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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第六章『逢瀬』
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「困惑」

 どういうことだ――まさかバレた? 


 いや、だったらこんな、悠長にはしていられないはず。

 じゃあ何で――混乱で頭がぐるぐるしてきた、そんなときだった。


 バンッ! 部屋の扉が勢いよく開けられる音が聞こえたのは。


「瑛明さま!」

 前室の扉が勢いよく開いたと思ったら、続けて跳ね上がった声が飛び込んできた。

 あの小姐! いくら予想できていたとはいえ、ついに先触れもなくやってくるとは。しかも、ずかずかと部屋の中まで。


 芳倫の素早さと大胆さに半ば驚き、半ば呆れていると、

「申し訳ございません芳倫さま。瑛明さまは、ただいまお支度中です。しばしお待ちを。――まあ、それにいたしましても随分素敵な披風でございますね。よくお似合いですよ」

「でしょう? 陛下がご用意くださったのよ。あんまり素敵だから、瑛明さまにも見ていただきたくて。瑛明さまへのお仕立ても拝見したかったし! あ、コレ実家から贈ってきたお菓子。これも一緒に並べていただける?」

「これはまた珍しいものを。いつもありがとうございます」

「そんなに慌てなくてもいいのよ。突然やってきてしまって、ごめんなさい」


 そう思うなら、せめて予告して来いよ! いやせめて、来訪の鈴を鳴らしてくれよ!

「いえいえ、うちの瑛明さまにいつもお心をかけていただき、ありがたい限りでございます。主の中相も、芳倫さまのお優しさには深く感謝しておりました。くれぐれもよろしくお伝えするようにと申し付かっております」

「まあ中相さまが」

 そんな依軒と芳倫のやりとりの合間に、小さな叩扉の音。


 「瑛明さま」璃音の声。


 瑛明は素早く扉に寄って、薄く扉を開けた。

「璃音、あれ」

 瑛明は背後の牀台、広げた衣装にちらっと目を投げてみせると、押し殺した声で訊いた。


「どういう意味?」


「それは明朝、直接お尋ねくださいませ。あちらは後ほどご試着いただくとして、今はその披風を。芳倫さまがお待ちです」

「――分かった」

 瑛明はそっと扉を閉め、男物の衣装を手早くまとめ、牀台の下に押し込んでから、披風を羽織った。

 胸前で披風の紐を結びながらも、心は穏やかでない。


 大きく息を吐いてから扉を開けたとたん、赤の披風をまとった芳倫が駆け寄ってきて「まあ!」と華やいだ声を上げた。


「瑛明さま! その青、素敵だわ、いつにもまして凛々しくいらっしゃるわ!」

「芳倫さまこそ、よくお似合いですよ。さすがは陛下のお見立てですね」

「本当に。お忙しい御身でいらっしゃるのに、こんなにも私たちのことをお考えくださって、もう私たち、どうしたらいいのかしら」


「本当に……」


 どうしたらいいんだろうか。


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