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転生者の事を知ってる?
やっぱりこのアルカって女は!
「そうなのね?! そうなんでしょ?!」
アルカはケラケラ笑う。
「あんたは神様からどんな能力をもらったのかしら? あのキザガキが気絶してから本気を出したところを見ると、普段は一般人として暮らしてます! ってやつやってるの? そぉんなぁの、勿体ないじゃない! 折角それだけの力を持ってて、ふつうに暮らしてるの? ああつまんない! ああくだらない! ああうっざ! 好きなことすればいいのに? 何でも思うがままでしょ? 逆らう奴はぶっ殺せばいいもの? でしょ? でしょ? つまんない、面白くない、面白くなさ過ぎて逆に笑えちゃうわ! あーっはっはっは!」
こいつ狂ってる?
「あら? 今酷いこと考えたでしょ? 考えたわね? 考えたな!?」
何とかしないと。
早くしないと時間が……。
「使命手配犯、アルカ・ラカルト! その子を離せ!」
「あら、治安兵? おっそいわねー。でも、早かったのかしら? あんたと遊ぶ時間なくなっちゃった」
兵士たちがアルカに銃口を向ける。
「本当なら、厄介なことになる前にあんたみたいなのは殺しちゃうんだけど……」
アルカは銃口を向けられているのも気にせず話し続ける。
銃ごときで彼女を殺すことは出来ない。
彼女にとってそれはどうでもいいことなのだ。
「同族の誼で逃がしてあげる」
アルカが僕の首から手を離す。
「けほっ! えほっ……!」
「でも次に会ったら殺すから」
とりあえず、命拾いしたのかな……。
「ふふっ……」
アルカは小さく笑う。
「フラグ立ったかしら? リベンジフラグ立ったわよね?! 私の死亡フラグ立っちゃったかしらねぇ!? あーっはっはっは!」
彼女の笑い声は僕を見下していた。
「……こほっ……」
「もし、そぉんなこと考えてるんだったら、甘いわよ? これは正義の味方が勝つと決まってるお話じゃないんだからねぇ?! っひっひっひ!」
アルカはぐったりしている青銅竜の所へ歩いていく。
「行くわよ青銅竜。怪我は大したこと無いわ」
アルカが青銅竜をポンと叩くと、その巨体がむくりと起きあがった。
兵士たちが青銅竜に銃を向ける。
「グオォォォォォォ!」
青銅竜は両翼を大きく広げ羽ばたいた。
兵士たちが風圧に負けて情けなく転がっていく。
「じやあね。愚図共」
青銅竜は空へ舞い上がり、アルカを乗せてどこかへ消えてしまった。
「はぁ……」
体の力が抜ける。
タイムオーバー。
間一髪と言ったところか。
「君! 大丈夫かっ!?」
治安兵の一人が僕に近寄ってきた。
「私よりあっちの彼を! ドラゴンの尾に打たれたんです!」
「な、なんだって!?」
治安兵の人はクロードの所へ走っていった。
「……」
アルカ・ラカルト。
転生者。
まさかこんな形で自分以外の転生者に会うなんて……。
「負けた……」
アルカの気紛れで命拾いしたけど、本来なら殺されてた。
今頃になって体が震える。
僕が知ってる小説の主人公たちは、どうやって驚異に立ち向かっていただろうか。
僕は、怖い……。
命をかけた戦いが、怖い。
「……」
僕は地面に座り込んで小さくなっまたまま、しばらくその場を動けなかった。
◇
ぼーっと天井を眺めていた。
白いきれいな天井に見えるが、いくつもシミがある。
鼻につく薬品の匂い。
今は慣れたけど、最初は気持ち悪くて仕方なかった。
クロードはあの後意識を取り戻し、病院で治療を受け今は眠っているらしい。
骨折箇所が多く、しばらくは入院するとのことだ。
対して僕は軽傷で済んだのだが、大事を見て今晩は病院に泊まることとなった。
「ユト、欲しいものがあったら言ってね」
僕が入院したと聞いて、フリアは病院まで飛んできた。
「はい、あーん」
フリアは剥いたリンゴをフォークに突き刺し僕の口に運ぶ。
