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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第九章『選択』
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「確証」

 瑛明は眉間に皺を刻み、「何が?」


 依軒はまたしても、これ見よがしにため息をついて見せると、

「わざとあんな格好で出歩いておられるのかと思っていました」

「――え?」

「では行って参ります。念のため、中から鍵をおかけください」

 戸惑う瑛明に、とってつけたように頭を下げると、依軒はさっさと踵を返した。


 バタンといささか大きな音を立てて、扉が閉まる。

 瑛明はすぐさま湯船から立ち上がった。

 湯船の縁にかけておいた布を腰に巻きながら、小走りに扉に寄る。依軒が引き抜いていった閂を再び差し込むと、扉に背を向けて、ほうっと一息。


「そうか……」

 顎を上げて、板の隙間から空を仰ぐ。

 湯船の中から見ていたより、ずっと奥行きのある空だ。

 自分ばかりが縮こまっていたことを思い知らされたようで、口元は、知らず歪んだ。


 そうだった。

 バレやしないかということにばかり気を取られ過ぎて、周りが全然見えてなかった。


 外界で男共の視線を集めていたこの俺が、女の園を男装して歩き回る――それはさぞかし、目を引いたことだろうよ。

 むかしは笑いかけたり、手を触ってやったりして不良品を買い取らせていたっていうのに、使えるものは何だって使うと言ってはばからなかったのに。


 『何が?』だなんて――なんて温いことを抜かしてるんだ、俺は。

「ま、いいや」


 瑛明は湯船の縁に腰を掛けた

「とりあえず、当分は一人だ……」


                

「随分とすっきりされたようですね」

 居室、定位置に座って髪を拭く瑛明の前に茶を置きながら、依軒はそう声をかけてきた。


「いいお湯だったからね」

 後頭部を拭く態で、瑛明は依軒の視線を外しながら、そう答える。


 伏せた目線の先には、卓上に置かれたままの五冊の書。

 その一番下から、瑛明は一冊を抜き出した。


『桃花源記』


「中相様からご連絡があったそうですよ。間もなく戻られるとか」

 「そう……」答えながら、頁を捲る。


 これは確かに中相の手蹟だ。

 だけど――これだけじゃ、いくらでも言い逃れができる。

 もっと言い逃れできないくらいの確かなものが欲しい。


 そのためには。


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