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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・魔法学校交流戦
41/55

─39─

「ユトちゃんすごい!」


 戻って来た途端、リリシャが僕に飛び付いてきた。

 ぷにゅっと柔らかなものが体に触れる。


「大健闘だったぜ!」

「本当によくやったよ」

「…………!」


 オウマがぐっと親指を立てた。


「アルシャマ、やはり参加してよかっただろう?」


 先生はなんだか嬉しそうだ。


「それにしても、ファイアボールだけじゃなくて、ストーンウォールやアクアブレードまでいつの間に?」


 クロードが首を傾げる。


「う、うん、あれ、まぐれだよ」

「まぐれにしてもだな……」

「それに関してはー、私からお話がー」


 話していると、すいっとミリン先生が入ってきた。


「ミリン、私の生徒に変なことはするなよ」

「あらー、大丈夫ですよー。レニー先生ったらこわいー」

「レニー先生、もしかしたらアルシャマさんは」

「ふむ……。普段ボーッとしているアルシャマがか?」


 な、なんだろ?


「アルシャマさん、ちょっと試したいことがあるのでー、着いてきてもらえますかー?」

「は、はい」

「よかったら皆さんもー」

「ミリン先生、次俺の試合なんだけど……」


 クロードが手を上げた。


「はいー、でもさっきの試合で倒れた木々の修復とー、休憩時間があるので次の試合はもう少し後になるってー、さっき聞いてきたんですけどー、言ってませんでしたかー?」

「言ってないですよ、ミリン先生……。教師がしっかりしなくては生徒に示しがつきません……」


 ソルト先生はため息をつく。


「うふふ、私、こういう性格ですからー」


 ミリン先生に反省の色はない。











 ぞろぞろと、ミリン先生に引き連れられてやってきたのは、魔育館裏手の小さなスペースだった。

 特にその場所に何かあるわけでもなく、人もあまり訪れなさそうな場所だけど、ゴミ一つ落ちてないし、草木の手入れも行き届いていた。


「それではアルシャマさんー、ちょっとここで魔法を使っていただけますかー?」

「え? でもここは魔育館じゃないですけど……」


 僕たち魔法学校の生徒は、基本的に魔育館以外での魔法の使用は禁止されている。

 場合にもよるけど、最悪の場合退学ということもある。


「大丈夫ですよー。許可はいただいてますしー、私たち教師もついてますからー」


 ミリン先生は手を合わせてふんわりと笑う。


「安心してくださいアルシャマさん。この事で責任を問われることはありません」


 ソルト先生がそう言うなら……。


「あらー? ソルト先生の言葉で納得した感じですかー? なぜかしらー?」

「ミリン、普段の行いだ」

「あらあらー」


 ミリン先生は残念そうな顔はしているが気にはしていないようだ。


「それじゃー、始めましょうか。アルシャマさん、『ストーンウォール』が出せますかー?」

「えっと……」


 まぐれ撃ちだったけど、どうだろう?

