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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
夏の海に勇者立つ!
50/55

─47─

「あつい……」


 会う人会う人、口を開けば決まった言葉が出てくる。


「あーつーいー!」

「暑いですわね……。今日の最高気温は38度らしいですわ……」

「溶けて死んじまうぜ……」


 どうもこの世界にも四季というものがあるらしい。

 修学旅行が終わって、しばらくが過ぎたけど、日に日に気温は高くなっていき、こうして今日は所謂猛暑日というものになっている。


「ユトちゃんはそうでもないって顔してますけど、暑くないんですか?」


 カンナちゃんはうんざりといった様子で僕の顔を見た。


「ううん、暑いよ?」


 ただ、リーンスタリアの夏はカラッとしていて、湿気の多かった元の世界での夏に比べると、意外とすごしやすいという印象だ。その分が少し余裕となって出ているのかもしれない。


「やっぱり余裕そうですね……。よく倒れるユトちゃんが暑さに強いのは意外です……。誰にでも得意なものがあるんですね……」


 教室の全開の窓から生暖かい風が入り込んでくる。

 向こうよりましとはいえ、やっぱり暑いのは暑い……。


「暑いですわ……。暑いですわ……」


 ロザリーさんはさっきからそれしか言っていない。

 もはや「暑い」言うだけマシーンだ。

 この季節は相当苦手なんだろう。


「あ」


 そんな壊れかけのれでぃおのようだったロザリーさんが急に立ち上がる。


「どうしたんですか、ロザリーちゃん?」

「暑いからですわ!」


 カンナちゃんが哀れむような目でロザリーさんを見つめていた。


「ついに頭のネジがぶっ飛んでしまったんですね……」

「違いますわカンナさん!」


 きっぱりと言い返す。

 どうやら意識ははっきりしているようだ。


「クロードさん!」

「は、はい?!」


 突然名前を呼ばれて不意を突かれたクロードが直立する。


「夏ですわ!」

「は……、はあ? 確かに夏だけど、それがどうしたって……」

「涼むのですわ!」

「そりゃあ、まぁ……」


 話が見えない。


「ユトさん!」

「はっ、はいぃっ!?」


 今度は僕に矛先が向く。


「夏と言えばっ!? ですわ!」

「え? 暑い?」

「そうですわ! 暑いですわ!」

「あ、はい……」


 いやいや、結局何が言いたいのか全く完全に分からない。


「お父様に掛け合ってみますわ!」


 ロザリーさんは唐突に教室から飛び出していった。

 昼休み中だし時間があるからいいけど、どこに行くつもりなんだろうか。

 一見普通に見えるけど、言動がおかしいし、やっぱり暑さにやられてしまったんだろうか?


「なんなんですかね、ロザリーちゃんは……」

「さ、さぁ……」


 ロザリーさんに詳しいカンナちゃんも首を傾げる始末。

 本当にどうしたんだろう?


「なぁ、つうかさ、トーヤはどうしたんだ?」


 思い出したようにクロードが呟く。

 そういえば今日はトーヤ君の姿を見ていない。


「風邪か?」

「風邪っ!?」


 カンナちゃんが敏感に反応しクロードに掴みかかる。

 健康面に対してカンナちゃんはうるさいからなぁ。


「し、知らねぇよ! 授業に来てねぇってことは大体そんなんが理由だろ!?」

「夏風邪なんて馬鹿ですか!? あんなしんどい状態になるなんて風邪ひく連中の心が知れないです!」


 カンナちゃんはクロードをぶんぶん揺する。


「ちょ、やめ、脳みそが揺れる!」


 クロードの顔色がみるみるうちに悪くなっていく。


「こうしちゃいられないです! レニー先生に問い詰めてみないと!」


 カンナちゃんはクロードを投げ捨て教室を飛び出した。


「……」


 後に残ったのは意識を失いかけているクロードと、口を開けたままの僕だった。


「うぇ……」


 クロードが気分悪そうに体を起こす。


「クロード君、大丈夫?」

「あ、ああ……。つうか、なんなんだよあの二人は……」


 本当、忙しい二人だ。











「戻りましたの!」

「戻ったです」


 しばらくすると二人が同時に戻ってきた。


「あら? カンナさんもどこかへ行っていたんですの?」

「ちょっとですよ。私の早とちりだったようですが……」


 ということは、トーヤ君は別に体調不良というわけでわなさそうだ。


「なんだったの?」

「実家に帰ったんです」

「は?」


 え、どういうこと?


