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第0話 地獄より愛を込めて

昔から物語を考えるのが好きでしたが、書いてみたのは初めてです。

色々と拙い部分が有るとは思いますが、笑って許すか無視してください。

 真っ暗でまるで深海に居るようだ、ここに来てどれくらい経ったのだろう。

 

 俺が九条竹流(くじょうたける)として生を受け、確か18年だった。

 もうそれより長い時間ここに居る事は間違いない。


 以前、師である月読尊(つくよみのみこと)にちょっとばかし「地獄」という場所の存在について聞いたことは有ったが、ここが正にそうなんだろうと確信するまでは、そう時間は掛からなかった。


 何せ先祖伝来の呪符を使って「門」を開き、溢れ出る前に閉じたのは、他ならぬ俺自身だし、俺の周りに漂う白いホタルの様な物が、生物が有する所謂「魂」である事だけは知っていたからだ。


 それは野球のボール程の大きさから針の頭ほどまで様々……。

 まあ、小さい物の方が圧倒的に多いが、これが聞いていた「蟲魂(むしだま)」ってやつだろう。

草木や小さな昆虫なんかの魂だったかな、確かに地上に居た時見たこと有る。


 そして大きくてもゴルフボール位のやつが「狗魂(いぬだま)」だったな。

 読んで字の如く、犬猫や動物の魂だ……子供や仲間に愛情を注ぐ程度の知能を持った動物がこれにあたるらしい……


 そして、たまに流れてくるそれ以上の大きい奴が「人魂(ひとだま)」か……

 大きさに関係なく、大概汚れているからすぐわかる。


 師曰く、生前どれほど悪行を重ねたかによって、汚れ方が違うらしい。

 しかし面白いもので、悪行と言っても本人にその意識が無ければ汚れないんだとか?


 つまり、他人にとっては非道な行いでも本人にとってそれが正しい行いで、良心の呵責を感じないのなら、それほど汚れることは無いらしい。


 罪の意識が無ければ何をしても良いみたいで、実に不公平だと思わなくもないが、そればかりはどうしようも無いらしい。

 まあ、そういった連中が現世での俺の周りにも少なからず居たのは事実だ。


 この汚れた部分を「(けがれ)」と呼ぶそうだ。

 この穢を纏った魂達は、この地獄で穢を落としていく。

 つまりまっ更な状態だ。


 綺麗になった魂は、落とした穢の分だけ小さくなっちまう。

 人魂から狗魂くらいになっちまうのも結構多い。

逆に狗魂や蟲魂は最初から綺麗なもんだ、その上周りの小さな魂とくっついて、大きくなるやつもたまに居る。


 て事は、次に生まれるときは人間から犬や猫、犬猫から人間なんて逆転現象も有るんだろうな……どちらも頑張って欲しいものだ。


 しかしこの地獄ってところも、甚だ理解し難い。

 俺は生きたまま、肉体を持ったままここに居る。

 ずっと観察しているが、俺と同じような奴は一人も見たことがない。


 身動きはおろか、呼吸もしていないし心臓も動いていない。

 当然腹も空かないし眠くなることも無いのだが、どうやら俺は時間すら止まっている様だ。

 つまり肉体を失う事もないので死ぬことも出来ない、魂だけになることが出来ないらしい……なのに意識だけは失わず、こうやってただ流れてくる他人の魂を見続ける……これは実に辛い。


