7お部屋初訪問
庭を回って涼風を屋敷奥の和室縁側まで連れて行くと、ここで待つよう言い聞かせて、絢汰は玄関へ戻りベルを鳴らした。
すぐにドアを開けて迎えてくれたのは敷地内の離れに住む家政婦の信乃だった。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。今日は信乃さんだけ?他の皆の予定は?」
いつも通り挨拶すると家内のことを尋ねる。祖母のような年頃の信乃はこの家の使用人を束ねる存在だったが、少し前にその仕事を信乃の長男夫婦に任せ、今は絢汰の世話係が主な仕事だ。ばあやみたいなもので礼儀作法には厳しいが絢汰には甘い。いつもにこやかに絢汰の好物を並べてくれる。
「あらかたの仕事は終わりましたから皆さんには下がっていたただきました。何かあればすぐに呼びますが、今日からお嬢様はいらっしゃいませんし、旦那様と奥様は会食らしくて、少し遅くなられるそうです。お夕飯は坊っちゃまお一人ですが……」
「大丈夫。遅くなるって言っても帰って来るんだし、一人でも大丈夫だよ。夕飯作ったらいつもの時間で上がっていいから。明日から連休だし父さん達が帰って来るまでちょっと読みたい本もあるし。あ、そうだ!ちょっと多めに夕飯作ってもらえる?」
「はいはい。お部屋で摘まめるようなお夜食もお作りしますね」
「ありがとう。よろしく」
そのまま絢汰は洗面所に向かい、信乃が台所に戻ったのを見図ると涼風が待つ和室へ向かった。素早く障子を引き鍵を開けると涼風を迎え入れ、靴を持って一緒に二階へ上がった。
絢汰の部屋は一番奥で、これが子供部屋?って思うくらい広く、きちんと整えられたセミダブルのベッドとシンプルな机、その横には大きなデスクトップのパソコンがあった。クローゼットルームは広々として片面は書棚になっていた。クローゼット入口横には梯子がぶら下がっていて上はロフトになっている。
「とりあえず、そのへんに座って。何かの時はクローゼットか梯子登って隠れてね」
にやりと笑うと鞄を置き、おやつを取りに出て行くとすぐにお盆を抱えて戻って来た。
500ml.のオレンジジュースと水のペットボトルとグラスが一個。手作りらしいドーナツやカップケーキ、クッキー。
それを見て涼風もリュックを漁り、ミニサイズのスナック菓子や飴を差し出す。水のペットボトルもあった。
絢汰は早速目新しいスナック菓子に興味を示す。知っている菓子でもパッケージや袋のサイズが違っているし個別包装になっていた。
「味は変わらないけど、いちいち面倒臭いな。ゴミも増えるし」
「まあね。 でもいっぺんに食べきらなかったり皆で分ける時は便利だよ。残っても風味が落ちないし」
「そっかぁ……」
しばらくは現状から逃避するかのように菓子を咀嚼し飲み込む。他愛ないお喋りを楽しみながら。