所有者として
「はあッ…はあッ…!」
深い森の奥。さらさらと水の流れる小川のそばで、メルが膝をつく。
「やっぱり…だめか…」
汗を顔中に浮かべ、忌々しげに歯噛みするメル。
原因は、彼女の”眼”にあった。
恩人のそばにいた少女は、あの人に教えを乞うて強くなった。
姉は、あの人に負けて以来、自分を鍛えるようにした。
最近、彼女の周りの者たちが強さを上げている中、自分一人だけが弱いままなのだ。
彼女は考えた、なぜ自分だけが弱いのか。それは、この”眼”を制御できていないからなのではと考え、制御できるようにここで修業を始めたのだが――――――――――――――。
「―――――――――どうして、使えないの…ッ!」
使えるのは今まで使っていた真贋判定能力のみで、一向に”眼”を使役できず涙ぐむメル。
彼女は理解していた、この”眼”にはまだ先があると。
だがしかし、どうしてもその先に行けない。
「強く…ならないと…!」
彼の為に強くならねば…。強く――――――――――。
「今のお前では無理だな」
「え…?」
突然、木陰から声がかかる。
そこにいたのは、恩人である、テッシンその人だった。
「フドウ…様…?」
今まで優しかった恩人の変貌に、メルは戸惑っていた。
「お前は、何のために強くなりたい?」
「フドウ様を守るために、です!」
テッシンは、その言葉にため息をつく。
「だったら無理だ、一生かかってもお前は強くなれない」
「どうして…ですか…?どうしてッ!」
メルは涙を流して、震える声でテッシンに吼える。
ここで引けば、大切な人に、自分を否定されたのを認めたような気がして。
「お前に大切なものを捨てる覚悟があるか?命を捨てる覚悟は?」
「…ッ!」
それを問われたとき、メルは言葉に詰まった。
「答えが出るまで待ってやる」
そう言って、テッシンは近くの切り株に座り込む。
メルの中で、白黒二色の感情が渦を巻いて混ざりあう。
訳が分からなかった、なぜそんなことを聞くのか。
いや、頭で理解していても、感情がそれを許さなかったのだ。
この恩人は、自分を試している。
何かを捨てれば、力が手に入る。
しかし、それは喪失を意味する。
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しばらくうつむいた後、メルは、力強い、まっすぐな瞳でテッシンの方を向く。
「私は………力を取ります!守るべきものを捨てないままにッ!」
その答えを聞き、テッシンの顔に笑みが浮かぶ。
「ならばよしッ!」