「明後日から夏休みなのは分かってますよね?」


 僕は頷いた。


「なにか用事があるとかで、トーヤ君は少し早く実家に帰ったってことです。流石にどんな用事かは野暮なので聞きませんでしたが……」

「そうか。……あいつの実家っていえば、確かサヴェルランドだっけな」

「サヴェルランド?」


 聞いたことない名前だ。


「ああ、リーンスタリアからだと南の方さ」


 南の方か。


「暑そう……」


 正直な感想だ。


「そうでもありませんわ」


 ロザリーさんが口を開く。


「サヴェルランドは海に面していて、静かな田舎の町。避暑地としては有名ですわ。海の幸、山の幸とどちらも楽しめますし、素敵なところですの」

「へぇ、いいなぁ」

「ですが、これは好都合ですわね!」


 ロザリーはにこりと笑った。


「そういえばロザリーちゃん、どこ行ってたんですか?」

「お父様にサヴェルランドにある別荘に友人達と行ってもいいかと尋ねていたんですわ!」


 わお、なんて都合のいい展開。

 なんか先が読めてきた気がする。


「その友人達って……」

「もちろん! カンナちゃんとユトさんですわ!」

「デスヨネー」


 クロードが寂しそうに呟く。


「冗談ですわ。クロードさんも!」

「いよっしゃあっ!!」

「っち……」

「カンナちゃん、今舌打ちしてねぇ?」

「相手に不快感を与えないように笑顔で舌打ちをする練習ですよ。っち」


 と言ってカンナちゃんは笑顔を浮かべる。


「…………」


 どうしても舌打ちしないとダメなんだね……。


「人数はかなり行けますから、各々声をかけてもらっても大丈夫ですわ! 多い方がきっと楽しいですわっ!」

「この機に友達を増やそうって魂胆ですね! ロザリーちゃん!」

「そ、そ、そ、そ、そ、そんなことああありませんわ!」


 ロザリーさん動揺しすぎ。


「善は急げといいますわ! さっそく」

「お前ら、夏休みは明後日からだ。少し、早くはないか? それとも今学期最後の私の授業を受けたくないと?」


 いつの間にか先生が教壇に立っていて、教科書を開きながら鋭い眼光をこちらに向けていた。


「「「「すみませんでした!」」」」


 僕らは慌てて着席することとなった。


「…………ふぅ」


 それにしても、ロザリーさんの別荘か。

 お金持ちはやっぱり違うなぁ。

 誰か誘っていいなら、やっぱりフリアかな。誘いやすいし。

 あっちでも海は小さいときに行ったきりだし、楽し…………。


「……………………」


 …………ん? ……海?


「…………」


 待て、海から連想される単語と言えば。


 花火?

 合ってるけどこれじゃない。もっと昼間だ。


 バーベキュー?

 これでもない。


 水泳。

 僕はプールではちゃんと泳げたし、ユトも特別苦手というわけではない。


「…………」


 ……でもそこじゃない。

 泳ぐために必要だけど、技術のことじゃない。


「…………」


 あー、なんでだろう。頭が考えたくないって言ってる。

 でも流石に海に行ってカナヅチでもないのに泳がないなんて空気の読めないことはしたくない。


「…………」


 水着。

 ですよねー……。あれだね、よくある水着回ってやつ。

 ていうか、着るの?!

 僕が?!

 ま、まぁ、確かに以前フリアとの買い物で着せられたけど、あれは学校指定の水着だし、なにより一瞬だったし、気持ちも誤魔化せたけど。

 っていうか、水着なんて持ってないよ!

 あ、いや、なんだ、流石にスク水で海に行くってのは恥ずかしいし。

 フリアに頼んで一緒に買いに……、……って、何で僕若干乗り気なの?

 べ、別に誰かに見せるためってわけでなし、普通にスク水でいいんじゃないだろうか?

 いや、でも、あれだ。見られてしっぽりされたくないような気もする。

 そう、あくまで普通! 普通の女の子になるんだ!

 ええい、この際前世の性別がとかはどうでもいい!

 可もなく不可もなく、目立たないように、地味で……、ん……、極端すぎてもダメだな。ちょうど間の、あんまり意識されない、そんな……。


「おいアルシャマ!」


 だとしたら、やっぱり一人で探しに行った方が吉か?

 フリアと行ったらユトに似合うものを選ばれかねない。それはまずい。おおいにまずい。


「アルシャマ!」


 でも。


──バンッ!


「アルシャマッ!」

「ひゃい!?」


 いつの間にか目の前に先生が立っていた。


「どうした? いつもお前はぼーっとしているが、今日は輪をかけてだな? 体調でも悪いか?」

「い、いえ! だ、だ、大丈夫です!」

「……それならいいが」


 先生はスタスタと教壇に戻っていった。

 逆に心配されるほど考えに耽っていたとは……。

 うん、少し落ち着こう。

 考えるのは今日部屋に戻ってからでいい。

 そうだ。

 そうしよう。


「──というわけで、革命家のナプリオンは──」


 その後、僕は授業に集中して邪念を払うことに専念した。







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