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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・魔法学校交流戦
42/55

─40─

「不公平だ!」


 クロードはとても不機嫌な様子で椅子に腰かけた。


「仕方ないだろ。運だ、運」

「こっちもユトを出したからね。向こうにもそりゃ居るでしょ」

「にしても張り合い無さすぎだってーの!」


 現状を説明すると、つい先程クロードの試合が終わったばかりなんだけど、クロードの相手は不幸にもランダム枠だった。

 いや、不幸だったのは相手側か……。

 その相手は、強くもなく、弱くもなく、成績も中途半端な、特に特徴のない人物だった。

 彼はクロードの軽い小手試しのストーンウォールであっさりと気絶してしまったのである。


「せっかく俺の見せ場だったのによぉ!」

「ラインハート、またチャンスはある。慢心せず、努力しろ」

「はい、わかってますよ」


 不服そうだったが、クロードもどうにもならないことは分かっているのかとりあえずは納得したようだ。


「となれば、最後はサザナギだな」

「相手も一番の方ですからー、頑張ってくださいー」

「サザナギ君なら心配はないでしょう」

「方向音痴だがな。ちゃんと試合場所まで行けるかどうか」


 先生、扉をひとつ潜ったらたどり着けるんですが……。


「大丈夫ですよ、先生」


 トーヤ君は苦笑いしながら反対の扉へ向かった。


「おい」


 先行き不安だ。











『いよいよ最後の試合となりました。奇しくも互いの魔法学校より、成績トップの二人の試合です!』


 観客席からは更に大きな歓声が沸き起こる。

 今日一番の盛り上がりだ。


『クラウス魔法学校より、ニキ・フレースベルク! 知識、戦術、魔法、どれをとってもトップクラス! クラウス魔法学校でも屈指の魔法使いになると、期待の生徒です!』


 少女が一人、前に出てくる。


「あれ?」


 僕は目を擦る。

 遠いせいだろうか……。

 随分と相手の生徒が……。


「ちんまいな!」


 クロードが驚いた声をあげる。

 だとするなら、やっぱり見間違いではないみたいだ。

 見た目はどう見ても小学生。

 あれか、異世界ではよくあるロリ枠かな。


「……!」


 ニキという少女に睨まれた気がした。


「み、見かけで判断したら痛い目見るんじゃないかな?」


 誰にというわけではないけどフォローを入れといた。


『ランバート魔法学校より、トーヤ・サザナギ! ランバートでも歴代最高ではないかという素質を持つ生徒! 当然魔法の扱いも抜群のセンスを持っています!』


 トーヤ君が前に出た。


『両校学年最高同士の試合だ! これが楽しみでなくてなんだと言うのか?!』


 沸き起こる歓声がこの試合への期待を分かりやすく表していた。


『それでは試合開始だ!』


 試合開始の合図。

 それと同時に両者は歩み寄る。


「久しぶり、トーヤ君」

「……クラウスに入ってたのか、ニキ」


 あれ?

 二人は知り合い?


「ユウトは見つかった?」


 トーヤ君は肩をすくめる。


「残念ながらな」

「もう忘れてもいいんじゃない?」

「……無理だ、な!」


 試合は唐突に始まった。

 トーヤ君のウィンドカッターがニキを襲う。

 ニキはそれを軽やかにかわし、フォースを放った。

 青い光が爆発を起こす。

 あー、僕は失敗したけど、フォースって本来はこういう感じなのか。


「いきなり酷いよ! ビックリするでしょ!?」


 ニキはぷんすこ怒りながら地面を踏む。


「ま、お前ならあの程度かわして当然だな」


 爆煙の中から声がする。


「べ、別に誉めてもらっても嬉しくないから!」


 ニキはぷいと顔を背けた。


「それじゃあ、もう本気でかかっていいな?」

「いいよ。久しぶりに遊ぼう!」


 トーヤ君は両腕を上に上げて振り下ろす。

 ニキは両腕をクロスさせて上に向けた。

 次の瞬間、ニキの周囲の地面がベコリと凹んだ。


「受けきるか……!」

「軽いね!」


 正直、詠唱動作が覚えられてないから何がなんだか……。


「トーヤは上から空気の塊を落とす魔法、『ダウンバースト』を使って、ニキって子は腕をクロスさせた方向に魔力の防壁を張る魔法、『マジックシールド』を使って身を守ったんだ」


