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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
最初の異世界人?
6/55

─6─

視点が戻ります。

サブタイトルに特に表記のない場合、ユトの視点になります。

 真実を確かめるためには彼の側にいるしかない。

 幸か不幸か、昨日の出来事は彼に近付くきっかけとなった。

 神様は運命を結びつけたと言っていたけど、こういうことなのかな?

 それともこれはただの偶然なのかな?

 わからない。

 疑わしきは罰せよとも言うし、今は手探りでやっていくしかないか。


「……」


 でも、そうやって転生者や転生者を見つけられたとして、『滅ぼす』って具体的にどうすればいいんだろう?

 安直な考えだと相手を『殺す』ことなんだけど、神様は『戦わずして勝つことも出来る』とか言ってたし、それだけとは限らないんじゃないかな。

 いくら望む力を得られるとはいえ、僕に人を殺す度胸があるとも思えないし、そんな事したくない。

 どうすればいいんだろう。


「おい」


 トーヤ君も悪い人って訳じゃなさそうだよね。


「聞いているのか?」


 何か方法がーー。


「アルシャマ! ユト・アルシャマ! 私の話が聞こえているか?!」


 気が付くと目の前に先生が立っていた。


「はい?」


 すっとぼけた僕の声で先生はため息をついた。


「お前は普段からぼーっとしているが、それはなんだ? 私のことを無視しているのか?」

「いえ、そんなつもりは……」


 先生は再びため息をつく。


「まぁいい。そこで寝息をたててる奴よりははるかにマシだ」


 先生が窓際に歩いていく。

 そして机をひっぱたき。


「サザナギ! 転校生だからといって私は容赦せんぞ!」


 と、怒鳴るのだが。

 トーヤ君はぐっすりと眠っていた。

 先生の怒声にもまったく反応を見せない。


「まったく……。このクラスは苦手だよ……」


 先生は諦めて教壇に戻る。

 あの状態のトーヤ君が目覚めないことはこのクラスでは周知の事実だった。


「教科書、74ページからだ……」


 僕は教科書を開く。

 前からそうだったけど歴史は苦手だ。

 眠っているトーヤ君の気持ちは良く分かる。


「今から約1000年前に我が国、『センテルディア』は建国された。第一代目の王、クラウス・センテルディアは『開拓王』と呼ばれ、荒れ地だったこの土地を、先陣を切り、精力的に開拓していったという。彼はーー」


 歴史は誰が何したとか、そういうのが面倒くさい。

 過去の人のお陰で今があるのは分かってる。

 感謝する気持ちもある。

 讃える気持ちもある。

 でも、今の僕たちになんの関係もない。

 昔話をだらだら聞かされているような気がしてやっぱり苦手だな。

 トーヤ君のように寝てしまおうか。

 先生には悪いけど。

 というか、大半の生徒が内職してる。

 聞いてるのは一部の真面目な人か、聞いているフリをしてる人だけだ。


 学校の授業なんて、世界が変わっても同じようなものなんだなぁ。

 なんとなく感心しつつ、僕も授業を聞き流した。











 放課後。

 僕は荷物を置きに一旦自室に戻った。

 そういえば、昨日フリアときちんと話してなかったな。

 せっかく来てくれたのに。

 魔育館に行く前にちょっと寄っていこう。

 そう考えていると。


ーーコンコン……


 ノックの音が聞こえた。


「ユト、私だけど……」


 フリアの声だった。

 「どうぞ」と、返事をするとフリアが部屋に入ってきた。

 フリアはおずおずと、どこか申し訳なさそうにしている。


「ユト、昨日はごーー」

「謝らないで」

「ユト……」

「ごめん、フリア。悪いのは私だよ」


 フリアが驚いたような表情を見せる。


「せっかく心配してきてくれたのに、逃げ出しちゃって本当にごめん」

「う、ううん。いいよ。私は気にしてない」

「ありがとう」


 フリアはゆっくりと僕の方に歩み寄ってきた。


「ねえユト」


 フリアの手が僕の頬を撫でる。

 ひんやりしてて気持ちいい。


「なに?」

「あなた、本当にユト?」


 表情は崩さなかった、……と、思う。

 フリアの言葉は僕を動揺させた。


「どうして?」

「なんかユト、昨日ハグベアに遭った時から少し様子が違うなぁと思って」

「そうかな? 私は私だけど」

「なんだろ、少し自信がついたような感じがするの。……ごめん、悪いことじゃないよね」


 フリアはなんだか寂しそうだ。


「あ、そうだユト」


 フリアは僕から少し距離を置く。


「昨日は本当にありがとうね! ハグベアに短剣だけで立ち向かうなんてどうかしてた。ユトを助けようとしたんだけど、私が助けられちゃったわね」

「わ、私も無我夢中だったから」

「それからあの言葉……」

「あの言葉?」

「『フリアに手を出すな』って」


 フリアは後ろで手を組み、くるりと僕に背を向ける。


「嬉しかったよ」


 なんだか気恥ずかしい。

 たぶんこれは、『この僕』が一番望んでいた状況だろう。

 それは素直に僕も嬉しかった。


「フリアにそう言ってもらえて、僕も嬉しいよ」

「僕?」

「あ……」


 まずい……。

 気を付けてたつもりだったけど、感極まって思考内での一人称を使ってしまった。


「フリア! えっと、今のは違って……」

「んもう……。それ、まだ直ってなかったの?」

「え?」

「小さいときから気を付けなさいって言ってきたのに!」

「そ、そうだっけ?」


 小さいときの記憶だからかな?

