5繋いだ手
「とりあえず、どこか行こう。立てるか?」
少年が手を伸ばしてくれたが、どうしていいかわからない。ぼんやり少年の顔を眺める。見ず知らずの少年。しかも少年から見たら自分は変なことをほざく不審者だ。そういえば、校門前にガードマンが常駐していないし警備室がない。まだ不審者対策が強化される前なんだなとぼんやり思う。涼風の躊躇いをどうとったのかわからないが、大丈夫と言うように笑顔で手を伸ばしてくる。でも決して涼風には触れない微妙な距離感。あくまで涼風から触れてくれるのを待っている。
「あ、そうか、ごめん。名乗ってなかった。俺、ケンタ。しゅちょうけんた」
朱鳥絢汰と書かれた鞄の裏側を見せながら自己紹介する。
「しゅちょう…けんた君?」
「そっ。朱鳥って大昔、大化・白雉の次の三番目の年号なんだって。変わってるだろ?生まれてこのかた同じ名字のヤツに会ったことないよ」
「そうね。初めて聞いたわ。よろしく、絢汰君」
「絢汰でいいよ。よろしく、涼風!」
そう言いながら絢汰が涼風の手を握って、ぶんぶん振る。
「ちょっと、私のほうが年上!なんで呼び捨て?」
「生年月日から言えば、俺のほうが9歳年上」
そう言われてしまえば涼風には言い返せない。
「さあ、立って。ここにいてもしょうがない。どこか行きたいとこある?」
言いながら絢汰は涼風の手を掴んで、ぐっと引っ張る。そのまま涼風の手を引っ張って歩きだした。どうやら駅に向かっているようだ。
どうしよう……一瞬躊躇したものの、先ずは確かめたい。
「あの……家に帰りたい。帰ってみていい?」
「うん。そう言うと思ってた。ここから近い?」
「電車で一駅」
「じゃあ行こう!」
繋いだ手が頼もしい。相手は小学生なんだけど、良いのか私?でも、今はあまりに心細くて繋がった暖かい手が嬉しく有り難かった。
駅を後ろに歩いていた時には気付かなかった違和感の正体は、こうして駅に向かって歩いていれば明らかだった。
そういえば、私が小さな頃は順番にあちこち改装工事してたっけ。ややこしいくらいあちこちお店や通路がその度に変わったっけ。
券売機前でふと気になった。平成10年以降の硬貨は使えるのかしら?すると絢汰が磁気カードを差し出した。なんだか小学生にたかってるような気がして気が引けたが、ここは有り難くお借りし代わりに同じ金額の硬貨を返した。その中には平成10年以降の硬貨も混じっていた。
「ホントに未来から来たのかもなぁ〜」
硬貨の偽造なんて面倒で効率が悪く、しかもこんなに綺麗に沢山の年度作るわけないよなぁ〜と呟く。
一駅なんてほんの二分、すぐに隣駅に着いた。
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