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今日はベッドが少し狭い。
本来一人用のベッドを二人で使ってるから当然なんだけど……。
どうしよう……。
「ふふっ、ユト。ちゃんとあのネコパジャマ着てくれてるんだ?」
「うん……、まぁ……」
ユトの感情に任せて勢いで誘っちゃったけど、フリアがノリノリすぎる……。
それもそうか……。今までは僕が拒否していたけど、今回に限っては互いに同意の上なんだから。
「むぅ……」
フリアがずっとぎゅっとしたまま僕を離してくれない。
なんかいい匂いするし、暖かいし、安心するし、だけど恥ずかしくてドキドキして、すごく落ち着かない。頭の中までポカポカしてくるような感じだ。
「ほら、ユトもぎゅっとして甘えていいのよ?」
「うー……ん……」
それに妙な罪悪感がわいてくる。
ユトを利用して女の子に引っ付いているという男の僕の感情だろう。
だけどやっぱりこの不安な気持ちが拭えず、やや遠慮気味にフリアに手を回す。
顔が熱いのがよくわかる。
「それにしても今日はどうしたの? 修学旅行でなにかあった?」
「……」
あった。
ありすぎた。
「……私にも言えない?」
私に“も”か……。
誰にも打ち明けられてないってことくらいお見通しみたいだ。それに、私になら話していいんだよと、さりげなく道を見せてくれている。
「……ちょっと……、ううん。だいぶ言いにくい……」
「あらら、それは困ったわねぇ」
なにも言わずに、ただ不安だけ受け止めてくれというのは贅沢だろうか。
僕はフリアに酷いことをしてるんじゃないだろうか。
僕はただ彼女を都合よく利用して……。
「どうしたのそんな顔して?」
「だって……」
フリアが僕の口に人差し指を当てる。
「いいわよ。言わなくても」
フリアは困ったように笑った。
「ユトに何があったかは分からないわ。でもきっと今、大きな何かを抱えてるのね」
この人は。
「もしかしたらそれはちょっと危険なことなのかもしれない。話しちゃうことで他を巻き込んでしまうようなことなのかもしれない」
本当に。
「ユトは優しい子だから、ね。やっぱり遠慮しちゃうのかな」
ユトの心の穴の深さを知っている。
「…………さい」
「ん?」
「ごめんなさい……」
この謝罪は何に向けてだろう。
本当のことを言えないことに対してだろうか。
それとも、フリアの向けてくれる優しさを、僕がユトから横取りしているからだろうか。
「……謝ることなんてない。ユト」
「……」
「んもう……」
フリアがゆっくりと僕を抱き寄せる。
そして穏やかに、優しく、それでいてとびっきり甘く彼女は囁く。
「ユトがどんなになっても……、この世界にユトは一人しか居ないのよ……」
心の奥で何かが飛び跳ねるような思いがした。
「フリア……」
口をついて思わずフリアの名前を呼んだ。
まさか、……いや、……まさかね。
「ん?」
「ううん。……なんでもない」
大丈夫。
「そう? じゃあこの話はおしまい!」
「え? え?!」
フリアの手が僕の体を撫で回すように徐々に下に降りてくる。
「あっ、ちょっ、フリア? まっ」
「待ったなしよ。本当はシャワーの時にもっといろえろしたかったけど、ユトに調子狂わされちゃっておあずけ状態だったんだから!」
「ど、どこ触って?!」
待って待て待ってって!
さっきまでのシリアスムードどこにいっちゃったの?! 普段は御免だけど、今はお金払ってでも帰ってきてほしいんだけどー!
「なにせ今回は互いの同意の上! やりたい放題だわ!」
「ちがっ! そんな意味じゃ、ひゃっ!?」
「むむ……。やっぱり発育がいまいちね。小さいときからもっと揉んでおいてあげた方がよかったかしら?」
あの時からそんなこと考えてたの?!
好かれてるのは嬉しいけど、フリアのはところどころなんか歪んでる気がする。
ああ、このままじゃ貞操が……。
って、女同士なら大丈夫なのか。
……大丈夫なのか?
いやでも何もないのに越したことはない! ことなかれ主義万歳!
「こら、逃がさないわよ!」
ベッドから逃げようとした僕をフリアが足も使って後ろからがっちりホールドする。
引き剥がそうにも、体を拘束されているためほぼ身動きができない。
「誘ったのはユトの方なんだからね? 諦めなさい! ムフフ……」
なんだかフリアの息が荒いんだけど!
「昔からこっそりつけてきたユトの成長記録を更新しないとね!」
「え、ええっ?! そんなのつけてたの?!」
「冗談よ、冗談。………………半分」
「なにを最後にぼそりと言ったの?」
「なんでもないわ」
なんでもありそうな感じだったけど?!
「ま、そんなことはおいといて」
そんなことー?!
「今はゆっくりねっとりユトを味わう時間なんだから。据え膳食わぬは……」
「いやいや……」
こちらそういう意味で誘ってないです!
「ほーら、こっち向いて」
フリアが強制的に僕の向きを変えた。
「変なことしないから」
残念ながらその言葉は信用ならない。
「ユトがどう思っててもいいわ」
優しい感じ。
「私はずっとユトの味方だから、……ね?」
あの神様とはまた違った強制力。
あたたかい、ぬくもり。
「……うん」
ここは安心していい場所。
『優斗』を忘れて『ユト』で居られる場所。
これにて修学旅行編は終わり。