 分かっていない様子の僕に気付いたのか、クロードが説明してくれた。


「ありがとう、クロード君」


 クロードはぐっと親指を立てた。


「いいねー、この感じ懐かしい!」


 ニキはニコニコしながら次々と放たれるトーヤは君の魔法を避けている。

 今さらだけど、あの子本当に身軽だなぁ。

 あの小さい身体のどこにそんなポテンシャルが……。


「……!」


 また睨まれた気がした。

 なんだろう、変なセンサーがあの子には付いてるんだろうか……。


「やっぱりなかなか攻めさせてもらえないね。トーヤ君のスタミナ半端ないよ! それだけ魔法を撃ってもバテないなんて」

「そりゃどうも」

「じゃあこっちもちょっと奥の手」

「奥の手?」


 ニキは動きを止めた。

 地面に仁王立ちし、まるで魔法を当ててくれと言わんばかりだ。


「……どういうつもりだ」


 トーヤ君は容赦なくそこへ魔法を放つ。

 しかし。


「まあまあ、ゆっくりしてってよ」


 ニキは腕をクロスさせ、マジックシールドを張る。

 トーヤ君の魔法は盾に弾かれて霧散した。


「それじゃあ何も……」

「『業炎の魔槍よ、全てを焼き貫け!』」

「呪文詠唱!?」

「『フレイムランス』!」


 炎の槍が生成され、トーヤ君めがけて飛んでいく。


「くっ!」


 それを避けつつトーヤ君は拳を振り抜いた。

 風の渦がニキへ飛んでいくが、それは魔力の盾に弾かれたしまった。


「うぇー、あんなのありなの?」


 リリシャがうんざりといった様子でぼやく。


「詠唱動作でマジックシールドを張って守りつつ、呪文詠唱で攻撃……、そうそうできるもんじゃねぇぞ……」

「動作と呪文とそれぞれ魔力を通さないと駄目ですからね。それに、それぞれ違う属性となると、非常に高等な技術ですよ」

「そんなに難しいんですか?」

「そうですねー。アルシャマさん、右手で円を描きながらー、左手で四角を描けますかー?」


 ミリン先生が言った通りにやってみる。

 う……、片方に集中したら、もう片方が釣られる……。

「イメージで言えばそんな感じだな。両方に同じくらい集中するか、体で覚えるかしないとまず無理だろう。まぁ、厳密には違うからな、そう簡単にはいかない」


 全然違う世界だなぁ。

 なんとなく遠い目をしてしまう。


「でも、あんなことされたら打つ手がないんじゃないですか?」

「いえいえー、あれもパーフェクトなものではないんですよー。サザナギ君は分かってると思いますけどー」


 試合に目を戻す。


「面倒な……」


 トーヤ君が前に踏み込む。


「ま、トーヤ君なら分かってるよねー」

「それは相当な集中力がいるだろ? 動きながらは無理なんじゃないか?」

「……と、思うじゃん?」


 ニキがにやりと笑う。


「『獄炎を食む朱き捕食者。我らの敵を喰らい尽くせ!』」


 ニキの背後で炎のが渦巻く。


「『顕現せよ!』」


 炎は徐々に形を成していく。


「『サラマンダー!』」


 全てを焼く燃え上がる鱗、全てを怯ませる尖った眼差し、全てを喰らい尽くす悪夢の口。

 炎は巨大な炎の蜥蜴になり雄叫びをあげた。


「オオオオオオオッ!!」

「マジか!?」

「さあサラマンダー! 喰っちゃって!」


 サラマンダーがその口を大きく開きトーヤ君に襲いかかる。


「こん……のっ!」


 サラマンダーはニキを護るように立ち回る。

 これじゃあトーヤ君はまともにニキに近づけない。


「さてトーヤ君どうしよう? クスクス」

「……じゃあ」


 トーヤ君はニキから距離をとる。


「奥の手なら俺もある」

「……あー」


 ニキから余裕が消えた。


「マジ?」

「マジもマジ大マジだ」


 トーヤ君は両腕を後ろに回した。


「お前が呪文詠唱を使うなら、俺は!」


 トーヤ君は右手を掬い上げるようにして振り上げ、左腕は拳を作り前に振り抜いた。

 まず波が起こり、それを風が追う。

 風は波のスピードと高さを増し、それはまるで津波のようになった。


「わっわっ、サ、サラマンダー!」


 サラマンダーがニキの前に飛び出し、津波を防ぐ。


──ジュワッ!


 炎が水を蒸発させ、水は炎を掻き消し、蒸気が周囲に広がった。


「サラマンダーを消すなんて……」

「ニキ、お前は魔法を破られたときの隙をなんとかしないとな」

「あ……」


 蒸気の中、トーヤ君はニキとの間合いを詰めていた。

 そしてニキに足をかけて転ばせる。


「いたっ!」

「さて、次はどうする?」


 転んだニキを睨み付け、トーヤ君は威圧的に言葉を発する。


「あーんもう! わかったよぅ、参りました。参りましたよー!」


 ニキが半べそかきながら降参した。


『し、勝者はランバート魔法学校トーヤ・サザナギだぁ!』


 歓声と拍手が巻き起こる。

 そりゃそうか、片や詠唱動作と呪文詠唱を組み合わせた魔法使い、片や異なる属性の魔法を応用魔法で組み合わせた魔法使い。

 どちらも滅多に見られるものじゃない。

 ……と、さっき先生が言っていた。


『これにてクラウス魔法学校とランバート魔法学校の交流試合を終了します! 素晴らしい試合の数々でした! 皆様! もう一度出場生徒たちに拍手を!』


 大きな拍手はしばらく止むことはなかった。







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