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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・魔法学校交流戦
40/55

─38─

 虚像が消え、本物のアルバートが現れた。


「いくよ、アルシャマさん!」


 アルバートが両腕を前に突きだし、手を開く。

 僕の周りに小さな光の玉が出現した。

 さっきより数が多い。


「わっ!」


 またあれが来る!

 僕は後ろに飛び退き、さらに距離をあける。

 光は収束し、二つの光の玉になった。


「距離をあけてくれてありがとう」


 アルバートは野球の投手のようなフォームで右腕を振り抜いた。

 光の玉の一つがもの凄い速さで僕に向かってくる。

 でもそれは見てから判断できる程度の速さだ。

 光の玉は難なくかわすことができた。

 ただ、アルバートの魔法がこれで終わる訳じゃないだろう。


「はっ!」


 アルバートが腕を引く動作をする。


「!?」


 背後にとてつもない殺気を感じ、僕は横に転がった。

 その直後、僕の居た場所を光の玉が通過していった。


「ほらっ!」


 戻ってきた光の玉をアルバートはもう一つの光の玉で打ち返す。

 まるでテニスみたいに。


「そういう……」


 だから距離をあけてくれて……なんて言ったのか。

 確かにこれは間合いを詰められてるときには使いにくい。

 それなら間合いを詰める!

 打ち返した後、引き戻すまで時間があるはず。

 その間に!


「いいかいアルシャマさん」


 アルバートが左手を翳す。


「提示された選択肢を選んだ時点で」


 その動きにもう一つの光の玉が追従する。


「君は完全に僕の術中だ!」


 僕は強く地面を踏み止まろうとするが。


「そこは間合いだ!」


 アルバートが左手を開き、光の玉が弾ける。

 光の玉が散弾となり周囲に飛び散る。

 誘われた!

 どうしよう?

 避けられない。


「くっ、そ!」


 できるかどうかなんて知らない。

 できなかったとして結果は同じ。

 自棄だった。

 右手を振り上げる。

 それはストーンウォールの詠唱動作だ。

 この状況、身を守るためにはそれしか思いつかなかった。

 痛みに備え目を瞑る。


「った……!」


 体に痛みが走る。

 やっぱりだめだったか……。


「フフッ、流石だよアルシャマさん。あの状況から咄嗟にストーンウォールで防ぐなんて!」

「え?」


 目を開けるとそこに石の壁があった。


「え、ええっ?!」


 驚いて思わず声が出た。


「ど、どうしたっていうんだい?!」


 アルバートも驚いた僕に驚いていた。


「は、え?」


 な、なんでできたの?

 ぶっつけ本番練習なしなのに。


「うそ」


 腕をぐいと動かしてみる。


「…………」


 結果、なにも起きなかった。


「……ま」


 まぐれえぇぇぇぇぇっ!?


「フッ、僕も少し楽しくなってきたよ。君の立ち回り、状況をよく見て動いてる。弱いなんて謙遜だね」

「いやいやいやいや、まぐれ! まぐれだよ!」

「本来の力を隠し、相手の意表を突く。僕としては騙し討ちというものは好きではないけれど、強者を相手にするにはとても効果的な手段だ。見事な作戦だよ」


 深読みしすぎっ!

 ヤケクソなだけだよ!


