慣れの問題、まさかの再会-1
店のドアが開き、ケメルが入口のほうを向く。
「…おや、珍しいね、何か用かい?」
「腕を診てくれ」
そう言って、右腕を差し出すテッシン。その光景にあきれたのか、ケメルは溜息を吐いた。
「いつから僕は医者なったんだい?」
肩をすくめ、やれやれといった表情で首を振るケメル。
「あの時、ダタルのおっさんが頼りにした時点で」
「そんなものは推測でしかない」
「なら、なぜ道具を使わず見ただけで『魔力不足だ』と断ずることができる」
通常、魔力量を調べる際には”専用の道具”か”専門のスキル”が必要である。
あの時、ケメルは専用の道具を使わずに、一見したのみで倒れた少女の症例を言い当てた。
つまり、彼女は後者ということとなる。
「…まいった、返す言葉がないね、まあ、あの時は仕方がなかったというか…まあいい、右腕を診ればいいというだけではないのだろう?」
「最近、腕の振りが遅いうえに、どこかギクシャクしているのでな」
「ふむ…それは、いつ頃からだい?」
「この間、地下水道の調査に行った時だ」
「なるほど…おそらく、その義肢が君に合っていないんだね」
「どういうことだ?」
「ああ、通常、魔導式欠損補填甲冑…つまり、こういった義肢の類は、使用者に合わせてチューニングされるんだ、けど、君は魔力を使えない代わりに別の力でこれを動かしている」
「つまり…俺とこの義肢の間にずれが生じるのは、この義肢が俺の氣とあっていないからということか?」
ケメルは、コクリとうなずく。
「そうだね、なら、早速チューニングするかい?」
「頼む」
即答。まあ、テッシンとしては願ったりかなったりしてやったりなのだが。
そうして、テッシンとケメルは別室へと入っていった。
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「さて、それじゃあその”氣”というものを見せてくれ」
「分かった…わかりやすい形でいいな?」
「できる限り複雑でない方で」
「オーケー」
テッシンは、左手のひらを天井に向け、目を閉じる。
すると、手のひらに小さな橙と朱と金のまじりあった色の火がともり、どんどんとそれが大きくなっていき。小指の先ほどの火が最終的には轟轟と燃える炎となったが、不思議と熱さを感じることはなかった。
『氣炎』
氣を目に見える形で発現させる際の、最もポピュラーな形である。
「こんなものでいいか?」
「十分すぎるほどさ」
テッシンの問いに、ケメルが笑みを浮かべて答える。
ケメルは、懐から方陣の書かれた羊皮紙を取り出し炎の上に持っていく。
炎にさらされた羊皮紙の方陣が炎と同じ色に変わる。
「オーケー、そのぐらいで十分だ」
しばらく羊皮紙をさらした後、テッシンにそう告げる。
テッシンは、手のひらで燃える炎を握りつぶしてかき消した。
ーーー
「よし、チューニング完了だ、使用感はどうだい?」
テッシンの義肢を装置につなげ、ゼロコンマ秒もかからぬうちにコンソール操作を終えたケメル。
「…シィッ!」
半信半疑のまま、右腕を振るう。
続けて、右脚、左脚を振るう。
今までとは、比べ物にならないほどに義肢の反応が高くなっている。
「…問題ないな」
「それは何より、あ、お代はいらないよ」
「いいのか?」
「金をとるほどの仕事じゃない、それでいちいち金をとれば大事なものを失くすのさ…」
ケメルは一瞬遠い目をする。テッシンは、それを追及しなかった。
「そうか…世話をかけたな」
「お安い御用さ」




