「再会」
瑛明は斜のある小道を下り、まだ日も上がりきらない鬱蒼とした竹林に、臆することなく踏み入っていく。
少し色の抜けた水色の上衣に、紺色の裙子を高腰で留めている帯は、襟と同色の桃色。頭上高くに結い上げた豊かな髪の一部を、竹の櫛で止めている。垂らした残りの後ろ髪をなびかせながら、暗く足場の悪い傾斜を、瑛明はさくさくと下りていく。
「歩きにくいよな、ホント」
ブツブツ言いながら両手で裙子を少し持ち上げ、すっくと伸びる青竹の隙間を、するすると抜けていく。
ふと背後を振り返ると、空がさらに白んできていた。
「やば、今日はちょっと出るのが遅かったか」その光が足元まで届くことはないのだが、まるで日に追われているかのように、瑛明はさらに足を速めた。つられるように息も少しずつ上がっていく。
急がないと城門が開いてしまう。
【武陵】の扁額が掲げられた城門前にたどり着いたとき、すでに結構な人が大小さまざまな荷物を抱え開門を待っていた。皆、県令の居所があるこの城市の市で、各々の品を売り捌くため、少しでもいい場所を確保しようと日の出前から集まっているのだ。
「瑛明!」
声の先をたどれば、大きく手を振っている見慣れた顔がある。
膝上の短い上衣に褲子に脛巾、周囲に群がる男衆と何ら変わらぬ姿だが、周囲よりは頭一つ――瑛明よりは頭二つ背の高い、人の好さそうな若者である。
大股で近づいてくる、ふにゃっとした、いつもの笑顔にほっとして――だけど慌てて顔を引き締め、「ああ」と彼にだけ届く不愛想に声で、瑛明は応えた。
「久しぶりだな、元気だったか? また母上の調子が悪かったのか? 心配だったんだけど、おまえの家はどうにも道が分からなくて。何回も言ってるだろ、目印つけてくれって」
まるで犬のように瑛明の周りをくるくるする彼に、「まーた瑛明にちょっかいかけてるのか比呂」「いいかげん諦めたらどうなんだ」「瑛明もはっきり言っていいんだぞ、『あんたみたいな遊び人は好みじゃない』ってさ」次々と飛んでくる揶揄の声に、「だーかーらー、友達の妹だからって言ってるじゃん」「そんなんじゃないし」「俺、遊び人じゃないから」といちいち律儀に答えながら、比呂はずんずんと前に出てきて、「ちょっと何」と非難の声を上げながら後ずさるしかない瑛明は、そのまま人混みの外に押しやられた。
「なんだよ。こんな端っこに来たら、いい場所取れないだろ」
「仲間に頼んできたし、荷物置いてあるから平気だって。それより」
空を見上げているのかというくらいに首を上げ、睨みつける瑛明の視線をかわしながら、比呂はそっと身を寄せてきて、
「それ――盛り過ぎだろ」