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話を区切るタイミングと、一話分の話の長さとのバランスが難しい。
「んー! んー!」
なんだこれなんだこれなんだこれ?
あたま?
あたま?
「んんんんんんん!」
「ユトちゃん落ち着いて!」
トーヤ君が僕の拘束を解いた。
「なんでこんなことするの!?」
口が動くようになって最初に出たのは罵倒だった。
「違う! 話を!」
「な、何も殺さなくても!」
「ユトちゃんこいつは!」
「ああ、なんてことするんだい?」
足元から声が聞こえた。
「え?」
「くっ!」
トーヤ君がアルバートの頭を蹴飛ばした。
その頭を胴体がキャッチする。
「酷いじゃないか」
「な、なにこいつ……」
「アルバートだよ、フレースベルクさん」
「黙れ偽物。本物のアルバートなら、保健室の掃除用具入れの中で見つかった。今は保健室で休んでる」
え、偽物?
「…………フフ。本物を始末して僕が本物になるつもりだったのに。あいつが殺すなって言うから……。ああっ! どん底だ! 最低な絶望だよ! これでは僕の存在する意義が全く無くなる! くそっ! 僕はなんのために! なんのためにぃっ!」
アルバートの偽物は狂ったように悶えていたが、不意に魂が抜けたように大人しくなり、抱えた頭の口がつり上がった。
とてもおぞましく、悪魔のような笑顔だった。
今までアルバートだと勘違いしていたのが嘘のような別人の顔だ。
「もうどうでもいい。あいつとの約束なんてもう意味はないんだ。あとは孤独に朽ちるだけ……。ひひ……」
「気の毒だとは思うけど……」
「いやだあぁぁぁぁぁぁああっ!!」
偽物は泣きながら叫んだ。
「お前らも道連れだ! 一人消えるのは嫌……、はっ!」
偽物は口を開いたまま闇の一点を見つめる。
「や、ちが、嘘だ、今の全部嘘だ! だからやめっ!」
偽物の足元がチリチリと音をたて、ぼんやりとオレンジ色に光を放つ。
それからはあっという間だった。
「がああああああああっ!!」
大きな火柱が夜空を焦がし、偽物は一瞬で灰となっていた。
「っく!」
トーヤ君は偽物が見つめていた方向を睨むとその姿を消した。
時間を止めて、偽物に制裁を下した何者かを追おうとしたんだろう。
だけど、それは何となく無駄だと思った。
なぜならそいつは『能力』を封じることができるからだ。
「ユト、大丈夫?」
ニキがそっと僕の肩に手をおいた。
身長差のせいでだいぶ無理をしているのだが、ここでは触れないでおこう。
「ありがとう、ニキ……さん」
「ニキでいいよ」
「あ、うん」
「それにしても、ふわふわマンが偽物だったとは。おまけにユトを拐うなんてどういうつもりだろう?」
ニキは「うーん」と唸りながら腕を組んだ。
拐われるようなことをした覚えはないけど……。
ただ相手は十中八九異世界の人間だ。
これだけは確実だろう。
「逃げられた」
唐突にトーヤ君が現れ、悔しそうに呟いた。
って、トーヤ君! ニキの前で堂々と能力使っていいの?!
僕の表情から察したのか、トーヤ君が口を開く。
「ああ、ニキは知ってるんだ。俺が転生者であるのともな」
「さらに言うなら、トーヤ君が転生した当初、世話をしてあげたのが私」
『してあげた』のところがやたらと強調されていた。
「悪いが、ユトちゃんの事も伝えた」
「ええっ?!」
「大丈夫だ、ニキは信頼できる」
「砂舟に乗ったつもりでいてよ!」
ニキが無い胸を張るが、ものすごく心配だ……。
ていうか、砂舟なんて泥舟より酷いんじゃ……。
「でもとりあえず、細かい話はあとにしよう。本物のふわふわマンも心配してるだろうしね?」
「ああ、そうだな。飛ばすぞ!」
トーヤ君が両腕を振り上げると。
「え?」
下から突風が吹き荒れ、僕らの体がふわりと……、いや、やわらか目に言ってもびゅんと、吹き飛ばされた。
「えええええええええええええっ!!」