リンゴはかわいくウサギの形に切ってあった。
すぐ食べるんだし、そんなに凝らなくていいと思うんだけどなぁ。
「だ、大丈夫だよ。病人じゃないんだから」
「だーめ! ほら、あーん」
「あ、あーん……」
リンゴが口の中に入る。
シャリシャリしてて美味しい。
「それにしても、無事で良かったわ」
「ん……」
「アルカ・ラカルトなんて……」
「あの人、いったい何をしたの?」
フリアが口をポカンと開ける。
「ユト……、もっと新聞読んだ方がいいわよ……」
活字は苦手だ。
「小さな町があったの。どこ……、とは公表されてないけど。アルカ・ラカルトはその町の住人、およそ200人を惨殺したとされているのよ」
「200……人……」
規模が大きくて全然想像できない……。
「実際に手を下したのはアルカ・ラカルトが従えてるドラゴンらしいんだけど……」
青銅竜。
ドラゴンは高潔な生き物だ。
人など塵に等しいものにしか見ていない。良くも悪くも無関心。
たとえ、相対した人間が己より力を持っていたとしても、犯罪者なんかに力を貸すとは思えない。
なにかあるのだろうか?
「まぁ、そんな話はとりあえず置いといて……」
フリアは箱を横にどかす仕草をする。
「クロードってあの男の子とデートしてたの?」
「うぇっ?!」
な、なんで唐突にそんな話になるの?!
「どうなの? お姉さんに話してごらんなさいな!」
「ち、ちがっ! たまたま街で会っただけだよ!」
「そうなの?」
「そうだよ!」
「ふーん……」
フリア、その目は疑ってるよね?
僕は男だ……、あぁ、もうこの言い訳意味ないや。
内心でいくら否定したところで周りには伝わらないし。
「よし。それならユト。今度私と一緒に出かけましょ!」
「え? それは別にかまわないけど……」
ダメだ。
ぜんぜん話の流れがわからない。
「じゃあ次の休みに、ね?」
「う、うん」
まぁ、買い物に行くくらいいか。
「それなら今日はもう休みましょ! 次の休みまでに元気にならなきゃ!」
「え? え? まだ七時……って、なんでフリアまでベッドに乗ってくるの?」
「今夜は付きっきりでユトの面倒見てあげるわ! え? トイレ? ここに尿瓶がーー」
「そんな事言ってないよ!」
うわーん!
フリアがおかしくなったよー!
いいお姉ちゃんだとおもってたのにー!
「ふふ、ジョーダンよ。冗談」
なんて言いながら服を半分脱がせてるじゃないかー!
「本当に心配したんだから……」
フリアがキュッと僕の服を掴んだ。
「ユトは私の大切な家族。……家族をなくすなんて、私は絶対に嫌……」
「フリア……」
「だから無茶なこと、しないで。ね?」
「う、うん……」
全てを見透かされたようで、胸の奥がギリリと締め付けられた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……な、なに?」
フリアがにっこりと笑う。
「なんでもないよ」
「なんでもあるよ! フリアはどうしてもう寝る体勢に入ってるの?!」
「だから添い寝じゃない」
「さっき冗談だって言ったじゃん!」
「それは尿瓶の話よ?」
うそん……。
「ほら、ユトったら雷の鳴る晩は一人で寝るのが怖くて私のベッドに……」
「そ、それは小さいときの話だよ! っていうかどうしてそんな話しに繋がーー」
「しかもその晩におもらしして……」
「わー! わー! きーこーえーなーいー!」
「もらさないでね?」
「この歳になってしないよ!」
「聞こえてるじゃない」
「う……」
くそう!
小さいときの僕!
恨むぞー!
「うわっ!」
フリアが僕の、首に腕を回してベッドに押し倒す。
「はーなーしーてー!」
「ダメよ。心配させた罰。お姉さんもたまには甘えさせなさい」
「……むぅ」
そう言われたら返す言葉がない。
……無茶はしないようにしないと。
書きためていた所まで追いついてしまったので、更新ペースは落ちるかもです。