涼風の18年
三歳の誕生日を過ぎた年末、涼風の一家は新しい家に引っ越した。弟が生まれマンションでは手狭になったのと涼風の通園を考えての決断で、母親の趣味でお洒落な洋館、イングリッシュガーデンには通いの庭師が手入れを怠らず四季折々色とりどりの花々を咲かせていた。
春、幼稚園に通い始めると涼風はすぐに沢山の友達ができた。特に仲良くなったのは同じ方向に帰る近所の咲希ちゃんこと江東咲希で、咲希には9歳・5歳・2歳違いの兄が三人もいた。さすがに末っ子だからか、咲希は人見知りせず要領よく立ち回るニコニコ笑顔のしっかりさんで、おっとりタイプの涼風とは対称的で回りをさばいていく。
兄三人も妹同様に涼風を可愛がってくれた。小さな頃は遊び相手に、大きくなってからは勉強も教えてくれた。
涼風の母も先輩ママの咲希の母を頼りにし家族ぐるみの付き合いが始まった。
咲希の兄達は頼もしく、運動会に来てもそこらの煩いちびっこをひと睨みで大人しくさせるし、弁当を食べ終わって誘いに来る幼児まで近付けさせない。お泊まり保育や色々な園行事、最初が肝心と普段の送迎まで何かと顔を見せた。大人達は妹思いの良いお兄ちゃんねぇとニコニコしている。
涼風達が小学生になっても六年生と三年生に兄達がいて、妹思いの兄達は妹とその親友の守護者として睨みを効かせていた。いたずら盛りの同級生の男の子達も咲希の兄達を恐れて余計なちょっかいはかけて来ないし、咲希が切り盛りする場は大人しい女の子の避難場所にもなっていて、涼風の回りはいつも華やかだった。
中学校に進学しても同じ小学校からの進学組が多く、矢張咲希の兄が三年生と隣の高校にいて、部活動を通して先輩後輩を意識しだす年齢だからか無茶をして来る者はいない。
新しい友達は沢山できたし、挨拶等で声をかけて来る先輩もいて涼風の回りは賑やかになったが、暫くすると落ち着いて充実した学校生活を送ることができた。
中学 高校は私服だったので一部の子達は華やかだったり個性的な服装で自己主張していたが、涼風は母の好みの清楚なワンピースが多く、小柄で華奢な体型もあってまるでお人形さんのようで、実はちょっと浮いていた。
派手な服装より余程目立っていたのである。
お年頃にもなれば異性の話も出て盛り上がるのだが、男友達といえば咲希の兄達や同級生は小学校の延長で浮いた話にはならない。中学校からの新しい友達に期待したものの、あっという間に何となく落ち着いてしまった。中高六年間同じメンバーなので、三年後に期待出来ないのが悲しかった。
通学中のナンパもないことはないが、それは一緒にいる咲希がさっさと撃退してしまうので結局出会いはない。
大学受験は自宅から通える女子大にした。共学にも憧れたが、通学時間と授業料他諸々を並べてみれば、ほとんど迷わなかった。
咲希も同じ学部を志望していたので二人で勉強していれば、また兄達が家庭教師をかって出た。さすがに涼風も気が引けて報酬を申し出たが、涼風は妹も同然で妹からお金は受け取れない、咲希と仲良く一緒に進学して今後もお付き合いしてもらえたら充分だと受け取らない。
咲希の兄達はそれぞれ国立大の法学部、医学部、工学部に進学し長男は弁護士に次男三男はまだ在学中で非常に優秀な家庭教師だった。
勉強に余裕があったので趣味やお稽古事にも時間が取れた。小さな頃から習っているピアノやお茶お花、母の趣味?みたいなフラワーアレンジメントも咲希と一緒に楽しんだ。
大学は文学部に入り、歴史考古学のサークルに入った。発掘にでも行きそうなイメージだが実際は古事記や万葉集等古代文学を読み耽り古代の世界に思いを馳せ、それはそれで楽しい時間を過ごせた。
コンパも行った。咲希の兄達が待ちかねていたかのように色々紹介企画してくれたし、医学部や有名国立大と聞き女友達も喜んで参加した。それに彼らのお墨付きがあれば安心感もあった。咲希はちょっと嫌な顔をしていたが………でも、なかなか恋には発展しない。
ところがある時、別の大学との交流会で新しい出会いがあった。二歳年上の院生で涼風に興味を持ったのか積極的に話しかけてくる。そんなことは初めてだったので戸惑った涼風を気遣うところもあり、爽やかイケメン風で、話してみれば穏やかな感じで好感が持てた。
何回かの交流会を経て二人の距離がぐっと近付いたというのに、折角二人で会う約束までしていたというのに、間の悪い時ってどうしてこう色々重なるんだろう………タイミング悪くバタバタとトラブル続きで会えないまま次の交流会に行ってみれば
彼の腕には色気たっぷりの綺麗なお姉さんがぶら下がっていて、彼の腕に自分の胸を押し付けるようにして、涼風を見て鼻で笑った。よくある光景だ。
彼の方を見れば、気まずいのかスッと目を反らした。
涼風にだってプライドはある。一生懸命平静を装いその場は過ごした。
読了ありがとうございました。
江東4兄妹に独白させたら、ネタ山程上がりそうです。でも、きりないかなぁ〜