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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
夏の海に勇者立つ!
53/55

─50─

「ま、待ってくれ! 海といったら褌健康法だろう!」

「きゃー! けーさつ! けーさつ呼んでー! あ、治安兵か! ととととにかく誰かー!」

「ユトちゃん! 僕だよ! グリフ・ローウェルだ!」

「変態だー!」


 腰が抜けてちゃんと動けない。

 変態から逃げないと!


「……あーもう、うっさい! 少し黙んなさいよ、クソガキ!」


 その声で一瞬背筋が凍りつく。


「……私のこと覚えてるかしら?」


 赤い髪の女が上から僕を見下ろした。


「あ、あ……」

「あー、今髪下ろしてたわね。これならどう?」


 女は両手で左右の髪を持ち上げた。

 簡易的なツインテール。


「アルカ・ラカルト!」


 そんな、神様の話じゃアルカ・ラカルトは消えたはず!


「ん、これでいい?」


 不意にアルカの顔がアルカでなくなる。


「助かったよ、ミコ」

「み、ミコ……?」


 確か、ミコはアルカがアルカになる前の……。

 でもさっきのは確かにアルカだった。

 どういうこと? なんか訳がわからなくなってきた。


「ユトちゃん、少し説明をした方がよさ……」

「死ねえええ! 変態!」

「へ?」


 グリフの顔面をボートのオールがぶち抜いた。


「ぶべぇっ!」


 褌男グリフは砂浜を転がり波打ち際で止まった。


「私のユトに手を出すなんていい度胸ね! 百万死に値するわ!」

「フリア! この人は……!」











「本当にすみませんでした!」


 フリアがグリフに頭を下げた。


「いや、僕も誰も居ないと思って褌一丁になっていたのは悪かったよ」

「ほんと、変態」


 ムスッとした表情でミコは呟く。


「ミコ、君はもう少し言葉をオブラートに包んでもいいと思うよ」

「大丈夫ですよ。ここにいる全員、ローウェルさんを“変態”と認識していますから。今更です」

「…………」


 カンナちゃんの毒にグリフさんは黙りこんだ。


「そ、そういえば、どうしてグリフさんはここに? ロッズで医者をしていたんじゃないんですか?」

「それは……」


 グリフが僕を見てウィンクする。


「観光だよ。医者稼業も肩が凝ることが多いからね」

「ですよね! わかります! うちも町医者ですけど、これが意外と大変なんです!」


 つい今まで毒を吐いていたカンナちゃんが急にグリフの手を握って同意した。


「あ、ああ……」

「それで、この後はどうするんですか?」

「さて。特に予定も決めてなかったからね。とりあえず、今晩泊まる宿を探さないと」

「それでしたら、ここに泊まってはいかがですか?」


 ロザリーさんが提案する。


「ええっ!? 私は嫌! こんな変態と!」


 リリシャが猛反発する。

 僕らは、医者としてのグリフを見ているから、変な趣味があるなと思ったくらいだけど、リリシャは初対面だ。それであんなインパクトあることをされたら当然の反応だろう。


「ですがリリシャさん。グリフさんのお連れの方のことを考えるとそうもいきませんわ」


 リリシャがミコを見る。


「確かに……」

「……私は別に。野宿には慣れてる」


 そういえばミコを見ても、誰もアルカ・ラカルトだとは気付いていない。流石に彼女と対峙したトーヤ君は分かっているようだけど、いまいち腑に落ちていない様子だった。

 それは僕も同じだ。

 ミコとアルカは別人だが、実際に世間で悪さをしていたのはミコの体なのだ。けれど、さっきツインテールにされるまでは今一ピンと来なかった。

 人格だけでこうも見た目の印象が変わるものなんだろうか?


