「核心」
「なんて無茶なことを。本当に、貴方という御方は」
瑛明は半歩先を行く姿に、そう投げかけた。
王は立ち止まり、瑛明に並ぶ。
「そうか? 危急の時に王が後宮に身を隠すというのは、聞く話だぞ」
そっと耳元に囁く。
瑛明は辺りを伺う態で目線を外しながら、「ここは後宮ではありませんよ」
「まあ、似たようなものだ」
ここは院子。先日、瑛明と璃音が歩いた梅林である。
辺りに人気はないが、渡廊が騒がしい。そこここで女官たちが固まってこちらを見ている。
そりゃ陛下がこんなところにいるんだから、驚くよな。
「地下通路に繋がる鍵は全て替えられた。瑛明の部屋にあったあの黒櫃も、私の部屋の鍵もな。だから――また無茶をされるよりはと、璃音も納得してくれた」
「……」
もう、何て言っていいか分からない。
芳倫も呼ばれてるわけだし、こんな人目につくところで堂々としてるあたり、同じ桃華宮にいる従姉妹に会いに来ただけといえば、まあその通りだし、だけど。
「それにしても――大層な格好だな」
言われて気が付いた。
まさか王が来るとは思っておらず、分厚い手套、蒙面、圍巾という、いつもの重装備だった。
あわてて外そうとしたところ「体調不良を謳って引きこもっているんだろう? そのままで構わない」そう笑って制された。
「ああでも」王はふと面を伏せ、「顔だけは、見たいかな……」
小さな声でそう言う。
瑛明は黙って蒙面を外した。
おずおずと顔を上げた王が、ゆっくりとこちらを見上げてくる。瑛明もそれにならう。王の頬が、ほんのりと梅色に染まってる。やっぱり寒いよな――右手が、袖の下で動きかけた。そのとき。
「陛下、お待たせして申し訳ございません」
背後から大きな声。振り返ると、芳倫が真っ赤な披風を翻し、息せききって駆け寄ってくるところだった。
「やあ芳倫、久しいな。元気そうで何より」
美しく笑う横顔を見ながら、瑛明は袖の下で右手をぎゅっと握りしめた。俺いま――。
「支度もできたようだし、行こうか」
「はい」
王と芳倫が揃って歩き出す。
瑛明は遠ざかっていく二人の背中を見ながら、茫然と佇んでいた。
お傍にいたい。
お役に立ちたい。
そう思っていた――だけど。
瑛明が目を落とした先には、自身の右手があった。
冷えた頬に触れたいと、思ってしまった。
あの地下通路で、このまま離れたくないと思ってしまった。
もういっそ、このまま――と。
俺は――。
「瑛明さま?」
二人は随分と先を行っていて、怪訝な顔でこちらを振り返っている。
「すぐ、参ります」大股で歩きながら張り上げた声は掠れて、瑛明は慌てて咳ばらいを繰り返した。
「大丈夫か?」
「瑛明さま、寒くないですか? 私の披風も着ます?」
「大丈夫です、ちょっとむせただけで。ありがとうございます」
両方から向けられる心配げな目を避けるように、瑛明は目を伏せた。




