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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
最初の異世界人?
4/55

─4─ トーヤ

視点が変わります。

視点が変わる際には、その登場人物の名前をサブタイトルに記載しています。

 時間は数時間前にさかのぼる。

 時は放課後。

 俺はとある奴から教室に呼び出された。


「おう! トーヤ待ってたぜ!」

「どうしたんだよクロード?」


 こいつはクロード。

 クロードが転校してきたばかりの俺に気さくに話しかけてきてくれたおかげで、俺は早くクラスに馴染むことが出来た。


「今日の魔法の実技は流石だな!」

「あんなの大したことないよ」

「はは、謙遜なんだろうけど、お前が言うと嫌味にしか聞こえないぞ? 学校創設以来、お前ほど優秀な生徒は居なかったって先生たちの間でも話題だぜ? ほんと、転校する前はどこにいたんだよ」

「田舎の小さな学校だよ」

「お前ほどの人材がねぇ……」

「そう言うお前こそ、魔法の実技はいつも好成績じゃないか」

「おまえの前じゃ霞むっての! って、思いっきり話が逸れたじゃねえか」


 クロードは本題に入る。


「ちょっとな、魔法の練習に付き合ってもらいたいんだ」

「めんどくさい」

「時間は取らせないからよ。俺の得意な土の魔法が、不利な風属性にどこまで対抗できるか見たいんだ」

「まったく、クロードは見かけによらず勉強熱心だな」


 クロードは強引なところはあるが、きちっとするところはするし、真面目で好感が持てる。


「わかった。付き合うよ」

「おう! 助かる!」


 それがまさかあんな事態を起こす引き金になるとは、このときの俺は思いもしなかった。











 校内にある広い建物。

 体育館とは別の、魔育館という建物がある。

 体育館が運動をするところなら、魔育館は魔法を使うための建物だ。

 下は土がむき出しで、屋根がない。

 感覚としては観客席のないドームといったところだろうか。

 建物周辺には魔法防壁が配置されており、ちょっとのことではびくともしない構造になっている。


「それじゃあ、風魔法をぶつけまくればいいんだな?」

「ああ、頼む」


 魔育館に移動する間にクロードから説明を受けた。


「いくぞ!」


 クロードがくいと手を動かすと、土が盛り上がり、巨大な泥人形が出現した。

 『クレイマン』の魔法だ。

 出現させた泥人形を操り、術者は安全なところから攻撃が出来る。

 クロードはこのクレイマンの耐久性を見たいらしい。

 それじゃあ手始めに初級魔法から。

 指先をすいーと払う。

 風の刃が出現し、クレイマンを切り裂く。

 が、やはりその程度では傷すら付かない。


 次は中級魔法。

 後ろで拳を作り、それを思いっきり前に振り抜く。

 風の渦がレーザーのように飛んでいき、クレイマンを貫いた。

 クレイマンは体に大穴をあけたものの、すぐにその穴を塞ぎ、再生してゆく。

 流石はクロードのクレイマン。

 その辺の奴のものなら今ので崩壊しているはずだ。


 それなら上級で。

 両手を上にあげ、振り下ろす。

 巨大な空気の固まりが上からクレイマンを圧し潰す。

 クレイマンの足が崩れた。

 ガクンと膝をつくようにクレイマンが傾く。


「うっそ! マジ?!」


 それでもクレイマンは崩壊しなかった。


「どうしたトーヤ。そんなもんか?」

「ムッ……」


 あの挑発的な態度、ちょっとムカつく。

 それならこちらにも考えがある。

 手を上と下に構え、手をパチンと合わせる。さらに間髪入れず、左右に両腕を開き、再びてをパチンと合わせる。

 すると、クレイマンの四方から圧力のある空気が押し寄せ、クレイマンを圧し潰す。

 流石にこれには耐えられなかったようで、クレイマンは潰れ、ただの土のブロックになった。


「げっ!」


 クロードからそんな声が漏れた。

 俺はフフンとどや顔をクロードに向ける。


「かぁー! 流石にそれは無理だっての!」


 クロードが地団駄を踏む。


「いや、不利な属性の上級魔法に耐えたんだ。それだけでもすごい成果だろ。むしろ応用魔法まで出さざるを得なかったんだ。誇るべきだと俺は思うけどね」

「はぁ、まったくお前にはかなわねぇな……」


 クロードが俺の肩をポンと叩く。


「くそっ!」


 続けてドンと叩く。


「いてっ!」


 それがいけなかった。

 俺はうっかり魔法の制御を解いてしまった。

 さて、ここで簡単な理科の実験だ。

 圧縮された空気があります。

 そこから圧力を加える力が無くなるとどうなるでしょう?

 答えは。


ーーーーーーーー!