 腕を振り上げてみる。


「あらー」

「こ、これは……」

「なんとも……」


 出現したのは高さ10センチほどの土の山……。


「……」

「ま、まぁ、ユトちゃん! そんな気にすることないぜ!」


 予想はしてたけど、いざ現実を見ると少し悲しくなる……。


「でわー、次は『アクアブレード』はどうですかー?」


 指を二本立ててみる。


「わっぷ?!」


 指先から水鉄砲みたいに水が飛び出し、クロードの顔にひっかかった。


「……」

「ユ、ユト! 失敗は誰にでもあるわ!」


 やっぱり偶然か……。


「『ウィンドカッター』はー?」


 えっと確か教科書通りだと……。

 指で空をすいーと払う。


「んー、心地よい風……」


 クロードは慌てて口を押さえて首を振る。


「気を使わなくていいよ、クロード君……」

「あ、いや……」

「次は『ライトニングボルト』でー」


 確かそれはアルバートが使ってたやつだ。

 天を指差したら……。


「イテッ! なんか静電気みたいなのが!?」


 トーヤ君とリリシャがクロードの頭を思いっきりひっぱたいた。

 クロードは顔面から地面に倒れ動かなくなった。


「『ブラックハウル』ー」

「……って、どうでしたっけ?」

「あらー? アルシャマさんたらわすれんぼさんねー。オウマ君、お手本をー」


 オウマがすすすと前に現れた。

 そして、少し腰を落とし、腰の辺りで拳を作る。

 一瞬間をおいた後、捻りを加えながら拳をつき出すと、黒い波動のようなものが飛び出し、1メートルほど進んで霧散した。

 ことが終わると、オウマは再びすすすと後ろに下がった。


「わかりましたかー?」

「は、はい」


 要は正拳突きの要領だ。

 でも……。


「ミリン先生、私、今まで土も水も風も光も闇も使ったことないんですけど……」

「はいー。だから今使ってもらってるんですー」

「で、でも……」

「とにかくやっちゃってくださいー。それでわかりますからー」


 何がわかるって言うんだろう?

 ミリン先生も有無を言わさない感じだし、とにかくやるしかないみたい。


「……う、うーん」


 オウマがやったみたいにやってみる。


「えいっ!」


 すると、なんだか墨みたいなものが飛び出して倒れているクロードにびちゃりとかかった。


「なに、これ……」


 失敗は確認するまでもなく理解できた。


「それではー、最後にー、『フォース』。いけますかー?」


 フォースといったら非干渉属性の無だったと思うけど……。


「ミリン先生、無──」

「理かどうかはあとでいいですー。やってくださいー」

「……」


 ミリン先生は僕の心を折るつもりなんだろうか……?

 学年最下位がちょっと健闘したくらいで調子に乗るなってことなのかもしれない。

 そりゃそうだよね……、僕なんてどうせ……。


「ミリン、アルシャマが酷く傷ついているように見えるが?」

「ミリン先生は人の心を考えませんからね……」

「あらあらあらー、レニー先生もソルト先生もひどいわー。私だって生徒を愛してますよー?」

「だといいんですがね」

「アルシャマ、これで最後だ。気にせずぶっぱなせ!」


 う、うーん……。

 そうか、逆にこれで解放されるんだ。


「よ、よし……」


 成功失敗はどうでもいい!

 とにかく終わらせよう!

 あの意地悪なミリン先生から逃げるんだ!


「あらー? 何か酷いことを言われてるような気がしますー」

「日頃の行いですよ、ミリン先生……」

「まあー。この際私がどう思われるかは気にしないでおいてー、いいですかー? アルシャマさん?」

「はい!」

「あらあらー。元気がよくなったわねー」


 フォース。

 確か……。

 両手を胸の前でパンと合わせる。


「おおっ!」

「あらー!」

「アルシャマ!」


 青い光が僕の前に出現し、一瞬大きく膨らんだ後、小さく収縮して消えていった。


「これは!」

「恐らく」

「失敗ですー」


 失敗か……。











「はいそれではー」


 僕らは控え室に戻って来た。


「先程の実験でー、いいこととー、悪いことー、それぞれ一つずつわかりましたー。アルシャマさん? どちらから聞きたいですかー?」

「え? えっと、それじゃあ悪いことか──」

「いいことからですねー、わかりましたー」


 僕の意思は?!


