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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
最初の異世界人?
7/55

─7─

 あれから5日間が過ぎた。

 結局あれ以来トーヤ君との接触はほとんど持てないまま、彼が異世界から来た人間かどうかも分からないままだった。

 僕はというと、次の接触をはかるため、ひたすらにトーヤ君の課題をこなしていた。

 今のところ、手の間隔は30センチといったところだ。

 これ以上広げると、魔力の糸が切れてしまう。

 難しい。

 っていうか、小学生でもこのくらい出来るって言うんだから、本当に僕のセンスは絶望的のようだ。


「はぁ……」


 いっそのこと、あの能力で魔法を使えるようにしてみようか。

 ふとそんな事を思ったけどすぐに考え直した。

 あれには時間制限がある。

 適当に使ってしまったら、いざという時に僕は対処のしようがない。

 はぁ、この能力本当に使えないなぁ……。

 でも本当のところ、そのいざという時にも不安があった。

 僕がこの能力を使ったのがハグベアのあの一件の時だけだからだ。

 つまるところ、能力の使用経験が足りない。

 きっと応用を利かせることも出来ないだろう。

 それでは戦いになった場合、きっと、絶対、勝てない。

 まぁそうならないためにこうして回りくどいことをしてるんだけど。


「あー!」


 ベッドの上をのたうち回る。


「もどかしい!」


 はぁ、なんか疲れたなぁ。


「……」


 時計をみると午前11時。

 そういえば今日は休みだった。

 ちょっと街にでも出かけてみようかな。

 こっちに来てから街に出かけたことはなかったし。


「よし! そうしよう!」


 僕は早速着替えて街に出かけることにした。











 ランバート魔法学校があるのは『リーンスタリア』と言う街だ。

 リーンスタリアはセンテルディアの中では三番目に大きな街である。

 自然豊かな街で特産物は『ハルルラの糸』。リーンスタリアのすぐ側にある森が『ハルルラの森』と呼ばれているのだが、そこに生息するハルルラ蝶の幼虫のサナギの繭から作られるのがそのハルルラの糸だ。

 ハルルラの森は、以前に僕とフリアが薬草採取のアルバイトをした森で、あそこが魔法禁止区域に制定されているのはそれが理由である。特産物保護のために当然の処置だね。

 また、ハルルラの糸から作られる布は色乗りがよくて、鮮やかな製品になるのが特徴的。

 特にレアハルルラと呼ばれる金色の羽を持つハルルラの糸は高級品として扱われている。

 だからだけど、この街には布を扱う店が多い。ファッションの最先端もこの街が発信しているのだとか。

 僕は……、というか、こっちの僕もなんだろうけどファッションというものには疎い。

 世界中からこの街に服を求めやってくる人が居る。

 けれど、僕はそれを傍目から見ているだけだった。


「フリアが居れば、もう少し話題になったんだろうけど」


 いつも僕に対して女の子らしくなんて言ってるし、フリアはきっとそういうのには詳しいんだと思う。


ーーぐー……


 僕のおなかの虫が鳴いた。

 そういえばもうお昼だった。

 今朝はずっと魔力の流れの操作の練習をしてたからごはんは食べてなかったんだ。

 寮に戻ればご飯はあるけど……。

 高い外食はできれば避けたい。

 けど今から戻るのもちょっと面倒だ。

 周囲を見渡して、見つけたのがサンドイッチ屋さん。

 うん、軽いもので済ませれば問題ないかな。

 そう思ってそのサンドイッチ屋に駆け寄る。

 どれも美味しそうだけど、どれがいいかな。


「おじさん、おすすめは?」


 僕は店のおじさんに尋ねる。


「ああ、うちのおすすめはこいつだ!」


 おじさんはチラシを指さした。


「特製サンドイッチ、30分以内完食でーー」

「あ、そういうのはいいです」


 無理なのは分かってる。


「それじゃあこのハムカツなんかは一番人気だな」

「じゃあそれで!」


 僕はハムカツサンドを買った。


「あれ? ユトちゃん?」


 誰かが僕の名前を呼ぶ。

 それは。


「あ、クロード君、こんにちは」

「おう、こんにちは!」

「それじゃあ」


 僕はさっくりとその場を去ろうとした。


「ちょ、ちょっと待てって! クラスメートに会ってそれだけじゃ寂しいぜ?」

「私は別に寂しくないですよ。じゃあ」

「だから待てよ! せっかくだから少し話しでもしようぜ?」


 むぅ、やっぱりクロード君は強引な人だ。

 真面目な人なんだけど、この強引さは苦手だ。

 ん?

