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第2話 近くの神社

間違って2話を投稿せず、いきなり3話になってました。

なので修正いたします。

「中学時代、パジャマから着替えるのは制服だった。

しかし今は違う。

 一旦トレーニング用のジャージに着替える必要が出来たのは、高校生になってからだ。


 2年前、当時受験生の私は最大の難問にぶち当たっていた。 


 ――「第一志望校は無理」――


 つまり……バカ。

 いや、バカは自分でも言い過ぎだと思う。

 単に学力が足りてなかっただけだ。


 今の高校は県内随一の進学校として有名で、実際多くのエリート官僚や大手企業の幹部となる人材を輩出してきたエリート養成校と呼ばれている。


 当然、私のレベルは合格ラインより低かった……うん、かなり低かった。


 担任の先生にも「受けるだけムダ、無理せず第二志望校にしろ!」と言われた。

 心配してくれての事だろうけど、これだけは譲れない。


 理由は簡単、通学が徒歩圏内の学校ってそこしか無かったからだ。

 交通費が経済的負担になるとかではなく、単に早起きが苦手だっただけだ……志望理由がそんな程度って事は、もちろん誰にも言ってない。

 そんな私を見かねたママが、一つのアドバイスをくれた。


「あとは神様に頼りなさい!!」

「……え?」


 これは画期的アイデア――というよりがっかりした。


 そりゃ合格祈願くらいはするつもりだったけど、まじめに考えて……何? 神様って?


「もっと現実的な方法あるんじゃない? 例えば家庭教師を雇ってくれるとか――」

「はぁ?! ふざけたこと言ってんじゃないわよ!

 ドコにそんなお金が有るって言うの!! 

 だいたいあんたが小学校から怠けていたからこんな事になったんでしょうが!」


 そりゃもう、すごい剣幕だった。

 しかも全く言い訳できない……そうです、全て自分が悪いんです。

 普段やさしいママは、怒ると本当に怖い。

 

「……それで、どちらの神様にお参りするんでしょう? やっぱ大宰府とか?」


 ちょっと下手に出て聞いてみた。

 学問の神様の定番「太宰府天満宮」福岡なんて一泊行程の距離だ。

 当然無理だとわかっていたけど、それでもちょっとだけ期待してみた。

 うまくすれば、念願の家族旅行とか……


「あのねぇ、ルナ……あんた、神様にお願いすれば急に頭が良くなるとか思ってない?  良い!? 神様にお願いした後は「必然」か「偶然」が起こるだけなの。 

 例えば「大金持ちになりたい」とお祈りして、いきなりお金が降って来ないでしょ?

 そう祈って努力して、やがて財を成す事が「必然」。

 で、逆に、運よく宝くじ当たったりして、財を得るのが「偶然」。

 これらはどちらが幸運なのか微妙よね。

 宝くじ当たったおかげで、金遣いが荒くなって散財した挙句に破産したり、お金目当てで殺されたりしても嫌だし。

 せっかくお金を貯めても既に年取りすぎて、遺産を巡って子供達を骨肉の争を起こさせて満足に死ねなかったり……」


 なんか途中からワイドショーのネタが混ざってきた気がする。

 私は一人っ子だし、今から兄弟なんか出来ないだろうから、できればたっぷり遺してもらいたい。

 それに期待するのは当然『偶然』のほうだ。

 てか、それって神様必要なの?


「それはともかく。神様に限らずお願いするときは、必ず代償が必要なのよ。

 例えば昔は雨乞いのために村の娘を生贄にしたり。

 橋や建物を作るときに基礎に人柱を埋めたりしたの。

 お賽銭なんて、それをお金で代用してるだけなのよ」

 

 生け贄なんて……なんだかヘビーな話になってきた。


 生贄や人柱に値する金額っていくらになるんだろう?

 それに、こんな話って世界中にあるよね? 

てか、高校受験ごときで命奉げろって言いたいわけじゃないよね?


「それなのにルナ。

 あんたのお賽銭なんて良いとこ100円くらいのつもりでしょう? 

 一柱ひとりしか居ない神様のもとに、毎年何千何万もの人がお願いに来るってのにさあ、100円玉にぎったバカ娘が分不相応の学校に合格させてくださいって鼻水たらしてヘラヘラ笑 いながらやってきたらアンタが神様ならどう思う? 

