「困惑」
どういうことだ――まさかバレた?
いや、だったらこんな、悠長にはしていられないはず。
じゃあ何で――混乱で頭がぐるぐるしてきた、そんなときだった。
バンッ! 部屋の扉が勢いよく開けられる音が聞こえたのは。
「瑛明さま!」
前室の扉が勢いよく開いたと思ったら、続けて跳ね上がった声が飛び込んできた。
あの小姐! いくら予想できていたとはいえ、ついに先触れもなくやってくるとは。しかも、ずかずかと部屋の中まで。
芳倫の素早さと大胆さに半ば驚き、半ば呆れていると、
「申し訳ございません芳倫さま。瑛明さまは、ただいまお支度中です。しばしお待ちを。――まあ、それにいたしましても随分素敵な披風でございますね。よくお似合いですよ」
「でしょう? 陛下がご用意くださったのよ。あんまり素敵だから、瑛明さまにも見ていただきたくて。瑛明さまへのお仕立ても拝見したかったし! あ、コレ実家から贈ってきたお菓子。これも一緒に並べていただける?」
「これはまた珍しいものを。いつもありがとうございます」
「そんなに慌てなくてもいいのよ。突然やってきてしまって、ごめんなさい」
そう思うなら、せめて予告して来いよ! いやせめて、来訪の鈴を鳴らしてくれよ!
「いえいえ、うちの瑛明さまにいつもお心をかけていただき、ありがたい限りでございます。主の中相も、芳倫さまのお優しさには深く感謝しておりました。くれぐれもよろしくお伝えするようにと申し付かっております」
「まあ中相さまが」
そんな依軒と芳倫のやりとりの合間に、小さな叩扉の音。
「瑛明さま」璃音の声。
瑛明は素早く扉に寄って、薄く扉を開けた。
「璃音、あれ」
瑛明は背後の牀台、広げた衣装にちらっと目を投げてみせると、押し殺した声で訊いた。
「どういう意味?」
「それは明朝、直接お尋ねくださいませ。あちらは後ほどご試着いただくとして、今はその披風を。芳倫さまがお待ちです」
「――分かった」
瑛明はそっと扉を閉め、男物の衣装を手早くまとめ、牀台の下に押し込んでから、披風を羽織った。
胸前で披風の紐を結びながらも、心は穏やかでない。
大きく息を吐いてから扉を開けたとたん、赤の披風をまとった芳倫が駆け寄ってきて「まあ!」と華やいだ声を上げた。
「瑛明さま! その青、素敵だわ、いつにもまして凛々しくいらっしゃるわ!」
「芳倫さまこそ、よくお似合いですよ。さすがは陛下のお見立てですね」
「本当に。お忙しい御身でいらっしゃるのに、こんなにも私たちのことをお考えくださって、もう私たち、どうしたらいいのかしら」
「本当に……」
どうしたらいいんだろうか。




