12別れ
楽しい時間はあっという間に過ぎ、二人は神社横の山道入口まで来ていた。
並んで最後の写真を一緒に撮ると、涼風はメモリーカードを取り出しアダプターと共に絢汰に渡した。
「色々ありがとう。あと何年かしたら、このメモリーカードの中のデータを見ることが出来るはずだから、一緒に撮った写真や動画も見れるはずよ」
「涼風は?」
「私はスマホの中にちゃんと記録されてるから大丈夫」
とアルバムを開いて見せる。
これを見て絢汰のこと思い出すかな……感傷に浸りそうになるのを慌てて引き戻すと笑顔を張り付ける。
「ここでいい……」
ずっとついて来そうな絢汰とどこで別れるか、一緒に未来に行ったら困るし……それならここで……ここからは一人で登って一人で降りて来る。昨日もそうした。
「待ってるからな。ここでちゃんと待っててやる」
「18年後?」
「ああ、18年後、ちゃんとここで待っててやる」
涼風が安心するように言い聞かせるように繰り返す。それが嬉しかった。
「大人になった絢汰君?30歳かぁ〜」
「まだ29だ!誕生日前だし」
「誕生日いつ?」
「6月17日。来月一緒にお祝いしてくれる?」
「ええ、もちろん!」
「楽しみにしてる」
どちらからともなくハグをして見つめ合う。
その時、絢汰の顔が近付いて唇と唇が触れた。それはほんの一瞬でまた離れていく。
「待ってるからな」
もう一度囁くと名残惜しそうに離れ、涼風をくるっと山の方向へ向け
「行って来い!」
と背中を押した。
「ありがとう。またね」
涼風はやっとそれだけを言うと前を向いて歩き出した。
18年は長い。まだ小学生だ。それが大人になって、30歳なんて気が遠くなるくらいずっと先の未来。覚えてるなんて難しい。きっと忘れてしまうだろう。
あれだけの美少年、女が放っておくわけがない。すぐに彼女や恋人が出来るだろう。そしたら本当に忘れられちゃうのかなぁ……
すき……すき……好き…だったなぁ………
流れる涙を拭うと、ひたすら歩く。もう何も考えない!歩いて歩いて歩いて、ひたすら歩くことに専念する。
やがて御神木にたどり着いた。大きな大きな古木は昨日と何も変わらないように見えた。
涼風は昨日と同じように巨木に抱きつく。
絢汰に会えて良かった。
18年前の過去に来て何をした?何が印象に残っているかなんて、絢汰に会っただけ……まるで絢汰に会いにやって来たみたいだ。
「ありがとう。絢汰に逢わせてくれて……」
そう呟いた瞬間、涼風の姿が消えるのを絢汰は少し離れた場所からそっと見守った。
「18年後かぁ……ちび涼風、早く引っ越して来ないかなぁ…」
その台詞は誰にも聞かれることなく木々の合間に消えた。
いよいよ明日、最終話です。