「離れてるのが勿体ない。踊ろうか、アルシャマさん?」


 アルバートはくるりと回って一礼をする。


「『ダンシングソード』」


 すると、彼の周りに十本の光の剣が現れた。

 どう見ても接近特化の魔法だ。

 いや、あの長さなら中距離までいけるかな。


「舞え!」


 アルバートが体を動かすと光りの剣がその動きに合わせて揺れる。

 まるで輝くマントを翻しているように見える。


「わわっ!」


 器用に剣を操り、身を翻すその姿は本当にダンスを踊っている様だ。

 観客席からも歓声と拍手が起こり、立ち上がる人まで居る始末。

 なるほど確かに、彼の舞う姿は綺麗で繊細でそれでいて力強さがある。

 なんだか悔しいけど、魅了される人が居るのも頷ける。

 でも僕は見とれている余裕がない。

 アルバートのダンスは全て僕に向けられているものだから。


「ととっ!」


 かわすのがやっとで反撃の余地もない。

 魔法とはいえ剣だし受けることもできない。


「どうしたんだいアルシャマさん! 逃げてるだけじゃ、状況は変わらないよ!」


 そんなことは分かってる。


「ほらっ!」


 だから逃げるんだ。


「む!」


 アルバートが動きを止めた。


「なるほど……」


 木々の乱立した場所。

 ここは観客席から確認することの出来たあの林の中だ。

 ここまで逃げてきた。


「ここじゃうまく踊れないね。フフッ……」


 とはいえ、ずっとここに居るわけにもいかない。

 あの剣に対抗するには……。

 えっと、なにか、なにかあったっけ……。


「集え……」


 アルバートが光の剣に手を翳す。


「……そんなの、あり?」


 剣が一つに収束し、一本の巨大な剣になった。


「アルシャマさん! 君なら避けてくれると信じてるよ!」


 そんな信頼いらないよ!


「はあっ!」


 大剣が横に振り払われた。

 まるで草でも刈るみたいに木々が薙ぎ倒されていく。

 ふざけた破壊力だ。

 でも今しかない!


「……!」


 倒れる木々に紛れ、アルバートとの間合いを詰める。

 あの大剣、取り回しは悪いはず。

 勢いよく振り抜いた今なら。


「どうか……」


 指を二本立てる。

 話に聞いただけの魔法。

 使えるか?

 指先に水が収束する。

 いける?


「やあああっ!」


 水は刃となった。


「アクアブレード!?」


 アルバートに斬りかかる。


──カァン!


 しかし、水の刃は途中で動かなくなってしまった。

 いや、受け止められたのか。

 そこにあったのは普通サイズの光の剣。


「すごいよアルシャマさん! 三属性も使えるなんて! 予想外だ!」

「偶然……、だよ。貴方こそ、ここまで読んでたなんて……」

「フフッ、あの大剣は大振りだからね。いつも保険で一本は残してるんだよ」

「……」

「本当に状況をよく見てるよ。魔法の狙いどころもいい。学年最下位なんて嘘みたいだ」


 魔法に関してはまぐればっかりだけどね。


「でも、今度こそチェックメイトだよ」


 アルバートは大剣に翳していた手を下ろす。

 大剣は再び九つの剣に分離して僕を取り囲み、その切っ先を僕に向ける。


「ここからの打開策はあるかい?」

「……」

「どう?」


 アルバートはにこりと笑う。


「参りました……」


 ない。

 もう何も出来ない。


『勝者はアルバート・ジェルミー!』


 歓声が沸き起こる。


「アルシャマさん」


 光の剣が消されたので、僕もアクアブレードを解く。


「いい試合だったよ」

「だといいけど……」


 アルバートは首を横に振った。


「成績なんて関係ないんだ」

「……まぐれだよ」


 アルバート苦笑する。


「アルシャマさん、もっと自分に自信を持った方がいい。たとえまぐれだとしても、出来たことには変わりない。出来ることなんだよ」


 その言葉にはなんとなく救われた気がした。

 まぐれでも出来た。

 それは出来ることか……。


「そうかな……」

「ああ」


 アルバートがぐいと僕に近付く。


「君はもっと、自分の可愛さと強さに気づいた方がいい」


 ち、近い……。

 それにしても、近くでまじまじと見てみると、きれいな顔だなぁ。

 性格はあれだけど……。


「おや? 顔が赤いようだけど、大丈夫かい?」

「……!」


 急いでアルバートから離れる。


「フフッ、本当に素敵だよ、アルシャマさん」

「う、うるさい!」


 言い返す言葉が見つからず、そんな反撃しかできなかった。


「それじゃあ、今夜の約束、楽しみにしてるからね」


 アルバートはしれっと手を振りながら去っていった。


「あー……」


 そうだ。

 そんな約束してたんだった……。








ちなみに、アルバートの性格などの参考にしたのは花マン。

これで伝わる方は、一緒においしいお酒が飲めそう。

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