「処世術」
やがて開門し、瑛明は比呂の仲間に導かれ、人気の店が並ぶ、悪くない場所に売り場を確保した。
「おっ、瑛明久しぶり」
「元気にしてたか?」
あちこちから掛かる声に最上級の笑顔をくれてやりながら、まったく、どいつもこいつも鼻の下伸ばしやがって。いいかげん気づけ、俺が男だってことに! と内心思っている。
――でも仕方ないか。女もびっくりなこの艶やかで豊かな髪、こちらも母さんゆずりの白い肌、ロクなモン食ってないから太らないうえ肩も張ってない。おまけに顔が綺麗で、声変わりもまだと来た。
「どうかしたか?」
気づいたら隣で店開きをしている髭男が顔を覗き込んでいた。おい、近すぎ!
慌てて後ずさると男はカカと笑い、
「顔が赤ぇぞ。おまえは本当に初心だなあ。悪い男にひっかからないか心配だわ」
もう笑うしかない。
「おっ、お姉ちゃん綺麗だねえ。ちょっと品を見せておくれよ」
掌に載るくらいの小さな竹かごを手渡したら、目の前に立つ初老の男が、不自然に手を握ってきた。まあ少しでも多く稼ぐのに、多少の我慢は必要だ。これくらいは許容範囲。
母さんが山奥で動けないでいる今のうちに俺がガッチリ稼いで、どうにか母子二人、平穏に暮らすんだ。
もう二度と、あの世間知らずの小姐に、下賎な真似なんかさせるもんか。
「あれ? ここ割れてるじゃないか」
「えっ! すみません、どこですか!」
そのためなら必死な面持ちで、ちょっと顔を寄せてやることくらい、どうってことない。
手ぐらい、好きなように触らせてやる。
楽しくなくたって笑顔をみせてやることくらい、いくらだってやってやる。