 ムカつくでしょう?

 腹立つでしょう?

 なめてんのかと思うでしょう?

 ぶっ殺したくなるでしょう?」

  

 などと無茶苦茶ディスられ泣きそうになった。

 お賽銭は五円のつもりだったのは黙ってた……でも鼻水たらしたバカ娘はひどい。


「ああもう、わかりました! それじゃあ私は具体的にどうすればいいの? 五体投地? 聖地に向かって土下座3回? 断食はいやだよ!」


 これ以上聞いていても話が進まない。

 それに時間の無駄だ、受験生にとって、時間は黄金にも代えがたい。

 なので話を適当に逸らそうとした、どうせそんな面倒なことやるつもりもないし。


「そうね。じゃあ、上の「神社」に行きなさい」

「……はい? うえって、そこの「神社」?」

「そう、それのこと」


 そこの「神社」とは、我が家の目の前。

 道路を隔てた向かいに在る小高い丘。

 その上に在る、何の神様が祀られているのかもわからない小さな神社だ。


 そこで何をするかというと、それは実に単純なこと。

 しかし決して簡単なことではない。

 それをあの日から約二年間毎日続けている。


 ―「必ず毎朝お参りする」―


 それこそ雨の日も風の日も、雪の日も嵐の日もこれを卒業までやり遂げるという無茶なものだった。


 本当に死の危険を感じたことも一度や二度じゃない。


 台風による大雨で、土石流が発生しそうなときも行かされた。

 神社に向かう階段が滝のようになってて流されそうだった。

 大雪の日に足を滑らせて階段を転げ落ちたこともあった。


 しかしご利益は確実に有った……と思えなくも無い。


 本当に私が入学できたのは奇跡に近かったからだ。

 神様のおかげかどうかはさておいて、あり得ない確率の「偶然」が発生したのだ。


 合格発表当日、私の番号は無かった。


 でもそれについて、後悔は無かった。

 文字通り死力を尽くして勉強したし、こんなに必死で頑張ったのは生まれて初めてのことだった。

 両親からも「よく頑張った!」と褒められて嬉しかったし、不合格でも満足だった。


 しかしその直後、担任の先生を通じて「補欠合格」の通知が来た。


 何の冗談かと思ったが、合格者のうち数名が、入学を辞退したらしい。

 先生も驚きつつ、私の運の強さに呆れていた。


「辞退したやつな……。一人は急に家族で海外に移住する事になったらしい。 で、もう一人は親御さんの跡を継ぐことになって、修行だかなんだかで働くそうだ。

 あと一人は、気の毒なことに試験の帰りに交通事故に遇って、なんか自分の名前も思い出せないらしくて辞退と……」


 海外に移住なんて、正直羨ましい。

 跡継ぎってのは最近知ったけど、老舗料亭の息子で、一日も早く板前さんの修行を始めたいそうだ。

 この二人に関しては、まあ頑張ってと思えるけど、事故で記憶喪失……なんか罪悪感がハンパない……

 更に学校側の事情。

 有名進学校で、そのステイタスを維持する為、補欠で定員確保なんて考えられなかったらしい。

 なにより入学辞退が前代未聞だとか。

 それが、昨今の少子化により、生徒数の維持は学校運営上の事情らしい。


「はあ……妹尾。……まぁ、留年だけはしないようにがんばれよ……」


 溜め息混じりだが、これが恩師からの贈る言葉だった。


 一抹の不安を覚えつつも、私はこの特別な事態を素直に喜んだ。


『偶然』が重なった栄冠だとしても、それこそが自らの『必然』だったと思っていた。

 何より両親も喜んでくれたのが嬉しかった。


「あぁ~……! これで朝のお参りからも開放されるー!」


 何気なく放った私の一言は、母という形をした地雷を踏んだ。


「このバカ娘え!! あんたは自分で決めたことも守れないのかあー!? 卒業するまでって言ったべ?」


 ご近所じゅうに響き渡りそうな、ついでに通報されそうな声。


 先ほどまでの慈愛に満ちたママの顔は、修学旅行のときに見た仁王像のようだった。

 パパは驚きのあまり椅子から転げ落ち「大魔神だ……」とつぶやいた。

何のことか知らないけど語感的にしっくり来るな。


 逃げたくなったが許される状況じゃない。

 思えばこのときのママが一番怖かった。

 てか、卒業って高校卒業するまでって思ってなかったし。

 