「えっとですねー。アルシャマさんはー、『マスターエレメント』だということが分かりましたー」

「マジか!」

「すごいことだぞユトちゃん!」

「学年最下位って嘘でしょ?!」

「…………!?」

「マスターエレメント?」


 皆は驚いているが、意味がわかっていないのは僕だけのようだ。


「はいー。全属性を扱うことのできる稀な体質の人間ということですー」

「でも、全部失敗しましたけど……」

「確かに全て失敗しましたが、失敗とはいえ魔法が放たれました。形になっていないだけで、全属性を使うことができたということです」

「通常、一人が扱える属性は二つ、多くて三つ程度だ」

「各属性の相性もありますからー、大抵、その人が得意な属性の弱点となる属性は扱いが難しいんですー。例えばー、土が得意な人は風を扱うのが苦手だったりしますねー」

「あ、それ俺じゃん」

「そういったものを無視して使うことが出来る人間。それがマスターエレメントです」


 全属性使えるとか、ゲームなんかでは割りと当たり前だけど、実際は難しいことなんだね。

 うーん、でも僕がマスターエレメントって、どうも似合わない気がする。

 イメージ的にはトーヤ君の方だよね。


「うん、ちょっと自信が──」

「それでー、ちょっと待ってくださいねー、アルシャマさん」


 僕の言葉をミリン先生が制す。


「悪い話の方ですがー……」

「う……」


 いやもう嫌な予感しかしないんですが……。


「これは大事なことなのではっきり言いますねー?」


 ミリン先生が僕の顔を覗き込む。


「アルシャマさん、貴女は『魔法の才能』がありません」


 あ、あー……。

 うん、わかってたよ、そんなこと。

 今さら言われるまでもないじゃないか。

 ずっと前から、成績で既に突きつけられていたことじゃないか。


「あ、はは……、そ、そうですか。そうですよね」

「ミリン! 言い方というものがあるだろう!?」


 先生が声を荒げた。


「ダメですよー、レニー先生。残酷かもしれませんがー、本当のことを知るのも大切なことですー。続けても成長のないことを無意味に続けることは愚かなことですよー。下手をすれば、これから先の人生を棒に振ってしまうかもしれませんー。現実を知り、その上で何を選び、何をしていくのか決めていくのがいいんですー」

「っく……、こういうときだけ妙にまともなことを……!」

「……」

「ユトちゃん……」


 うん、うん、……大丈夫。

 期待なんかしてない。

 秘めたる力なんてない。

 才能ある人間なんて一握りだ。


「ご、ごめんなさい……、ちょっと、考えたいことがあるので……」

「ユト!」


 僕は控え室から逃げた。











 考え無しに出てきたけど……。

 なんかちょっと戻りにくいし、たぶんもう少し再開まで時間があると思うから少しぶらぶらしようか……。


「えっと」


 今いる場所は……、中庭かな。

 真ん中に噴水があって、その周りにはベンチ。手入れの行き届いた花壇には、季節の花が咲いていた。

 とりあえずベンチに座る。

 生徒も先生も魔育館に居るのか、周囲に人影はほとんどない。

 ……今はその方がいい。


「はぁ……」


 なんだか複雑な気持ち。

 もしかしたら、なんて変に期待を持っちゃったから。

 ここは異世界だけど、小説や漫画とは違う。

 元の世界と同じで都合よくいかないこともたくさんある。

 あー、また思考がネガティブな方向に……。

 よし、とりあえず魔法のことは忘れて。


「あらあらー、アルシャマさん。探しましたよー?」

「ミリン先生……」


 なんというか、この人はタイミングが悪い。


「すみませんー。貴女には酷な話だったかもしれませんねー」


 ミリン先生は「隣いいですかー?」と付け足す。

 僕が頷くとミリン先生はベンチに腰を下ろした。


「レニー先生の言う通りでしたー。伝え方というものがありましたねー……」


 ミリン先生には珍しく、反省しているように見える。

 と、いっても僕はこの先生の何を知っているわけでもないんだけど。


「私もすみません。急に飛び出したりして……」

「いいんですよー。気にしないでくださいー。……おかげでアルシャマさんと、二人でお話ができますからー」


 ミリン先生がふにゃりと笑う。


「私になにかお話が?」

「はいー。マスターエレメントのことでー」


 それは……才能がないから僕には……。


「もしかしたらなんとか出来るかもしれませんー」

「え?」


 それは意外な言葉だった。

 なにせそう言ってるのは、さっき全否定をした張本人なんだから。


「もしー、……もしですよー? 興味があったら私のところに来てくださいー。いつでもいいですのでー」

「ミリン先生?」


 ミリン先生はすっくと立ち上がる。


「お話はそれだけですー。いいですかー? 次の試合までにはー、絶対戻ってきてくださいねー?」

「あ、はい」

「でわでわー」


 ミリン先生は校舎のなかに消えていった。

 マスターエレメントがなんとかなるかもしれないって、どういうことだろう?









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