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「さて、先ずは色々確認しようか」
お腹も気持ちもほんのちょっとだけど落ち着いた頃、絢汰が切り出した。涼風は姿勢を正して絢汰を見つめた。
先ず今日の新聞を絢汰が出す。全国紙、地方紙、経済紙、全て平成9年5月2日のものだ。涼風のいたはずの世界から18年前になる。
続けて絢汰が自分のパスポートや保険証を出す。写真を見れば本人に間違いないように見える。だが生年月日から計算すれば、涼風のいた時代だと29歳か30歳になるはずだが、絢汰はどう見ても子供に見えるし、発行日から見て間違いないだろう。
続いて涼風の名前や生年月日を再度確認するため先程の身分証や財布を取り出しお札や硬貨、様々なカードを見せたが怪しいものではない。
フリージャーナリストが書いた文庫本は世界情勢や経済、宗教、歴史、科学、教育、病気のこと等が分かりやすく説明された教養本で、絢汰から見れば明らかに知らないおそらく未来のことが書かれている。発行日は未来の日付だし著者の現在の肩書きが過去として記載され、紹介や引用文献参考文献も未来の年号が色々記されていた。
絢汰の興味を引いたのは画面の大きなスマホ、薄っぺらなタブレット、小さな音楽端末だった。涼風が操作するのを食い入るように見つめる。Wi-Fi環境にないし、時代も違うためかネットには繋げなかったが、そのサイズ薄さ画面の美しさ、タップするだけで画面が変わったりキーボードが画面下部に表れたり、またそれがそのまま小型化されたようなスマホが携帯電話だと言うことにも驚いた。
「写真も撮れるんだよ。でも………ちゃんと写るのかしら?」
「試してみよう。どうやって撮るの?」
涼風は操作すると絢汰を撮影してみた。すぐに確認するとちゃんと写っている。横から覗き込む絢汰に簡単に説明するとすぐに理解して涼風を撮影してくれる。そのままスマホを受け取り今度はツーショットで何枚か撮ってみた。
どうやら二人共にちゃんと写るらしい。
「その写真どうするの?プリントできるの?」
「いつもはパソコンに保存してるんだけど……どうだろう。取り込みできるかな……」
絢汰のパソコンに向かいコードを繋げてみたが残念ながら画像の取り込みは出来ないようだった。
もう少し自分に知識があれば何か方法を思い付くかもしれないが機械系にはめっぽう弱い自覚はある。ごめんねと謝るしかない。
絢汰は非常に残念がったがそれでも未来の玩具に夢中だ。最初は恐々触っていたものの、すぐに慣れ使いこなしている。
今現在存在しないはずの未来の便利な様々な道具を子供に見せて使わせているのは果たして良いことなのかいけないことなのか、そんなこともちらりと過ったが既に見せてしまったものだし今更感は拭えない。ただの小学生だし…子供だから…まあいいか…と思うことにした。実際にはただの小学生ではないのだが涼風に知る由はない。
ゲームは出来ない地図も見れない検索も出来ない。ネットに繋げないと不便だし面白くない気がするが、絢汰には関係ないようで次々と色々質問を繰り出してくる。涼風は気付かぬうちに様々な未来の情報を与えてしまっていた。