 といったわけで、朝のお参りは未だに続いている。

だからといって、神様が居るとか信じてはいない、むしろどうでも良い

 

 一階に降りて、玄関を出ようとすると、何か家の中に違和感があった。


 しかし、寒いしまだ眠い……いいや、めんどくさい。

 私はそれ以上気にすることなく外へ出た。


 このとき、少しでもキッチンに注意を向ければ後の惨事は防げたかもしれない……


 外に出ると、やっぱりかなり寒かった。


 目の前の丘が、日差しを遮るせいもあるだろう。

 とりあえず道路を渡ると、そこにはコンクリート製の階段が在る。

 この上の神社へと続く道だ。

 私はいつもどおり、駆け足で上った。


 途中から石段に変わり、小さな鳥居と石畳が現れる。


 鳥居の脇には小さな祠があり、何か祀られているようだが私にはわからない……

 わからないけど、そこに供えてあるお饅頭には見覚えがあった。


「あ……やっぱりここか……」


 寒風に晒されて硬くなっているけど、私がとっておいたやつに間違いない。

お供えしたのはママだ。

 

 そもそもこの神社は私にとって、子供のころの遊び場の一つだ。

 ここは両親のどちらかが、毎日欠かさずお参りしている。

 なので小さい頃の私は、ほぼ毎日ここで遊んでいたのだ。


 なぜお参りするのか? 

 その理由はわからないし、訊ねたこともない気がする。


 それくらい常態化していたので、特に気にしたことはなかった。

 最近では健康維持のための運動かなにかだろうと納得していた。


 納得いかないのはこのお供え物だ。


 小学生のころまでは、私のおやつを取り上げて供えるなんて事はしなかった。

両親も優しかったし多少の我が儘も聞いてくれた。


 中学にあがるころから、だんだん厳しくなって現在に至る。

 それは躾と理解しているし、一人っ子なので、むしろ友達より甘やかしてもらった期間は長いと思う。

 なので、多少おやつを奪われても容認している。


 しかし最近になって気がついた、というか変だと思った。

 それはお供え物の場所と内容だ。


 この神社は無人だ。

 神主さんは居ないし管理している人も居ない、もちろん参拝客なんて見たこと無い。

 掃除はうちの両親が時々やっている。


 境内の突き当りには小さいながら「本殿」が在る。

 小さすぎて、大人なら二人くらいが中腰で何とか納まる程度のものだ。

 外観もボロボロで、いつ頃出来たものかは不明。

 中も空っぽで、何の神様が祭られているのかはさっぱりわからない。


 ただその本殿を無視して、片隅の「小さな祠」にお供え物を置いているのだ。


 その内容も、お菓子・果物・おにぎりは、まあわかる。


 、カレーライス・ラーメン・フライ盛り合わせ・唐揚げや刺身定食だったりするとどうだろう。

 もはや両親の常識を疑わざるを得ない。

 ちなみにそれらはカラスや野良猫など、野生動物の糧となるわけだが……さすがにカレーは手付かずだった。

 まあ、片付けも両親がやっているので気にしないようにしている。


 本殿に向かい、鈴をガラガラと鳴らしてパンパンと拍手を打つ。

 ただそれだけが私に課せられた任務である。

 正式には「お礼参り」というらしい。

 呼び名の通り、祈願成就に感謝して行う礼拝だ。

 けっして卒業式の日に校舎裏で恩師に報復行動を行うことじゃない…… 

 いや、私も最近までそう思っていたけど。


 階段を駆け上がったおかげで、すっかり体が温まった。

 今日は日差しもあって気持ちがいい。

 両手を掲げて伸びをする。

 そう昨日も晴れていたけど、今日はなんだか日差しが暖かい……?


 そう考えた瞬間、背中に冷たいものが流れた気がした。

 冷や汗、悪寒、いや違う。これはそう『嫌な予感』だ。


 昨日より日差しが暖かいのは何故か。

 答えは太陽の位置が高いからだ、あきらかに昨日より高い。

 太陽は時間の経過と共に上ってきて、やがて南から西へ降りて行くわけで……。

 つまり今の時間は……何時?




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