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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第七章『背反』
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「拒絶」

「どうした? 疲れた顔をしている」


 即座に否定しようと思ったのに、言葉が出てこず、瑛明はただ曖昧に笑ってみせた。


 いつもどおりに王の好意で用意された昼餐を、璃音の給仕で共に食した。たわいない話で談笑する親子の図を、いつも以上に意識した。

 だからいつも以上に饒舌になってしまったけど、何を話したかはあまり覚えていない。


 食後の茶が用意されて、璃音が亭台を下りていったのはつい今しがた。

 その姿を追うように、瑛明はふと院子に目を投げる。

 今朝は雲が多かったのに、いい天気になったんだな……薄雲に透ける青空に瑛明が心を寄せたとき、石卓越しの中相が僅かに身を乗り出した。


「間もなく年が終わる。おまえがこちらに戻って初めての新年、かつ喪中の身ゆえ、新年行事で賑わう宮中を下がらせ、家族で静かに過ごしたいと私から申し出れば、誰も異は唱えまい」

「――それから?」

「その後は簡単だ。家に戻った後、おまえは病になる。そのまま長期療養だな」

「それで?」


「新年が開けたら、私は久々に地方の巡回に出る予定だ」


「は?」

 年に何度か巡回に出ると聞いていたけれど、少なくとも俺が戻ってからは一度も行ってないはず。でも、何だって今、そんな話を急に。


「そこで私は引き取ってこようと思う」

「何を?」

 すると突然、中相がにっこりと笑った。滅多にないことに戸惑う瑛明に、


「隠し子だ」


「か、隠し――!?」

 驚きの余り勢いよく立ち上がってしまい、手元の茶碗がガチャンと派手な音を立て傾く。

「おっと危ない」しかし中相は平然と、その茶碗を両手で押さえる。「気をつけろ。宮中の品を壊したら、色々とやっかいなのだ」

「申し訳ございません」

 謝罪の言葉を口にしながら座り直したが、瑛明の動揺はまったく収まってはいない。


「何を驚いている――おまえのことだ」


 「え、俺!?」声が裏返った。

「そう。母一人子一人で静かに暮らしていたが、母が亡くなったので引き取ることにした――という話だ」

 ああ、そういうことか。密かに息を吐き、でも半分は本当だな……瑛明が思っていると、

「嘘は少ない方がいいからな」


 ――この人、実は心が読めるんだろうか。思わずにはいられない。


「でも隠し子だなんて、また色々言われませんか?」

 そう言うと、中相は冷えた笑みを浮かべて、

「言う者はこれまでだって色々言っている。好きにさせておけばいい。むしろ『中相も人の子だったんだな』と親しく思ってくれる者が増えそうだ」

 自分で言うか。まあ、この人らしいけれど。


「おまえは私の庶長子として国学へ通うがいい。当然あれこれ言われるだろうが……」

「――それで?」

 茶碗を手に取ろうと目を落とした中相が、再び目を上げる。その目を捉えながら、

「『俺』はどうなるんです?」

 中相は目を外すことなく静かに茶碗を置き、

「いつまでも長期療養というわけにもいくまい。しかしおまえは一人しかいないし、それが国学に通うというのであれば……」


 病死――かな? 静かに広がる笑みを隠すように、瑛明は顔を伏せる。


「もしくは」

 僅かに低くなった中相の声に、今度は瑛明が目を上げる番だった。


「外界恋しさに、おまえが勝手に出て行った」

「それは――!」咄嗟に上がった声の大きさに、瑛明は慌てて口を噤んだ。顔を伏せてしばし唇を噛み、今度は静かに言った。

「それは……嫌です」


 俺が、ここが嫌だったと思わせるなんて。


 それだけは――絶対に嫌だ。

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