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「少し、話をしよう」
トーヤ君が重々しく口を開く。
日はとっぷりと暮れ、夕食を済ませた僕たちはリビングに集まっていた。
しかし、リビングの照明ほ落とされ、小さな蝋燭の明かりを囲んで、僕らは静かにその言葉を聞いていた。
「俺はこの町の出身だからよく知っているが、この別荘の裏手の森はいわくつきの場所なんだ。ほら、ロザリーが言っていただろ? 近くに魔法禁止区域があると」
昨日、変態……、もといグリフが怪しげな姿で浜辺に立っていたとき、魔法を使おうとしたオウマに対してロザリーさんが確かそんなことを言っていたのを思い出した。
「そもそもだ。魔法禁止区域はなぜ存在するのか。確かに魔法は扱いを間違えれば人だって簡単に殺めてしまう危険なものだ。だが、俺たちの生活に魔法は密接存在になっている。これなしの生活は考えられないだろう」
ちょっと火が欲しいときにマッチやライターを使用するような感覚で魔法は存在している。
「それをわざわざ禁止する理由。よく言われているのが、自然保護だな。美しい景色や、珍しい生物、貴重な植物が自生しているとかだ。実際、指定されているのは自然の多い場所であることがほとんどだ」
僕が最初に目覚めたハルルラの森も、ハルルラ蝶やリムルの薬草など、特産物や貴重な薬草があるから魔法禁止区域に指定されていた。
「だが、逆の理由もあるんだ」
「逆の理由?」
リリシャが首をかしげる。
「自然じゃなく、『人間』を守るためだ」
人間を?
「魔法禁止区域で魔法を使えば、魔法演算機がそれを観測、即座に無効化し使用者を刑務所へ転送する。これの応用だ。刑務所ではなく、安全な場所へ転送するんだ」
「…………」
「あそこはな、出るんだ。白いボロボロのローブを被った、不幸にも命を落とした魔法使いの幽霊が。そいつが森に入った人間を襲って……」
「だろうと思ったぜ。幽霊なんていねぇよ。大体、なんでその幽霊が魔法使いだって分かってるんだよ。作り話だって証拠だろ?」
クロードが笑いながら否定するが、トーヤ君は至極真面目な顔で話を続けた。
「ああ、俺もそう思ってた。でも信じざるを得なくなったんだ。あの光景を見てしまってはな」
「……」
クロードは口を閉じた。
「実はその安全な転送先っていうのが、サヴェルランドの町中の広場に指定されてるんだが、俺の実家から割りと近い場所にあるんだ」
「うん、小さいときはよくあそこで遊んだよね」
ニキが付け加える。
「まぁ、正直なところイタズラもよくあるんだ。刑務所に転送される訳じゃないから悪ガキなんかがよく遊んだりしてる。……でもな、たまに、本当にたまになんだが、装置が働いてるのに何も転送されて来ないことがあるんだ」
「……故障じゃないんですか?」
「ああ、町の人もそう思って一度技術者に見てもらったんだが、計器に異状は全く見受けられなかったそうだ」
よくありそうな話だけど、原因が分かってないのは怖いなぁ。下手に「見た」って言われるより、よっぽど現実味がある、
「だから、あの森に地元の人間は寄り付かない」
「それで、ですわ!」
ロザリーさんが立ち上がり、部屋の明かりをつける。
「その幽霊が成仏できるように、このお札を森に少し入ったところにある、石碑の所に置いてきてもらいます! 所謂肝試しというものですわ!」
やっぱりそういうノリか。
夏、夜、怪談、肝試し。
この流れは鉄板だよね。
「ここにくじ引きが用意してありますので、ペアを決めますわ!」
準備がいいなぁ。
ということは、この肝試しの発案者はロザリーさんか。
◇
くじ引きの結果、ペアが決まった。
「俺はロザリーとか」
「はい! よろしくお願いしますわ!」
まずトーヤ君とロザリーさん。
これは仕込みだろうか?
カンナちゃんの顔を見てみるとニヤリと笑っていた。
どうやらそのようだ。
てか、語り部と発案者の組み合わせって肝試しになるのかな。
「……俺のペアはカンナちゃんか」
「よろしくですよ。クロード君」
「なんか不穏な……」
クロードは幽霊とか以前にもっと恐ろしいものと戦わなければならないのかもしれない。
「私は……リリシャとだね」
「よろしくねユトちゃん!」
リリシャが僕の服の裾をぐいと掴んだ。
なんだろ、なんか全然離してくれないんだけど……。
しかもなんだか震えて……。
「もしかしてリリシャ……?」
リリシャが無言で首を左右に振る。
うそん……。
「えっと、私はブンクニル君とね」
「…………」
「あ、あと余りだから私も含めて三人だよ」
最後にフリアとオウマとニキの三人。
オウマは全然喋らないし、雰囲気でいったらフリアとニキのペアみたいな感じだ。
「あれ? そういえばグリフさんとミコさんは?」
「あのお二方には幽霊役として準備していただいてますわ」
あー、準備ってこの事だったんだ。
「いや、ロザリーちゃん、幽霊出るって分かってたらネタバレもいいとこだぜ……?」
「大事ですわ。私もどこでどんな仕掛けでスタンバイしてるのかは知りませんの! 楽しみですわ!」
「そういう意味じゃねぇんだが……」
まぁ、本人が楽しそうにしてるからいいのかな?
「さあいきますわよ!」
こうして肝試しが始まる。




