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糸遊~きみにつながるひかり~  作者: 天水しあ
第三章『出会い』
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「帰る場所」

 中相の目が、まっすぐに自分を見ている。


 息をのんだ。混乱した日々の中で、ただそれだけは、唯一決めていたことだった。

 思えば、まともに二人で対面したのは、ここに来た日以来だ。

 ちょっとやつれたみたいだ、人のこと言えないじゃないか――そう思ったら、僅かに口元が綻んだ。「はい」


「だがおまえの身内は、もう私だけだ」 

 思いもよらない言葉に驚いて、今度ははっきりと笑みが浮かんだ。

「恐れながら――もうずっと父はいないものだと思って生きて参りました。またその日々に戻るだけです」


「ここはおまえの家ではないと?」

「ここは母の故郷ですが、私のものではありません。母を丁重にお見送りいただいたこと、感謝しております。やっとこの地に母を帰せたことに私も安堵いたしました。私は粗野な田舎育ちで中相様のお役に立つこともなければ、この家で育つほどの品位もございません。お会いできて嬉しく思いました。忌が明けましたら、私は密かにこの地を出ます」

 面倒になりそうだったから、何も言わずにここを出るつもりでいたのに、つい言ってしまった。

 

 嬉しかったからかもしれない。


 おもむろに中相が席を立った。そのまま踵を返したところで、足下がふらついた。

 食事は朝夕二回の雑穀のお粥のみ。

 確実に二度も出てくるなんて自分にはありがたいが、あんな豪華な食事と間食に慣れた身体にはきついことだろう。粗衣粗食に耐え、母をきちんと見送って下さってるのだ、この人は。


 母さんよかったね。気持ちは――他の人にあったのかもしれないけど、母さんのこともちゃんと想ってくれているよ――思いながら瑛明もまた立ち上がり、去っていく後姿に深々と頭を下げた。


「今の話、母を亡くしてまだ気持ちが落ち着かぬゆえの言葉と思っておく」


 思わず顔を上げると、中相が扉に手をかけたまま、こちらをまっすぐに見ている。


「決してそういうわけでは」

「もう一度よく考えるといい。忌明けまで、まだ日がある」

 口を開きかけた瑛明の言葉を待たず、中相は部屋を出て行った。



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