「…………」


 一瞬ミコと目が合う。

 が、すぐにふいと背けられてしまった。


「構いませんわ。あんなのでもグリフさんは信用できます。だって、ユトさんを助けてくださったんですから」

「ふーん、まぁ、エルスマストさんが言うなら……」

「ありがとう、エルスマストさん。今晩はお世話になるよ」

「はい、ごゆっくり!」


 なんとかこの場は収まったようだ。


「よっしゃ! それじゃあ海に! ……ってもう夕方じゃねぇか!」


 クロードが海に沈む夕日を見て愕然とする。

 まぁ、もともとここに到着したのがお昼過ぎ。

 そこからトーヤ君を探しに行って、戻ってきたら変態騒ぎ。

 時間とは残酷なものだ。


「えーっ、泳ぐの楽しみにしてたのに!」


 リリシャも愚痴る。


「仕方ないですよ。夜にはいるのは危ないですから。変態がいなければ余裕もあったんですけど」


 カンナちゃんがグリフを睨む。


「あっはは……、なんか皆の視線が痛いや……」


 自業自得です。


「それじゃあ、夕飯にしましょうか。準備しなきゃ、ね?」











  というわけで、夕飯の支度のために皆か動き出したのだが……、僕……、いや、ユトは特殊な料理センスを持っているため、今回は料理当番から外されることとなった。


「グリフさん」


 グリフはベランダで外を眺めていた。

 傍にはミコも一緒だ。


「ああ、ユトちゃん。どうかしたかい?」

「あの……」


 僕はミコをチラリと見たあと尋ねる。


「ここに来た本当の目的はなんですか?」

「おっと、いきなり本題だね」


 グリフはポケットから煙草を取り出すと、口にくわえそれに火をつけた。

 しかし、横に居たミコが素早く煙草を取り上げ、火だけを落としてグリフの口に突っ込んだ。


「煙草は嫌い。そう言った」

「あ、ああ……、悪かったね」

「グリフさん、煙草吸われるんですね」


 なんかあんまりイメージなかったけど。


「ん、ああ、だけどミコと行動するようになってまともに吸うタイミングがなくてね。禁煙ぎみなんだ」


 ふぅとため息をついてグリフは煙草をしまった。


「えっと、僕らがここに来た理由だったね。なに、以前話した僕のやるべきことのためだよ」


 救世主として召喚されたグリフの目的か。


「サヴェルランドには緑玉竜が訪れると聞いていたからね」

「緑玉竜?」

「四竜と呼ばれる特別力を持つ竜の一匹だよ。君も知っている青銅竜アクナヴェイル。ミコの母親であった赤晶竜フレイアルマ。今回の目的、緑玉竜ウィズリング。あとはどこに居るとも知れない黄金竜グランガラン。この四匹が世間で四竜と言われるドラゴンさ」


 っていうか、あの青銅竜ってそんなにすごいドラゴンだったんだ……。

 そんなものと戦ってたのか、僕は……。

 それにその四竜の一匹がミコの母親だなんて。


「……」


 ミコと目が合ったけどやっぱりすぐに顔を背けられた。

 嫌われてるんだろうなぁ。

 アルカだったとはいえ、あんなことがあったんだから。


「で、その緑玉竜に会って、ミコに力をつけてもらわないといけないんだ。世界を救うためにね」


 近いうちに世界が滅ぶ。

 嘘ではないんだろうけど、やっぱりピンと来ない。

 それらしき予兆も何もないんだから。


「まぁ、とはいっても、緑玉竜がいつここに来るかも分からないんだけどね……」


 グリフはため息をついた。


「……なるほど、あんたも異世界の人間だったのか」


 グリフがピクリとして声のした方を見る。

 そこにはトーヤ君が難しい顔をして立っていた。


「アルカを連れてるから、どういうことかと思ったが……」

「……君は確かロッズで……。っと、その前に。今はその名前は使わないでほしいな。彼女は今、“ミコ”だ」

「だがアルカの行為は今後絶対そいつについて来るぞ」

「だから言ってるじゃないか。“今は”って。ミコもその辺は理解してるよ。アルカの行動を彼女も容認していたんだからね」


 アルカは破壊的な活動を繰り返していた。

 それをミコは容認していたということは、ミコも壊したかったということなのだろうか。


「……別に」


 ミコの様子を見てグリフは肩を竦める。


「……どうも、彼女にとってアルカの存在は特別なものだったらしい。今の彼女は何に対しても無関心というか、捨て去っているというか……」

「…………」


 ん、でも待てよ。

 アルカの行動をミコが容認していた、というのはどういうことだろう。

 つまり、アルカが人格の全てを握っていたあの状態にあってもミコの意識があったということになるのか?

 それって、僕の中にいるユトも……。

 ああ、そうか。そう言えば能力を使ってユトに人格を奪われたとき、僕もぼんやりと何をしているのかは覚えていた。

 だから、本来のユトもそういう状態にあるというのが正しい見解かな。


「あんたの目的は世界を救うことだと言ったな?」

「ああ、そうだよ。僕がこの世界に飛ばされたとき、神様に与えられた使命さ」

「本当に遂行するつもりがあるのか?」

「……どういうことだい?」


 グリフが顔をしかめる。


「答えろ」

「と、トーヤ君?」


 なんでトーヤ君はこんなに敵対的なんだろう。


「あるさ。だからミコを連れてここまで来たんだ。本当にただ観光しに来ただけとでも?」

「……」

「……」


 皆押し黙ったまま喋らない。


「……明後日だ」


 トーヤ君が唐突に口を開いた。


「は?」

「緑玉竜は明後日サヴェルランドに来る」

「どうして君にそんなことが分かるんだい?」

「あいつは決まってその日に来る」

「……君は──」

「あっ、トーヤさんこんなところでサボっていたんですね! 料理の途中で抜け出すなんていけませんわ!」


 トーヤ君がビクリとした。


「俺は料理は苦手で……」

「ニキさんから聞きましたわ。こっちに来てから毎日三食お店で買って来た惣菜だそうですわね? 栄養が偏ってしまいますわ!」

「あ、いや……」

「私が教えて差し上げますから、練習ですわ!」

「や、ちょ……」

「問答無用ですわ!」

「ああああ……」


 トーヤ君がロザリーさんに引っ張っていかれた。

 ロザリーさん、張り切ってるなぁ。

 修学旅行のとき、お酒にやられて結局トーヤ君とお土産の買い物できなかったもんなぁ。

 その反動だろうか……。


「彼は……」


 グリフがポカンと口を開けている。

 まぁ、シリアスな空気が一瞬であんな風になったら誰だってそうなるよね。


「まぁ、うちのパターンというかお約束というか……」

「……そこはかとなくどうでもいい」


 ミコの言う通りだ。


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