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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第一章『外界』
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「再会」

 瑛明は斜のある小道を下り、まだ日も上がりきらない鬱蒼とした竹林に、臆することなく踏み入っていく。

 少し色の抜けた水色の上衣に、紺色の裙子(スカート)高腰(ハイウエスト)で留めている帯は、襟と同色の桃色。頭上高くに結い上げた豊かな髪の一部を、竹の櫛で止めている。垂らした残りの後ろ髪をなびかせながら、暗く足場の悪い傾斜を、瑛明はさくさくと下りていく。

「歩きにくいよな、ホント」

 ブツブツ言いながら両手で裙子を少し持ち上げ、すっくと伸びる青竹の隙間を、するすると抜けていく。

 ふと背後を振り返ると、空がさらに白んできていた。

 「やば、今日はちょっと出るのが遅かったか」その光が足元まで届くことはないのだが、まるで日に追われているかのように、瑛明はさらに足を速めた。つられるように息も少しずつ上がっていく。

 急がないと城門が開いてしまう。


 【武陵】の扁額が掲げられた城門前にたどり着いたとき、すでに結構な人が大小さまざまな荷物を抱え開門を待っていた。皆、県令の居所があるこの城市の市で、各々の品を売り捌くため、少しでもいい場所を確保しようと日の出前から集まっているのだ。


「瑛明!」


 声の先をたどれば、大きく手を振っている見慣れた顔がある。

 膝上の短い上衣に褲子(ズボン)に脛巾、周囲に群がる男衆と何ら変わらぬ姿だが、周囲よりは頭一つ――瑛明よりは頭二つ背の高い、人の好さそうな若者である。

 大股で近づいてくる、ふにゃっとした、いつもの笑顔にほっとして――だけど慌てて顔を引き締め、「ああ」と彼にだけ届く不愛想に声で、瑛明は応えた。 


「久しぶりだな、元気だったか? また母上の調子が悪かったのか? 心配だったんだけど、おまえの家はどうにも道が分からなくて。何回も言ってるだろ、目印つけてくれって」

 まるで犬のように瑛明の周りをくるくるする彼に、「まーた瑛明にちょっかいかけてるのか比呂(ひろ)」「いいかげん諦めたらどうなんだ」「瑛明もはっきり言っていいんだぞ、『あんたみたいな遊び人は好みじゃない』ってさ」次々と飛んでくる揶揄の声に、「だーかーらー、友達の妹だからって言ってるじゃん」「そんなんじゃないし」「俺、遊び人じゃないから」といちいち律儀に答えながら、比呂はずんずんと前に出てきて、「ちょっと何」と非難の声を上げながら後ずさるしかない瑛明は、そのまま人混みの外に押しやられた。


「なんだよ。こんな端っこに来たら、いい場所取れないだろ」

「仲間に頼んできたし、荷物置いてあるから平気だって。それより」

 空を見上げているのかというくらいに首を上げ、睨みつける瑛明の視線をかわしながら、比呂はそっと身を寄せてきて、


「それ――盛り過ぎだろ」

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