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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
最初の異世界人?
9/55

─9─

 転生者の事を知ってる?

 やっぱりこのアルカって女は!


「そうなのね?! そうなんでしょ?!」


 アルカはケラケラ笑う。


「あんたは神様からどんな能力をもらったのかしら? あのキザガキが気絶してから本気を出したところを見ると、普段は一般人として暮らしてます! ってやつやってるの? そぉんなぁの、勿体ないじゃない! 折角それだけの力を持ってて、ふつうに暮らしてるの? ああつまんない! ああくだらない! ああうっざ! 好きなことすればいいのに? 何でも思うがままでしょ? 逆らう奴はぶっ殺せばいいもの? でしょ? でしょ? つまんない、面白くない、面白くなさ過ぎて逆に笑えちゃうわ! あーっはっはっは!」


 こいつ狂ってる?


「あら? 今酷いこと考えたでしょ? 考えたわね? 考えたな!?」


 何とかしないと。

 早くしないと時間が……。


「使命手配犯、アルカ・ラカルト! その子を離せ!」

「あら、治安兵? おっそいわねー。でも、早かったのかしら? あんたと遊ぶ時間なくなっちゃった」


 兵士たちがアルカに銃口を向ける。


「本当なら、厄介なことになる前にあんたみたいなのは殺しちゃうんだけど……」


 アルカは銃口を向けられているのも気にせず話し続ける。

 銃ごときで彼女を殺すことは出来ない。

 彼女にとってそれはどうでもいいことなのだ。


「同族の誼で逃がしてあげる」


 アルカが僕の首から手を離す。


「けほっ! えほっ……!」

「でも次に会ったら殺すから」


 とりあえず、命拾いしたのかな……。


「ふふっ……」


 アルカは小さく笑う。


「フラグ立ったかしら? リベンジフラグ立ったわよね?! 私の死亡フラグ立っちゃったかしらねぇ!? あーっはっはっは!」


 彼女の笑い声は僕を見下していた。


「……こほっ……」

「もし、そぉんなこと考えてるんだったら、甘いわよ? これは正義の味方が勝つと決まってるお話じゃないんだからねぇ?! っひっひっひ!」


 アルカはぐったりしている青銅竜の所へ歩いていく。


「行くわよ青銅竜。怪我は大したこと無いわ」


 アルカが青銅竜をポンと叩くと、その巨体がむくりと起きあがった。

 兵士たちが青銅竜に銃を向ける。


「グオォォォォォォ!」


 青銅竜は両翼を大きく広げ羽ばたいた。

 兵士たちが風圧に負けて情けなく転がっていく。


「じやあね。愚図共」


 青銅竜は空へ舞い上がり、アルカを乗せてどこかへ消えてしまった。


「はぁ……」


 体の力が抜ける。

 タイムオーバー。

 間一髪と言ったところか。


「君! 大丈夫かっ!?」


 治安兵の一人が僕に近寄ってきた。


「私よりあっちの彼を! ドラゴンの尾に打たれたんです!」

「な、なんだって!?」


 治安兵の人はクロードの所へ走っていった。


「……」


 アルカ・ラカルト。

 転生者。

 まさかこんな形で自分以外の転生者に会うなんて……。


「負けた……」


 アルカの気紛れで命拾いしたけど、本来なら殺されてた。

 今頃になって体が震える。

 僕が知ってる小説の主人公たちは、どうやって驚異に立ち向かっていただろうか。

 僕は、怖い……。

 命をかけた戦いが、怖い。


「……」


 僕は地面に座り込んで小さくなっまたまま、しばらくその場を動けなかった。











 ぼーっと天井を眺めていた。

 白いきれいな天井に見えるが、いくつもシミがある。

 鼻につく薬品の匂い。

 今は慣れたけど、最初は気持ち悪くて仕方なかった。

 クロードはあの後意識を取り戻し、病院で治療を受け今は眠っているらしい。

 骨折箇所が多く、しばらくは入院するとのことだ。

 対して僕は軽傷で済んだのだが、大事を見て今晩は病院に泊まることとなった。


「ユト、欲しいものがあったら言ってね」


 僕が入院したと聞いて、フリアは病院まで飛んできた。


「はい、あーん」


 フリアは剥いたリンゴをフォークに突き刺し僕の口に運ぶ。