 弾ける、いや、爆発のような音がしたと思う間もなく、俺たちは壁に打ち付けられていた。

 大量の泥と共に……。


「クロード、悪い……」

「いや、俺こそすまん……」


 痛みに耐えながら泥だらけの二人は互いに謝った。











「え? 風呂?」


 俺は素っ頓狂な声を上げる。


「なんだよ、別に珍しいもんじゃねぇだろ?」

「あ、ああ」


 そうか、風呂か、風呂があるのか。

 寮の個室にはシャワーしかないから無いのかと思ってた。


「誰でも使える大浴場があるんだよ。言わなかったか?」

「聞いてない」


 風呂か。

 体の汚れを流すにはちょうどいいな。


「どこにあるんだ?」

「えっとなーー」


 クロードが口頭で説明してくれた。


「じゃあ行ってこい」

「わかった。って、クロードは行かないのか?」

「ああ、俺は部屋のシャワーでいいわ。何が悲しくて男の裸見なきゃなんねぇんだよ」

「……一理ある」

「まぁ、この時間帯利用してる奴も居ないだろうし、貸し切りで使えるんじゃないか?」

「お、それいいね! じゃあ行ってくる!」

「おう、ごゆっくり」


 この時気付くべきだった。

 クロードの悪意ある笑顔に……。











 お、ここか。

 大浴場と書かれた引き戸。

 入るとロッカーが多く並んだ更衣室だ。

 適当なロッカーに荷物を置く。

 泥が気持ち悪いから早く入ろう。

 服を全て脱いで更に奥の部屋へ。


「おー」


 俺の他には誰もいないようだ。

 めちゃくちゃ広いというわけではないが、大浴場としては十分な広さだ。

 一人で使うには勿体ないくらいだな。

 体を流してお湯につかる。


「はあー、生き返るー」


 湯加減はぬるめだが、ちょうどいい。

 転校してきてもう一ヶ月か。

 クラスにも馴染んできたし、今の生活にも慣れてきたかな。

 この一ヶ月は本当にいろいろあった。

 まぁ、思い返せばいい思い出か。

 故郷が恋しくないかと訪ねられたら、恋しいと答えるだろう。

 なにせ故郷は遠く、多分一生帰ることは出来ないんだろうから。

 あー。

 いかん、マイナス思考だ。

 ゆっくりしているといろいろ考えすぎてしまう。

 風呂から出たらクロードの所にでも行くか。


ーーカラララ……


 ん?

 誰か入ってきた?


「!?」


 手近にあった桶を被り風呂の中に潜った。

 我ながらなんとも完璧な動作だ。

 なぜ潜るか。

 それは対面してはならないものが入ってきたからだ。

 怪物の類ではないが、バレると俺の人生が滅びに近付くこと間違いなしだ。

 桶の隙間から外を確認する。

 そこに居たのは亜麻色の髪の少女。

 あの子は確か、同じクラスのユトちゃん。

 あんまり話したことはないけど、ぼーっとしてて、掴み所のない子だったなぁ。胸的な意味でも。

 っと、俺はナニを考えてるんだ。

 今はそれどころじゃないだろう。

 いや、それよりもどうしてユトちゃんが男湯に……。


「…………」


 待て。

 俺はちゃんと確認したか?

 否! 断じて否!

 クロードがここだと教えてくれたから……。


「……!」


 まさか。

 クロードの奴!

 俺が何も知らないからってこんな罠を!

 よし、アイツは後で十万発ぶん殴る!

 それはさておきどうやって脱出する?

 温めのお湯だ。

 隠れるための湯気もほぼない。

 いくらなんでもこの姿でご対面する訳には行かない。


「……あれ?」


 ユトちゃんが声を出す。

 俺はじっと息を潜めた。


「……まさか、いないよね?」


 なにが?!

 何に反応してるんですか!?


ーーばしゃばしゃ


 少し離れたところから水を叩く音が聞こえる。

 ばた足?

 泳ぎの練習?

 いや、そんなわけないか。

 なにか殺気めいたものを桶越しに感じる!

 感づかれたのか?

 落ち着け……!

 方法があるはずだ!

 この絶望的な状況を脱ーー!


「えい!」


 急に桶が重たくなった。

 いや、押さえつけられてるのか!?


「……ふん!」


 ごふっ!

 まずい! 空気が!


「……おりゃ!」

「!」


 あかん!

 あかんところに入った!

 死ぬ!

 このままじゃ殺される!


「死ぬ! マジで死ぬ!」


 耐えかねた俺はついに湯船から飛び出してしまったのだ。


「て、転校生さん? なんでこんなところに?!」

「ユ、ユトちゃん! ち、違うんだ! 俺は!」


 ユトちゃんは顔を真っ赤にしてお湯の中に身を隠す。


「の、覗きですか?! 変態なんですか?!」

「ご、誤解だ! これは事故で、くそっ! クロードの奴!」


 クロード! 絶対覚えてろよ!


「弁解は後で聞くから出て行って!」


 ユトちゃんが俺の被っていた桶をひっ掴んで俺に投げつけた。


「すみませんでしたあああぁぁぁ!」


 俺は風呂場から退散したのだった。












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