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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・魔法学校交流戦
44/55

─42─

ポロリもあるよ!(よいものではない)


「……」

「そんなに警戒しないでくれたまえ。別にとって食おうというわけではないんだから」


 アルバートは優しく微笑むが、彼には何となく苦手意識が強く、体の力を抜くことができない。

 このままじゃ体の節々がいたくなりそうだ。


「……フフ、やはり引かれているのかな」

「わ、悪気はないんです」


 最初ので苦手意識がついたのは事実だけど。


「ところで話ってなんですか?」

「ん? ああ、愛しき君とおしゃべりがしたい。ただそれだけだよ。今後、会えるかどうかも分からないからね」

「それ、誰にでも言ってるんじゃないですか?」

「まさか! アルシャマさんだけだよ」


 アルバートはにこりと笑った。


「ふーん……」

「まぁ、これでも飲みたまえ。落ち着いて話そう」


 アルバートはテーブルからジュースを取り上げ、僕に渡す。

 それはオレンジジュースのようだ。


「安心したまえ。毒など入っていないよ」


 ジュースをまじまじと見つめる僕を見て、アルバートが苦笑する。

 流石にこれは失礼だった。

 反省してジュースに口をつける。


「別れる前に、君のことをもっと知っておきたいんだ。いいかい?」

「答えられる範囲ならかまいま──」


 あれ?


「どうかしたかい?」


 アルバートが心配そうに僕の方を見ている。


「アルシャマさん?」


 なんだろ……、急に、眠……。


「アルシャマさん!?」

「おいどうした!」

「先生! ランバートのアルシャマさんが急に! 保健室まで連れていきます!」

「ああ、頼んだぞジェルミー」

「はい!」


 おぼろげな頭で最後に聞いた会話だった。











「ああ、予定通りさ。約束は──」


 揺れている。

 ゆさゆさと。

 時折高く跳ね上がり、体が軽く打ち付けられる。

 目を開く。

 薄暗い明かりのもと、人影がひとつ。


「ん……んん!?」


 口が開かない。

 口の中になにか詰められている?

 手足も動かない。

 縛られてるみたいだ。


「おや? 気付いたみたいだねアルシャマさん」


 アルバートの声がした。


「かなり強めの薬を用意したんだけど……。馬車は多少揺れるから、仕方ないことだね」

「んーんんー?!」


 薬だって?

 ちょっと待って、訳がわからない。

 なぜ彼がこんなことをする必要があるんだ?


「フフッ、ある人からのお願いでね。君を捕まえてほしいと、ね」


 僕を捕まえる?

 どうして?

 なんのために?


「悪いけれど、理由は僕も知らないよ。誰に頼まれたかも言えない。まぁ、対価がとても魅力的だったからね。受けることにしたんだ」


 僕はアルバートの何を知ってるわけではないけど、変わってるけどとても誇り高い人物のように思えた。


 その彼を心変わりさせるような対価って、なんだろう。


「大人しくしていてくれたまえ」


 ダメだ。

 彼がどうしたかなんてことは今どうでもいい。

 逃げないと。

 手足のロープはほどけそうにない。


「無駄だよ。簡単にはほどけない。何より、僕が見てるからね」


 あ、そうだ。

 こういうときこそ能力!


『人並み外れた身体能力を!』


「…………」


 あ、あれ?

 おかしいな。

 能力が使えない?

 なんで?


「……」


 時間切れ?

 今日、能力を使ったか?

 使った記憶はない。

 それならどうして?


「おや? 急に大人しくなったね。諦めたかい?」

「……」

「いや、そういう訳じゃなさそうだね」


 その通りだ。

 けど、彼に僕が何をしようとしているかなんて……。


「フフッ、聞いてるよ?」


 分かるわけが……。


「君の何らかの『能力』については」

「!?」


 な、な、な!?


「残念だけど、君の手かせ足かせには細工がしてあってね。それでその能力を封じることができるらしい」


 能力を封じる?!

 神様からもらったこの力を!?

 そもそも僕らみたいな転生者、転移者なんてのはこの世界にとっては異物だ。

 まして神様から貰った能力なんて人智を越える代物。

 それを封じるなんて、それこそ同等かそれ以上の……。


「……!」


 え?

 まさか。

 僕以外の?


「そういうわけだ。諦めたまえ」


 誰だ。

 誰が……。

 僕のことを知ってるのは、現時点で三人。


 グリフ・ローウェル。

 ルミリア・フェルデイン。

 そして、トーヤ・サザナギ。


 この三人だ。

 けれど、多分トーヤ君はない。

 アルバートを唆して僕を連れ出す意味が全くないからだ。

 仮にトーヤ君であるなら、もっと簡単なやり方がいくらでもある。


 それなら残りの二人は?

 いや、彼らも同じだ。

 面識はあるんだし、何だかんだ理由をつけて僕に会えばいい。


 あれ?

 それじゃあ怪しい人なんて……。






『君が行く世界にもそういった者が五人いる』






 神様がそう言っていたのを思い出した。

 そうだ。

 この世界で目覚めたときに情報を整理したじゃないか。

 この世界には、転生者、転移者が僕を含めて六人居るんだ。


 アルカ・ラカルト。

 グリフ・ローウェル。

 ルミリア・フェルデイン。

 トーヤ・サザナギ。

 ユト・アルシャマ。


 これで五人。

 あともう一人、会ってない誰かが居る。






──ガッ!






 急に馬車が止まる。


「どうしたというんだい?!」


 馬車の外を見たアルバートの顔が歪む。


「追い付いてきたのか!?」


 舌打ちをして外へ飛び出した。

 そして次の瞬間、猛烈な風と炎が馬車の後部を吹き飛ばした。


「んんー!!」

「くっ!」


 空いた所からアルバートが飛び込んでくる。

 そしてどこからか刃物を取り出すと、僕の首に押し当てた。


「そこまでだ! それ以上抵抗するなら彼女の命はない!」

「んー!」


 こいつは本当にあのアルバートなんだろうか?

 彼がこんな下らない人間だったなんて……。


「出てこい!」


 アルバートが叫ぶと、暗がりから大きな影と小さな影が現れた。

 それはトーヤ君とニキだった。


「ユトちゃんを解放しろ!」

「そうすれば、こちらも悪いようにしないよ?」

「フフッ、笑わせないでくれたまえ。この状況、君たちは上からものを言える立場ではない」


 刃が僕の首に食い込む。


「投降はしないか」

「ああ、とうぜ──」

「なら救済の余地はない」


 その瞬間トーヤ君がアルバートの後に立っていた。


「は?」


──ゴトリ……


 そんな音をたててアルバートの首が僕の目の前に落ちてきた。






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