議題2 転移手続きについて
「本当の…異世界転移……?」
「っていうか…連れて行くって……!!」
突然彼女が発したその言葉に、三人は驚愕の域を超えて呆然としていた。
「え…そんな行ったり来たり出来るもんなのか…?」
「当たり前だろう。出来なきゃ、どうやってこの世界に帰って来れるんだ?」
「自力なのか!?」
「な…なんかこう……ご都合主義的な感じで…リンちゃん帰って来れたのかなぁと…」
「フッ……その認識自体が既に間違っているんだミーシャ。何もかも”展開”がどうにかしてくれるなど…甘えにも程がある」
すると斗猛矢は徐に立ち上がり、鬼気迫る勢いで凛香の肩を掴んだ。
それに釣られるように…ミーシャも彼女の腰周りにしがみつく。
「じ、じゃあ…俺たちもを異世界に連れて行ってくれるのか!!?」
「やったあああぁ!!!リンちゃんすっごぉい!!空間転移ってやつ!!?」
「お、おい凛香…本気で言ってるのか!?…俺だけでなくこいつらにまで…」
混乱する恒介だったが、”既に覚悟は決まった”かのような表情をしている凛香は、二人の暑苦しいジョイントを軽々と振り払い…腕を組みながら語り始めた。
「恒介だけなら…口頭での説明で十分伝わるだろうが、この猿共には無駄だろう。…なら、直接異世界というものをその身で体験して貰ったほうが速い」
突然の展開に未だに理解が追いつかない恒介。つい先日失踪から帰ってきた幼馴染が、異世界への転移を自在に出来るレベルにまでなっていた…という事実が主な原因だ。
彼女は一体…異世界で何を成してきたというのか。その疑問が色濃く脳裏に浮かび始めた。
「うおおおぉおおお凛香あぁ!!俺は今、人生の中で最大級の幸福を感じているぞおおぉお!!!」
「うるさい燃えろ。……いいか、確かにお前らを連れて行くというのは決定事項だ。だが、これはただのツアーなどではない。…本当の異世界とは何なのか。この世に溢れている異世界への巫山戯た認識がどれほど酷いものなのか。それを五臓六腑に染み渡らせる為の”講義”だ」
机から降り、人差し指を三人へと突き立てながらそう言い放つ彼女。
いつしか空は夕暮れ色に染まり、部室の光度は低くなっていた。
だが…この二人の目の輝きは、太陽光以上のものである。
「うんうんうん!!講義で何でも、異世界行けるだけでも最高だよぉ!!」
「早く…早く連れて行ってくれ凛香!!恒介、お前ももっと喜べ!!部設立以来…初めての異世界活動だぞ!!」
「い、いや…でも…」
「恒介」
二人のはち切れんばかりのテンションに押される中…凛香は微かな笑みを浮かべて、恒介の目に視線を合わせた。
「昨日はあぁ言ったが、もしかしたら…もしかしたら、匝も見つかるかも知れない。……私の事は気にするな。…だから、お前も一緒に来い」
「……凛香……い、いいのか?俺達みたいな奴が行っても…」
「案ずるな。その為に私が同伴するのだ。……死ぬほど行きたくないがな」
「…そんなにひどいのか異世界」
「…まぁ、任せておけ」
すると凛香は彼の手をとり、強引に引き寄せた。四人が机の前に集合した所で、再び彼女の高説が始まる。
「では、これより我々四人は異世界へと転移する!!ここから先は私が出す指示に全て従うように!!不平不満、嘔吐に腹痛、精神障害etc…どんな状態になったとしても決して弱音を吐かぬように!!」
「当たり前だぜ!!…っし……いっちょ王国騎士にでも成り上がるかぁ!!」
「私はA級魔法使いになりたーい!!」
「欲望に忠実だな…まぁ…生き残れれば大団円かな…」
彼らの言葉を聞くと、凛香は固く目を閉じ……右手を顔の前に翳した。
…数秒後、彼女の周りには青白い光のようなものが集まり、暗くなりかけていた室内が眩いほどの光明を得ていた。
「うお……すげぇ……何だこれ…体の力が…」
「力入んない……リンちゃん…何して…」
「もっとスパって…転移するんじゃ……ないのか…」
全身の力が抜け、立つこともままならない三人。そして、凛香は思い切り腕を天井へと掲げ、指を鳴らして呟いた。
「芒部凛香18歳。所属”第57488異世界”より二度目のゲート通過を所望する。えぇ…っと…人数は…」
「なんか…地味だな」
「うん……地味だね」
「こんな…地味なもんなのか」
それはまるで、カラオケへの予約を進める電話慣れしていない女子高生のような…現実的な光景であった。