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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第五章『宮中』
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「嘘つき」

「陛下、お替わりをお注ぎしますね」

「ありがとう芳倫。この茶菓子もとても美味しい」

「それはよろしゅうございました。お替わりもありますよ? あ、是非こちらも!」


 数日後、瑛明は王と芳倫とともに、先日中相と対面した院子の亭台にいた。桂花茶を王から所望されたからである。

 亭台の蓮型の石卓に、上座の王を頂点に、瑛明と芳倫が下座に並ぶ。

 傍らの芳倫は、真新しい薄紅の衣装がとても可憐で、雲一つない秋晴れの空にも劣らぬくらいにその笑顔は眩しい。嬉しくってたまらないというのが明々白々だ。

 その様子を横目で伺いながら、


 ――ああいうのが好みじゃなかったのか? 


 いつぞや渡された激甘本の、胸やけがする甘々な台詞の羅列を瑛明は思い出す。

 そして今度は正面で、目を細め、芳倫に優しく笑いかけている美しい横顔を見た。


 ああでも、この方ならさらりと言えるかも。


 『乱れている』

 白くて長い指が、そっと額に触れたときの、ひんやりとした感触。


「瑛明さま、どうされたの?」

 その声にハッとする。見れば隣の芳倫がこちらを窺っている。いかにも心配げな様子で。

「もしかして具合が悪いの? 顔が赤いわ」

「そうなのか?」合わせるように心配げな声を上げる王を、瑛明は複雑な思いで見た。


『ここのところ朝晩冷え込んできたが、変わりないか?』

『はい。おかげさまですこぶる元気です』

『それはなによりだ』

 そんなやりとりを、今朝したばかりだ。


 鍵をもらって以来、依軒が寝静まっている早朝のうちに、ほぼ毎日会っている。多忙な御身なので、長居はされないけれど。

 同じ室内に璃音がいるものの、(一応)嫁入り前の自分と、王が密かに会うってかなり問題なのでは――という思いは日ごと強くなっている。屈託のない笑顔で王の話をする芳倫を見るにつけ、胸が痛い。


 だのに隙あらば鍵を開け、長櫃の蓋が開く待っている自分に、身近くにいる依軒につい苛立っている自分を、止められずにいる。

 中相が言うまでもなく、近しくなればなるほど、事が露見する確率が上がるのに。


 近しくなったからといって、どうなるわけでもないのに。


「冬も近い、二人とも大事にするように。必要なものがあれば遠慮なく言うように」

「ありがとうございます、陛下」

 この方は――自分に向けられる無邪気な笑顔を、溢れ出る好意を、どう受け止められているのだろう。そんなに清らかに、優しく笑いながら、あなたはなんて嘘つきなんだ。

 芳倫が俺たちの密会を知ったら――きっともの凄く傷つくに違いない。


 だけど――そう思っていながら、この場にしれっと座っている俺は――瑛明はそっと顔を伏せ、口元を歪めた。

 

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