 リンゴはかわいくウサギの形に切ってあった。

 すぐ食べるんだし、そんなに凝らなくていいと思うんだけどなぁ。


「だ、大丈夫だよ。病人じゃないんだから」

「だーめ! ほら、あーん」

「あ、あーん……」


 リンゴが口の中に入る。

 シャリシャリしてて美味しい。


「それにしても、無事で良かったわ」

「ん……」

「アルカ・ラカルトなんて……」

「あの人、いったい何をしたの?」


 フリアが口をポカンと開ける。


「ユト……、もっと新聞読んだ方がいいわよ……」


 活字は苦手だ。


「小さな町があったの。どこ……、とは公表されてないけど。アルカ・ラカルトはその町の住人、およそ200人を惨殺したとされているのよ」

「200……人……」


 規模が大きくて全然想像できない……。


「実際に手を下したのはアルカ・ラカルトが従えてるドラゴンらしいんだけど……」


 青銅竜。

 ドラゴンは高潔な生き物だ。

 人など塵に等しいものにしか見ていない。良くも悪くも無関心。

 たとえ、相対した人間が己より力を持っていたとしても、犯罪者なんかに力を貸すとは思えない。

 なにかあるのだろうか?


「まぁ、そんな話はとりあえず置いといて……」


 フリアは箱を横にどかす仕草をする。


「クロードってあの男の子とデートしてたの?」

「うぇっ?!」


 な、なんで唐突にそんな話になるの?!


「どうなの? お姉さんに話してごらんなさいな!」

「ち、ちがっ! たまたま街で会っただけだよ!」

「そうなの?」

「そうだよ!」

「ふーん……」


 フリア、その目は疑ってるよね?

 僕は男だ……、あぁ、もうこの言い訳意味ないや。

 内心でいくら否定したところで周りには伝わらないし。


「よし。それならユト。今度私と一緒に出かけましょ!」

「え? それは別にかまわないけど……」


 ダメだ。

 ぜんぜん話の流れがわからない。


「じゃあ次の休みに、ね?」

「う、うん」


 まぁ、買い物に行くくらいいか。


「それなら今日はもう休みましょ! 次の休みまでに元気にならなきゃ!」

「え? え? まだ七時……って、なんでフリアまでベッドに乗ってくるの?」

「今夜は付きっきりでユトの面倒見てあげるわ! え? トイレ? ここに尿瓶がーー」

「そんな事言ってないよ!」


 うわーん!

 フリアがおかしくなったよー!

 いいお姉ちゃんだとおもってたのにー!


「ふふ、ジョーダンよ。冗談」


 なんて言いながら服を半分脱がせてるじゃないかー!


「本当に心配したんだから……」


 フリアがキュッと僕の服を掴んだ。


「ユトは私の大切な家族。……家族をなくすなんて、私は絶対に嫌……」

「フリア……」

「だから無茶なこと、しないで。ね?」

「う、うん……」


 全てを見透かされたようで、胸の奥がギリリと締め付けられた。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……な、なに?」


 フリアがにっこりと笑う。


「なんでもないよ」

「なんでもあるよ! フリアはどうしてもう寝る体勢に入ってるの?!」

「だから添い寝じゃない」

「さっき冗談だって言ったじゃん!」

「それは尿瓶の話よ?」


 うそん……。


「ほら、ユトったら雷の鳴る晩は一人で寝るのが怖くて私のベッドに……」

「そ、それは小さいときの話だよ! っていうかどうしてそんな話しに繋がーー」

「しかもその晩におもらしして……」

「わー! わー! きーこーえーなーいー!」

「もらさないでね?」

「この歳になってしないよ!」

「聞こえてるじゃない」

「う……」


 くそう!

 小さいときの僕!

 恨むぞー!


「うわっ!」


 フリアが僕の、首に腕を回してベッドに押し倒す。


「はーなーしーてー!」

「ダメよ。心配させた罰。お姉さんもたまには甘えさせなさい」

「……むぅ」


 そう言われたら返す言葉がない。

 ……無茶はしないようにしないと。









書きためていた所まで追いついてしまったので、更新ペースは落ちるかもです。

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