 僕の記憶にそんな出来事は残っていない。


「女の子らしく! ね?」

「う、うん」

「それじゃあユト、またね」

「あ、また……」


 フリアは僕の部屋から出ていった。











「ありがとう……」


 フリアはユトの部屋の前で呟く。


「どこかの誰かさん……」











 魔育館までやってきた。

 ここなら失敗して爆発しても迷惑にならない!

 と、意気込んでみたけど虚しかった。

 そもそも失敗しないようにしないと。


「ユトちゃん!」


 中でトーヤ君が手を振っている。

 先に来て待っていてくれたようだ。


「ごめんなさい! 遅くなりました!」

「いいよ。デートじゃないんだからさ」

「デ、デート!?」


 端から見ればそんな風に見えるのかな?

 って!

 まてまて!

 こいつ策士か!

 そんな事言われたらこっちにその気が無くても意識しちゃうじゃないか!

 あ、いや、まてまて。

 落ち着け、僕は男〈だった〉で、相手も男。

 ないない……。

 はぁ、なんで女の子が反応しちゃうかなぁ。


「それじゃあまぁ、始めようか。ユトちゃん、得意な属性は?」


 属性か。

 確か属性は『火』『水』『風』『土』の基本四属性と、『光』『闇』の相互属性。あと非干渉属性の『無』だっけ。

 でも……。


「魔法を使おうとすると爆発しちゃうから、分からないです」

「ああ、そうだったね……。ふむ、そうか……」


 トーヤ君は腕を組んで何か考えている。


「じゃあ火属性だね」

「どうして?」

「失敗した魔法が爆発だからだよ。爆発系統は火属性。たぶんユトちゃんの一番扱いやすい属性が失敗したとき表面に出てきてると思うんだ」

「なるほど……」


 ほんと、よくこの学校に入れたな、僕……。


「それじゃあ火の初級魔法を使ってみよう。やり方は分かってるね?」


 火の初級魔法『ファイアボール』。

 それを使おうとしていつも爆発してるんだ。


「う、うん」


 手のひらを上に翳して、狙いを指で指示すればそこへ火の弾が飛んでいく。

 威力の違いはあれど、小学生でも使える魔法だ。


「じゃあいきます!」


 と、トーヤ君に合図を送る。


「ちょーっと待った!」


 だが構える前に止められてしまう。


「それだ」

「え?」

「ユトちゃん、焦りすぎだよ。手を見てごらん?」


 言われたとおり手を見てみる。

 なんともない。


「うん、なんで片手しか見ないかな。反対の手だよ」

「ご、ごめんなさい」


 反対の手も見てみる。

 手のひらには小さく炎が渦巻いていた。


「それの意味が分かる?」


 僕は首を横に振る。


「詠唱動作をする前から魔力がだだ漏れなんだ。それじゃあいざ魔法を放つときに供給魔力が多すぎて魔法が暴発してしまうよ」

「そう、なんだ……」


 ぶっちゃけ僕になってから魔法使うの初めてだし全然感覚がわからない。


「うーん、そうだなぁ。当面の課題は見つかったかな。根本的なところ、魔力の流れの制御だね。辛口発言で悪いけど、ユトちゃんはそのセンスが絶望的だ」

「う……」


 やっぱり僕に魔法は無理なのか。

 ちょっと憧れてたんだけどなぁ。


「でも、直せないことはない」

「ほ、本当?!」


 トーヤ君は頷いた。


「魔力は血液の流れと同じ。常に体の中を巡り、古いものは破棄され、新しいものが生成され続けている。魔力の使いすぎで倒れるって話は聞いたことあるだろ? あれは魔力の貧血みたいなものさ。っと、言いたいのはそこじゃない。魔力の流れは血液と違って本人の意思で操作できる。そういうことを意識したことは?」


 首をぶんぶん横に振る。


「だろうね。出来てたら魔法が爆発するようなことはまずない。ユトちゃん、両手の掌を胸の前で合わせてみて」


 言われたとおりにしてみる。


「そこから合わせた掌を1センチほどの隙間を空けるようにして」


 掌を少し離す。


「右からでも左からでもどちらでもいいけど、利き手の方がいいかな。片方から魔力を放出してもう片方で受け取る。魔力の流れをイメージしてほしいんだ」


 やってみる。

 なんかよく分からないけど青っぽい糸のようなものが手と手の間に見える。


「それが君の魔力だよ。ユトちゃん」

「これが……?」

「うん、上出来だ。慣れてきたらだんだん手と手の感覚を開けるようにしていけばいい」

「へぇ」

「それは魔法として扱われないから、部屋でも練習できるよ。そうだな、手と手の間隔を50センチほど開けられるようになったら一度魔法を使ってみるといい。……今、俺に出来るのはこのくらいだよ」

「あ、ありがとう!」


 僕は嬉しくて思わずトーヤ君の手を握りぶんぶんと振っていた。


「あ、いや、気にしなくていいってこのくらい」


 トーヤ君は少し寂しげに顔を伏せる。


「……あの、や、やっぱり迷惑だった……かな……?」

「ん? なんで?」

「だって、トーヤ君、今、なんだか辛そうな顔してた」

「そ、そうか? そうか……。俺、そんな顔してたか……」

「なにかあったの?」

「いや、悪い。ちょっと昔のことを思い出したんだ。ユトちゃんのせいじゃないよ」

「そう……」

「じゃあ今日はこの辺にしとこうか。とりあえず、今日言ったところまで出来るようになったらまた声をかけてくれ。その時、また練習に付き合うよ」


 そう言ってトーヤ君は魔育館から出ていった。


「……」


 やめてくれ、そんな顔するのは。

 探りを入れてる僕が悪者みたいじゃないか……。







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