黒腕の乙女ー5
瞬間、周囲に衝撃が走る。
テッシンは両腕と両足を振るい、ソリューはメイスを巧みに操り対抗する。
顔面狙いの右ストレートは左手のメイスに防がれ、脇腹狙いの左回し蹴りは交差させたメイスに防がれる。
かと思いきや、胸板を狙ったスイングは左腕に弾かれ、突き出したメイスは右足で捌かれる。
一進一退、攻守が入れ替わり立ち代わりに変わっていく。
(こいつ…)
だがしかし、ソリューにはある思いがあった。
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「ほほう、なかなかやるものだ」
「あの問題児のことですか?」
「いや、娘の方さ、ここまで彼に食らいつくとはね…」
アベルは、わけが分からないよという顔をしてヴェルトロの方を向く。
「と、おっしゃいますと?」
「今は二人とも様子見程度、だが彼は本気を出していない、娘はそれに気づいてはいるようだが…」
(あれよりひどくなるのかよ…)
キリキリと、少しずつ胃が軋むのを感じるアベルであった。
@@@
「本気を出さないのか?」
「おいおい、それはお互いさまだろう?」
「ハッ」
メイスの先端をテッシンの方に向けるソリュー。それに対してテッシンは肩を竦め、ソリューがメイスを振るう。
メイスは右腕に弾かれ、宙を舞う。
ぞくッ。
瞬間、ソリューは身の毛のよだつような殺気を感じ取りその場から飛びのく。
「……」
ソリューは汗でじっとりとした頬をぬぐう。
あの時感じた殺気はおそらく本気の一部なのだろう。あれほどの濃密な殺気を今まで感じたことはない。
過去に討伐したことのある災厄級モンスターでもあれほどの殺気は出せないだろう。
「なるほど…確かに出したくはねえわけだわな…おれもまだ未熟か…」
「なんだ、もう終わりか?」
「いいや」
そう言って、ソリューは腰を深く落とす。踏みしめた地面に徐々にヒビが入り、えぐれていく。
形容するなら、限界まで張り詰めた弓矢。とびかかる機を待つ獣。
「こいつでラストだ、受け取ってくれよ?」
「無茶を言うな」
そう言って、『流河山水の構え』をとるテッシン。
「つれないこと言うな―――――――――よッ!」
ソリューが一本の矢のごとく飛び出す。
『槌業――――――羅衝ッ!』
羅衝――――――――全力全壊で、何も考えずただ単純にメイスを振るう技。
単純、ゆえに威力はすさまじい。
『戦法・七十八番、緋弥帰波蝕ッ!』
それに対し、足の指先からつむじの毛一本に至るまで全身の捻りを加えた拳を叩き込む。
拳とメイスがぶつかり合った瞬間、訓練所内部を暴風雨のような衝撃が襲った。




