は崩れ神々の中でも絶えず事件は起きている。その一つに――忘却の神という、記憶の消去・抹消を司る神による創世の神の記憶を消滅させるという事件が起こりかけた。結論として、創世の神の兄弟たる神々によってこの事件は隠蔽され、忘却の神は以後、創世の神の前に現れることはなかった――――それが、今現在人々に伝わる忘却の神の話である。


『言いたいことはあってる、けど間違ってるね』

「これは俺達にとっては御伽噺だ、そもそも張本人がこの話を知るなんて想像もしないだろう」


 光の差さない路地裏、汚れた壁に灰色のコートを躊躇いもなくつけ、右手に持つ『神々の真実』という何とも真実みの薄い胡散臭い本の中身に溜息をつきながら虚空に声をかけている姿は単なる異常者にしか見えないだろう。


「……それよりも、この本の中身読めば読むほど嘘ばかりだな」

『書いた人間は、どこかの文献をそのまま書いたに過ぎない。ましてや、僕たち神は人間の前には殆ど姿を現すことはないんだから』


 この世界に存在する神は気まぐれに人間に加護を与え、生を謳歌しやすいようにすることはあれど姿を現すことはない……例外を除く限り。契約、神と何かしらの対価を交換することにより神の持つ能力を施行できる人間を契約者という。ただし、神との契約など簡単にできるものではない。神が人間と契約するにはそれ相応の理由と対価が必要になるからだ。神が人間と契約す理由は一つ――彼の有名な、創世の神がしでかした『天命』における被害の救済のためである。創世の神が出した被害は尋常では無い。それなのに、当の本人は何もしない。代わりに自身のお気に入りを見つけては加護を与えている。


『にしても、これを書いた人間は相当なバカだね。創世の神が救世主? 自分達の世界をこれだけ滅茶苦茶にしたのに』

「人間は縋るものに妄信的になる、だから愚かなんだろう」

『……シエル、君は考え方が大人すぎるね』

「誰のせいだ!!」


 乱暴に本を閉じ、声を荒げたことに関しては謝るつもりはない。けども、こう言わせたのは完全に俺の中に住む神のせいであることは間違いないのだ。なので、声を荒げることは正当なものとさせてほしい。――シエル・アービス。それが俺の名前であり、忘却の神の契約者である。アービスの名は意外にも知れている。理由としては、この国の歴史を綴る者だからだ。代々、国の移り変わりを綴り変化を見守ってきた不変の一族。そんな一族のである俺が何故記憶の消去と抹消を司る忘却の神の契約者であるのか――単純に、忘却の神に選ばれたから、ただそれだけであり意味はない。


「大体お前の持つ記憶が俺に共有されているから、考え方がこうもなるんだ!!」

『仕方ないよ、僕との契約は君の記憶と僕の今までの記憶を共有することと、君に関わった全ての人の記憶を消す事なんだし』

「それは分かってる」


 忘却の神が俺を選んだ時に、そういう契約であった。だから、アービスを名乗っていても俺の両親や兄弟の中に俺の記憶は一切として存在していない。そもそも、俺という「セシル・アービス」という存在はもうないものとされている。


『神の契約者は、その存在はないものとして生きるのが定めだ、そのために全てを棄てたんだろう』

「……そう、だな」


 記憶は移ろう、その中で残る記憶は一握り。刹那を駆けて行く概念は人間には到底理解し得ないものなのだ。忘却との契約で知り得た真実は多く、現在に語られる物語は全て御伽噺でしかないのだ。だからこそ、人々は真実を知ろうとしないのだろう。それが、御伽噺が真実だろうと信じて。その嘘を正すために、彼の契約者になったと言っても過言ではない。昔から気づいてはいたのだ、どこかで歴史の改編は行われると。歴史を綴る一族として、どこかで感じていたことだった。嘘を正したかったのは、こうも理不尽な運命が、世界が何事もなく歴史に綴られないのが嫌だったからだ。隠された歴史として、綴られなかった歴史は多い。それは意図的に隠されたものや消されて綴れなかった歴史も存在する。それでも、この歴史は意図的に隠してはいけない、後世に語り継ぐべきものであると判断したからこその結果が今だ。ただし、この身に得た能力は真逆のモノではあるけれど。


『後悔してるのか?』

「まさか、この歴史を綴るために全てを棄てたんだ。創世の神という、傲慢な存在が引き起こした過ちを記録に残すために」

『……そうか』


 忘却の神は記憶を司る、そして消去し抹消する。日々、記憶が消えて行くのは人間の記憶の許容量が大きくないからだ。記憶は貯蔵されては零れ落ちていく。零れ落ちて記憶はどう足掻いてもこの手に戻すことはできない。人々は記憶を維持し綴るだけの、記憶の許容量がないのだ。歴史を彩るは記憶であると、一族の者はよく言っていた。


「忘却は、記憶を留められる」

『いきなりだし、それを対価交換に出されたときは驚いたけどね』


 忘却との契約において、記憶の保持を対価に俺が死んだ後この身体を明け渡すというたいそうな契約をした。あまりの対価の大きさに始めは忘却も驚いていたが、理由を知ると面白がって許可してくれた。近いうちにこの世界は終焉へと向かう。その時、神々はこの世界を棄てて新たな世界を創るのだろうか、それともこの世界と共に朽ち果てるのだろうか。


「……人間は」

『ん?』

「この世界の人間は、終焉を迎えたときどうなるんだろうな」

『……他人事かい?』


 他人事、確かにこの身を忘却の神に明け渡せば他人事になるだろう。終焉を迎えると言うことは全ての終わりだ、死ぬのだろうかそれとも消えてなくなるのだろうか。どんな結末であるのか、それは歴史に刻まなければならない事実であるのだ。


「……死ぬよりも、何も知らずに消えてしまった方が終焉を迎えたことに気づかずいいのかもしれないな」

『終焉は、どうするのだろうね』


 理想論だ、そんなのは知っている。けれど、願い望むことくらいはいいだろう。仮にこの身に終焉が来たとしたらそう望みたいのだ。そう望んで、悔いを残さぬように。


「忘却」

『うん?』


 片手に持つ本はとうの昔から意味を成さない代物で、存在意義はとうの昔に殺された。今を生きる意味はこの理不尽で、傲慢で、『偶然』を『必然』に変えた創世の神の記録を残すこと。誰の記憶にも残らず、自分の記憶にしか残らぬ存在として。歴史を綴る者としての役割を果たすことが生きる意味であるから。


「記憶を消して、天命をリセットすることで救えるものは合ったんだろうか」

『……それが、セシルの選択なら救えるものが合ったんじゃないかな』


 選択肢に明確な答えは存在しない、天命という残酷な現象はいつしか人間を本当の意味で殺してしまうのだろう。そのために記憶を消して――天命という現象をなかったことにして。この理不尽な全てから救うことが忘却の使命である。


「俺はきっと、後悔するよ」

『……。』

「忘却にじゃない、自分に」


 正しい選択肢が分からなくて、ずっとさまよい歩いて。見つけるのは終焉までの希望か絶望か――それは、誰も知らない。



次回の更新は未定です。

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