 なんか、クロード君って言いにくいな。

 内心だし、クロードでいいよね。


「じゃあちょっとだけ……」

「おっし! ユトちゃん、お昼は?」

「今ここでサンドイッチを買いました」

「美味しい店知ってるからさ、そんなサンドイッチは後にしなよ」

「あ……」


 店のおじさんの額に青筋が浮かんでいる。


「おい、坊主、そんなサンドイッチとは聞き捨てならねぇなぁ」


 クロードから冷や汗が垂れ下がっていた。

 軽はずみだったとはいえ、当人にも悪気はなかったんだろう。


「いえ、ソンナコトハゴザイマセンヨ……ハハ……」

「ほう、そんならうちのサンドイッチを買っていってくれるんだろうなぁ? なぁっ?!」

「はい買います買いだめしちゃいます!」


 なんだろ、クロードは不幸キャラなんだろうか。

 こうして見ていると彼にはもっと優しくしてあげるべきなんじゃないかと思う。


「まいどあり! また来いよ! 坊主!」

「は、はは……。はい……」


 疲労困憊といった様子でクロードは僕のところに戻ってきた。

 手には大量のサンドイッチの入った袋。何日かはサンドイッチで生きていけそうな量だ。


「ごめん、ユトちゃん。あの店はまた今度でいいかな?」

「いいですよ。……どこかでサンドイッチ食べる?」

「そうだね、天気もいいし、食べるなら自然公園がいいと思うぜ」


 自然公園か。

 うん、申し分ないね。

 確かハルルラの森の近くだったはず。


「行こう」

「おう」











「ん……」


 自然公園まで来たのはいいけど……。


「どうかした?」


 クロードが訊いてきた。


「ううん……、別に……」


 辺りにはカップルばっかりじゃないですかぁ!

 こんな所に男女出来たら勘違いされるよ!

 僕は男〈だった〉だけど!

 この言い訳も苦しくなってきたな……。

 中身の話をしても仕方がない。

 外は完全に女の子なんだから。

 でもまぁ、いいか。

 おなかすいた。

 サンドイッチを食べよう。


「ユトちゃん! ここ開いてるぜ!」


 クロードはベンチに座っていた。


「むぅ……」


 周りにはいちゃついてるカップルばっかり。

 ここじゃむしろ余所余所しくしてる方が浮いてしまうんじゃないだろうか。

 なんだかそれもやだなぁ。


「……」


 仕方ない。

 ここは割り切ろう!

 僕はクロードの横にすとんと座った。

 距離はかなり近い。

 逆にクロードの方が驚いていた。


「ど、どうしたんだユトちゃん、急に。あれだけ俺のこと避けようとしてたじゃん」

「……目立ちたくないんです」

「あ、あー……」


 クロードは周囲を見渡して納得したようだ。

 というか、今まで気付いてなかったのか。

 変に気にしてた自分がバカみたいじゃないか。


「……はむ」


 僕は若干憤りを感じつつサンドイッチに噛みつく。


「うむ……」


 クロードも黙ってサンドイッチを食べ出した。


「……」

「……」


 なぁんで黙っちゃうかなぁ?!

 もっと余計なこと話してくれないと息苦しいよ!


「はむ!」


 僕はあっという間に自分の分のサンドイッチを食べ終わった。


「……」


 さて……。

 この隣で黙ってサンドイッチを食べている彼はどうしたものか。

 こちらから何か話題を振るべきなんだろうか。

 でも適当な話題が思いつかない。

 天気の話でもすればいいのかな?

 トーヤ君の事で探りでも入れてみようか?

 うーん、それもなんだかなぁ。


ーーベキベキ!


 話題の事で困っていると、後ろの方で何かが折れるような音がした。

 なんだろうと思って振り返ると。


ーーベキベキッ!


 最初に視界に入ったのは木々とは違う太い円柱。

 円柱の先には鋭利な爪がついていて、円柱自体は鱗で覆われていた。

 それだけじゃ何か分からないから私は上を見上げた。

 長い首、コウモリのような大きな翼、開いた巨大な口、そこに並ぶ鋭い牙、身が竦んでしまいそうな恐ろしい瞳。鱗が体全体を覆い、その見た目はまるで巨大な蜥蜴。


「ド、ド……!」


 別に音階を口にしたいわけじゃない。

 驚きのあまりそれ以上言葉が出てこなかった。


「ドラゴンだあぁぁぁぁぁ!」


 誰かが叫んだのと同時。

 公園に居た人々が一斉に逃げ出した。


「ユトちゃん!」

「え?」


 クロードが私の手を掴み走り出した。


「逃げるぞ!」

「あ……、うん!」


 そうだ、これだ。

 有事の際、僕は絶対すぐに行動できない。

 これではだめだ。

 強くならないと。

 でないと使命なんて到底果たせない。


「あーっはっはっは! 逃げ惑うがいいわ! この愚図ども!」


 どこからか人をあざ笑うような声が聞こえてくる。

 声のもとを探してみると、居た。

 ドラゴンの頭の上。

 赤髪のツインテールの女。


「おいおい、あいつは!」


 クロードもあの女を見つけたようだ。その上でその顔に見覚えがある様子。


「クロード君? あの人は」

「指名手配犯、『アルカ・ラカルト』!」













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