─41─
こっそり投下。
夜。
クラウス魔法学校の食堂で、クラウスとランバートの交流会が行われた。
食事はバイキング形式で各々が思い思いに食事をとっていた。
「すごい戦いでしたわ! ユトさん!」
「あの人外の中で立派に戦ったと思いますよ」
「は、はは……」
カンナちゃん、毒が強めだね……。
でもまぁ、僕たち一般生徒からしたら、上位の人たちは別次元のように思えるのも確かだ。
「人外とは心外だぜ……、カンナちゃん」
「カンナ、俺たちも頑張ってるんだ」
「頑張って人間をやめるといいんです」
カンナちゃんはにこりと笑う。
「と、とはいえ、ユトちゃんは本当にいい試合をしたよな」
「そういえば、対戦相手と何か話していたようですが、なんだったのでしょう?」
「あー……、それは……」
「見つけたよ愛しき君!」
うわ出た。
「フフッ、さあアルシャマさん! 僕とまろやかで甘いひとときを過ごそうじゃないか!」
「なんですかこの勘違い紳士は」
カンナちゃんが忌避の眼差しをアルバートに向ける。
「このふわふわマンは気にしないで」
ふわふわマンの隣には小さな少女。
「ニキか」
「や、トーヤ君、試合ぶり!」
クラウスの学年トップ、トーヤ君と対戦したニキという子だ。
桃色の長い髪の毛を後ろで一本の長い三つ編みにしていて、彼女が動く度にそれは大きく揺れていた。
顔立ちも体つきも同じ年齢とは思えない幼さ。
「…………」
ニキがジッと僕の方を見ていた。
あー、なんかこの子妙な鋭さがあるっぽい。
「…………」
ニキは黙ってロザリーさんのに近づいた。
そして。
「え!? な、なんですの?!」
なぜかロザリーさんの胸をさわった。
──ぽよんぽよん
「……ダメ、テキ!」
「え? え?」
次にカンナちゃんに近づき。
「なんのつもりですか?」
また胸を触る。
──ぷにぷに
「……テキ?!」
「なんですその微妙な反応は!?」
そして僕の所に来て。
──ぺたぺた
「……」
「……」
「……よし、ナカマ!」
「くっ……!」
なんだろう、ひどい屈辱感と敗北感が……。
「えっと、アルバートと戦った人だよね? 初めまして、ニキ・フレースベルクです」
ニキがぺこりと頭を下げた。
「あ、ユト・アルシャマです」
僕も頭を下げる。
「それじゃあユト!」
ニキはばっと頭をあげる。
「今日から二人で『ナイスチチーズ』の結成だね!」
「な、なにそれ……?」
「この胸囲の格差社会に異を唱える勇気ある人達の称号だよ!」
「そ、そうなんだ……」
よくわからないけどあんまり嬉しくない。
「さあアルシャマさん! 自己紹介も終わった! 少しだけ付き合ってくれたまえ!」
アルバートが僕の腕を掴み、連れ去ろうとする。
まあ、約束だから仕方ない。
僕は渋々ついていくことにしたのだが……。
──ガシッ!
反対側の腕をニキが掴む。
「今日の試合で、ユトに興味が湧いちゃった。あっちでお話ししよう?」
「え?」
「ふふっ、いけないお嬢さんだ。アルシャマさんは僕と先約があるんだよ?」
「ふわふわマンとの約束なんてどうでもいいからあっち行こう?」
「ちょ……」
「君も聞き分けがないね? フレースベルクさん」
「あんた二番目、私一番目」
「おや、それは今出すべき話ではないと思わないかい? なんなら、今この場でその順位を変えてもいいんだよ?」
「できるならねー」
なんだか穏やかじゃない空気になってきた。
順位を掛けて争うのはどうぞ勝手にしてくださいって思うけど、僕が原因でケンカになるのは気分がよくない。
「ま、待って! どっちの話も聞くから、ケンカしないで!」
「ふっ。それは嬉しいことだね」
「やったね! 私の話も聞いてくれるんだ?」
二人とも喜んでる。
とりあえずこれでこの場は……。
「だからどちらが……」
「先におしゃべりするか……」
「「決めないと!」」
ダメだああああっ!!
「ちょっ、ちょっと!」
まさに一触即発。
私のために争わないでー!
うわぁ、初めて使ったこの言葉……。
一度使ってみたかったんだぁ。
って、いやいや、逃避してる場合じゃない!
「わわっ! 二人とも!」
「いくよ、フレースベルクさん!」
「望むところだぁっ!」
こんな所で一番と二番が争ったら滅茶苦茶だよ!
「やめっ……!」
「はいはいストップだ」
トーヤ君が二人の間に入った。
「俺、一番より強い一番。おーけー?」
「……」
「……」
ニキとアルバートは黙って手を引いた。
「ここで争っても周囲に迷惑がかかるね。ここは一時停戦だよ、フレースベルクさん?」
「そうだね」
流石と言うか、この二人を黙らせちゃうあたり、やっぱりトーヤ君の実力は相当なんだろうなと思う。
「ニキ、お前が悪い。ここは先約がある彼に譲れ。ユトちゃんはどっちとも話すって言ってるんだから」
「むぅ……。仕方ないなぁ……」
ニキはとても不満そうだったが、状況的に自分が悪いのは分かっているようで、渋々身を引くことにしたようだ。
「それじゃあアルシャマさん、改めてよろしく」
「う、うん……」
どんな話をするのか見当がつかないけど、約束は約束だ。
……若干気が重い。