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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第三章『出会い』
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「この世でただ二人」

「父はずっと、叔母上と、瑛明のことを気にかけておられた。どうしているんだろう、ちゃんと食べているだろうか、凍えてはいないだろうかと口癖のようにおっしゃっていた。私は父と二人きりだったから、叔母といとこがいることが嬉しくて、早く会いたいと思っていた。会えたら一緒にこんなことしたい、あれをあげたい、と。おかげで私の部屋は、ガラクタだらけだ」

 そう言って王は目を細めた。


 この人、なんて――。 


「私も先ごろ父を亡くした。ずっと二人で寄り添って生きてきた父だ。とても辛かった。――だけどどこかで、母とただ二人で生きているだろう瑛明を思うたび、心が慰められた。私たちは、この世でただ二人、同じ気持ちを持って生きているんだと。それがどれだけ私を励まし、支えになっていてくれたことか。だから、きっと会えると信じていた。ずっと帰りを待っていたよ、瑛明」


 何をやってる。

 目を外さないと。

 お悔やみを言われたら返答とお礼を。そして王にも同様のお言葉を返すよう言われてたじゃないか。

 礼物へのお礼だって――。


 見つめる目が、胸に迫るのは母さんに似てるからだ。向けられた声が染みていくのは、聞いたこともない言葉をかけられたから。


 ここに来て、喜ぶ母の姿にほっとしながらも、あれだけ切望していたはずの実の父でさえ遠くて、俺一人だけが取り残されているようだった。みんなが絡んでいる網の目が、自分のところだけ解けているようだと感じていた。


 俺はやっぱり異人なんだ――そう思ってた。


 それでも母さんがいるうちはまだよかった。でも母さん亡き今となっては。

 ここで生きてきた痕跡も記憶もない俺は、ここで生きる縁も、理由も、何もなかった。

 だからここでのことは美しい夢として、胸に残しておきたい。そうして外界で一人生きていこう、そう思ってたのに。


「すまない、不謹慎に笑ってしまったりして。瑛明がちょっとでも笑ってくれたら、なんて思ってしまった」

 言われて愕然とする。

 俺、ちゃんと笑ってたよな? いつも通りに、うまく取り繕って。

 いつでもどこでもうまくやり過ごしてきたはず。だけど、そう思っていたのは俺だけってことなのか?


 手が温かい。


 見れば、すでに形ばかりに組まれていた両手が、上下から包み込まれていた。

 触れられたことに気づかないくらい、優しい手だった。

「よく帰って来てくれた」

 思わず面を伏せた。床に広がる薄青の裙子に続けざま雫が落ちる。


 何やってんだ、こんなところで。

 化粧落ちるってのに。もう子供じゃないっていうのに。

 もう泣くまいと、決めていたのに。


 早く収めなければ。

 せめて声だけはと固く唇を噛み締める。でも震え出す肩は止められなかった。離された片手が、白い手絹(ハンカチ)を差し出してきた。手にするのを躊躇していると、半ば強引に、右の掌に押し込まれる。そして押し込んで来た手ともう片方が、そっと背中に回り込んできた。


 ああもう――無理だ。


 手絹を両手で硬く握り、目元に上げた。呑み込んでも声は勝手に漏れてくる。背に回された腕の力が、少し強くなる。でももう――いいや。


 瑛明は導かれるまま王の肩に額を預け、ただ泣き続けた。

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