 最初は死ぬのが嫌だった。

 何とかして地上に戻れないかと考えた。

 しかし考える事は出来ても指一本動かすことは出来ないし、記憶にある師の教えでも地獄に生き身で落ちた者は居ないし、当然戻ってきた者も居ないと言っていた。

 つまり前例が無いので対処法も分からない、お手上げ状態だ。


 次に、やがて身体が腐り果て死ねるだろうと考えた。

 なんとか転生したいと思ったわけだが、時間が進まないのだから、これもダメ。


 話に聞いた「針の山」や「地獄の鬼」やらが居ればまだマシだったのだが、生憎ここには俺一人だ……。

 誰に質問したくても、聞くことも喋ることも出来ない。

 話し相手の一人も居ない……ホント地獄だ……


 この他に何も無い空間で、唯一の楽しみというか希望というか……寂しさを紛らわせてくれるのは、二人の友の声。


 実際声が聞こえるわけじゃないが、そこに居て俺を待っていてくれるのがわかる。

 気配……みたいなものだけ感じると言ったらいいのか、時折近くに来てくれている様で、今どんな気持ちでどんな状態なのかが少しだけ感じ取れる。


 かつて共に学び、共に遊び、喧嘩もした懐かしい友。

 そしてあの日、俺と共に戦ってくれた……俺は彼らを救うため、禁忌を犯したことを後悔していないし、自分だけが地獄に落ちた事を恨んだり妬んだりもしていない。

 全て自分の選んだ結果だ。


 生きていたって俺の愛した「彼女ひと」は既に居ない。

 生きる意味を失くした俺は、彼女の後を追おうとしたのだ。


 しかし残念ながら、ここで彼女の魂に会うことは叶わなかった……。


 唯一後悔している事は、こうなる原因を作った「奴等」を完全に斃すことが出来なかった事だ。

 奴等は今何をしているのか、諦めてなんかいないと思う。

 過去の記憶を持ったまま転生し、生まれながらに明確な意志を持っていた奴等は決して諦める事なんて無いだろう。


 しかし、もう俺にはどうすることも出来ない……それだけが心残りでならない。


 今の俺には出来るのは、二人の友の幸せが少しでも長く続くことを祈るだけだ。


 随分前に、女の子が生まれたようだ。

 きっと彼女に似た美人になるだろう。

 あいつが父親というのが可笑しいが、向こうではいつまでも悪ガキってわけじゃないだろうし、立派に彼女と娘を守っていることだろう。


 その少し後、父さんが死んだようだ。

 二人の悲しむ感情が伝わって来たが、気に病まないで欲しい。

 幸い、父さんの魂が俺のところに来てくれた。

 穢を祓って生まれ変わる前だったのだろうが、二人にとても感謝していた……いや、3人か。

 二人の娘が自分の孫のようで幸せだった、俺が居なくなっても寂しくはなかったそうだ。


 この時分かったが、穢は魂にとっての記憶みたいなものらしい。

 親父の言葉(きもち)が俺に伝えられると同時に、魂が綺麗に磨かれていくのを見たからだ。

 この事は、師も知らないだろうから、帰ることが出来れば自慢してやりたいものだ。


 だが地獄で前世の記憶を失くすと云うことは、「奴等」は地獄に堕ちることなく転生を果たしたと云うことだろうか、最早確かめる術など俺には無いのだが……


 最近二人の娘がよく近くに来るな……なんだか知らないけど、いつも元気そうだ……どんな娘なんだろうか、会ってみたいな……


 おっと、こりゃ久々に見たな、バスケットボールぐらいか……いやかなりでかい。

 クジラの魂ってわけじゃないな、かなり汚れているから差詰めどこか大会社の社長や会長といったところだろう。

 もともと大きいのか、それとも前世で相当大勢の人間に慕われたのか……それなりに汚いことも沢山やってきたのだろうな、この「神魂(かみたま)」は。


 神魂っていうのは、別に神様を指すわけじゃない。


 大抵の場合は、間違いなく人間だ……まあ、極稀に獣の場合も有るらしいが、幸い俺は見たことがない。


 人魂でも大きさは千差万別、テニスボールくらいからハンドボールくらいまでが一般的な大きさだ。


 生まれた時は大抵小さいが、体や心と共に魂も成長するらしい。

 身体は飯を食えば大きくなるが、魂はそうはいかない。

 魂を大きくするには「敬われる」事が必要だそうだ。


 つまり他人から慕われたり、尊敬されたり関心を集めたり、所謂人気者になることらしいが、言われてみれば納得できる部分も多い。


 身近な例だとアイドルなんかがそうだ。

 ファンが多ければ多い程、その存在感というかオーラが違って来るものだ。

 宗教の教祖や大企業の創業者とかもそうなるのだろう。


 尤も、その人望が離れてしまえば急激に萎んだりもするらしいので、気をつけなければならない。

 だが大抵の人間は自分の魂の大きさなんて考えもしないだろう。


 魂が大きくなれば、その力も強くなり、様々な能力を持つことができる。


 しかし大抵は知らずに力を使うので、殆どが「幸運」を得るために消費してしまう。

 まあ、「金持ち」になろうとするそうだが、それも当然だろう。


 更に度を超した人望や尊敬を集め、敬われ過ぎて巨大になった魂は「神魂」と呼ばれる。


 これは計り知れない(エネルギー)を持つようで、望めば奇跡のような能力を得ることが出来る。


 そしてその神魂を持った人間は、実は結構居る。


 かく言う俺もその一人だった。


 俺はその事と、使い方を師に学んだ……と言っても、こう使えと強制された様な物だったが、俺は遠い前世で師に大きな借りが有るらしく、魂そのものに逆らえない呪いが掛かっていたので仕方が無い。


 そのおかげで今こうして地獄に居る羽目になった。


 因みに師の能力は、この国を邪な呪詛から守る事らしいが、日本列島全域をそのオーラで覆っているバリアといったら良いのだろうか。

 外からの呪いは弾き返せるものの、たまに内側から発生する呪詛には対応できない。

 その為、手足となって動く者が必要だと言っていたが、前世の記憶も無いのに借りを返せと言われても知ったこっちゃないし迷惑も甚だしい。

 前世の俺はいったいどんな借りを残したんだ?


 しかし暇だ……何もすることが無いなんて言ってるうちは幸せな方だ。

 文字通り「何も出来ない」事が、こんなに辛いとは思わなかった。

 こうやって考えていても、実際俺の脳は動いていないのだろう。

 魂で考えているだけのようだ。

 そうでなきゃ、とっくに発狂している。


 この先何年こうしていれば良いのだろう。


 時が経てば二人の友もやがてここに来る……。

 そうすると、俺の地上との繋がりが絶たれ、俺の身体は何処かへ流されて行き、永遠に地獄を彷徨うのだろうか……

 

 畜生、月詠の野郎は何やってんだ、弟子を地上に戻そうとはしないのか? 

 散々こき使った挙句にこの仕打、俺は産業廃棄物じゃ無え!

 てめえならそのくらい出来るんじゃ無いのか!?


 …………って出来ないのかな……やっぱり。


 地獄(ここ)に来てからは、あの鬱陶しかった思念が一度も届かない。


 聞こえるのは友の(こころ)だけだ。

 それも時折、ほんの僅かな間だが、本当にありがたい。


 しかし、俺に対する詫びばかりじゃ心苦しいよ、本当に気にするなよ……。

 もっと楽しい事を考えろよ……地上では今何が流行ってるんだ?

 ……二人の惚気でも聞かせろよ……子供のことや仕事の悩みでも良いさ。

 お前たちの日常が幸せなら、俺も地獄に堕ちた甲斐があるってものだ。


 だけど………………


  ああ……もう一度、一日でも良いから帰りたい……誰でも良い、ここから出してくれ。


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