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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・魔法学校交流戦
39/55

─37─

「ああ! 愛しき君! これは運命を感じずにはいられないよ!」

「何にも感じないです」

「ふふっ、僕と君の間には互いに引き合う強力なスプリングがあるのだね」

「無いですそんなもの」


 普通糸じゃない?

 断じて認めないけど。


「ああ、そうだ! もしこの試合で僕が勝ったら僕と、結婚を前提にお付き合いしてくれないか?」

「絶対嫌です」


 なんでこんな猛烈アタックを受けてるんだろう?

 前世を含めて今までこんなに異性に迫られたことは無いわけだけど、うーん、ちょっと愉悦か……、じゃないじゃない!

 今までにない身の危険だよ!


「ああ、フフッ、……すまない。僕としたことが、つい先走ってしまって。流石に結婚を前提にっていうのは君もさぞかし判断に困るところだろう」


 それが無くても嫌なものは嫌なんだけど。


「それじゃあ、僕と友達になってくれないか?」


 ん、まぁ、今後会うこともほぼ無いだろうし。


「その上で! 僕が勝ったら今夜の夕食の交流会で少し僕の話に付き合ってもらいたい!」


 そういえば、今日の夕食はランバートとクラウスで一緒に食事会をするんだったね。

 その時に彼の話を聞くくらいなら、結婚を前提にお付き合いなんかより遙かにマシだ。周りには皆もいるし、いいかな。


「まぁ、そのくらいなら……」

「ありがとう!」

「でも私が勝ったら、つきまとわないでくださいね?」

「約束しよう!」


 とは言っても、僕が負ける可能性は断然高いわけで。


『それでは第三試合、クラウス魔法学校より、アルバート・ジェルミー! 華麗なる魔法の連携は相手をも魅了する!』

「華麗なる妙技、ご覧あれ」


 腕を胸の前に置き、アルバートは礼をする。


『そしてランバート魔法学校より、ユト・アルシャマ! 不幸にもランダム枠で選ばれてしまった魔法実技の成績学年最下位はどんな戦いを見せてくれるのか!』


 歓声ではなく、観客席はどよめいた。

 そりゃそうだ。

 肩書きだけで試合結果が見えてるようなものなんだから。


「ああ! なんてことだ! 学年最下位だって?! でも、だからといって僕は手を抜いたりはしないよ! 実力が拮抗した上での最下位というものもあるのだからね!」


 ないない、それはない。

 でももう油断は誘えそうにないなぁ。

 さてどうしよう。

 約束のこともあるし、やるからには勝ちたい。











「結局まともに使えるのはファイアボールくらいか」


 僕は頷いた。


「だったらとにかくそれを当てるしかねぇな」

「相手の攻撃は避けてここぞって時に一発かますの」


 簡単に言うけどやるのは難しそうだ。


「アルシャマ、勝ち負けは気にするな。好きなように楽しんだらいいんだぞ」


 先生はそう言うけど、僕の内心は実質絶望の色が濃い。


「…………!」


 オウマが力強く僕の肩を叩く。


「『がんばれ!』だってさ」


 クロードが通訳してくれた。


「あれがとう、オウマ君」


 どうなるかは分からないけど、仕方ない。

 やるしかないんだ。

 そう、アルカの時みたいな命のやりとりはない。

 落ち着いて……。


「…………」


 よし。


「ユトちゃん」


 控え室を出ようとする僕をトーヤ君が呼び止めた。

 そして僕に近づき耳打ちをする。


「能力はなしで」


 僕は頷いて控え室をあとにした。











『第三試合開始!』


 試合開始の合図が出された。


「いくよアルシャマさん!」


 アルバートが体をくるくる動かす。

 まずは、何をしてくるのか見極めないと。


「届け僕の思い!」


 アルバートがポーズを決めた次の瞬間、眩い閃光が走ったかと思うと僕のすぐ隣で爆発が起こった。

 僕の体は爆風に吹き飛ばされてころころ転がった。


「な、なに?」


 すぐに体を起こして何が起きたかを確認する。

 地面に小さな穴があいていて、そこから白煙が立ち上っていた。


「ああ、アルシャマさん! 君の綺麗で可愛い顔が汚れてしまったね! 君を汚さなくてはいけないこと、僕はとても心苦しいよ!」


 えっと、とりあえずあの人は置いといて……。

 さっきの魔法は多分光の魔法だと思う。

 爆発の前の閃光、稲妻か何かかな。


「アルシャマさん! 僕は君を攻撃したくない! できることなら棄権してくれないか?」


 実力差は火を見るより明らかだ。

 でもそれは、魔法の実力という点でだ。

 それ以外ならあるいは……。


「棄権は、しないよ!」

「……そうか、それでは仕方ない。少し、強く行こうか!」


 アルバートが天を指さす。

 それを見て僕は走り出した。

 閃光が走り、爆音が後から聞こえた。


「そう来ると思ったよ!」


 アルバートは腕を下ろし、指をピストルの形にして僕に向けた。


「バン!」


 再び閃光。

 僕の頬を光が掠める。


「そう来るよね!」


 光は速い。

 でも、直線的だから向きと発動のタイミングさえ分かれば何とか避けられる。

 アルカとの戦いのせいで体が少し慣れたかな。

 能力なしでこんな風に動けるとは思わなかった。


「はは……」


 ちょっと顔がにやけてしまいそうなのを我慢する。

 さて、さっきのは避けたけど、当然アルバートも使う魔法の弱点は分かってるはず。

 開始前の選手紹介で、華麗なる連携がどうのって言ってたから、弱点を補いつつアルバートの攻撃はまだ続くはず。


「いいねっ! でもこれはっ!」


 アルバートはピストルを崩し、一度手を広げ、そして強く拳を握った。


「どうかなっ!?」


 僕の周囲に小さな光の玉が無数に出現した。


「……!」


 これは……、ヤバい!

 僕は咄嗟に後へ跳んだ。

 光の玉から光線が中心へ向かって射出され、一つの大きな光の玉になる。


「勘はいい、でもこれで終わりじゃない!」


 アルバートが握っていた拳を開く。

 すると大きな光の玉が弾け、小さな光の玉が散弾のように周囲に飛び散った。


「いっ!」


 そのうちのいくつかが僕にも命中した。


「ああ、また君を傷つけてしまった! お願いだ! どうか降参をし──!?」

「しないよっ!」


 手を上に掲げたまま走る。

 掌には炎の玉が出現した。


「まったく、情熱的なアプローチだね! アルシャマさん!」


 余裕をぶっていたアルバートの顔が僅かに歪んだ。


「この距離なら!」


 僕とアルバートの距離はおよそ5メートルほど。

 ファイアボールでも一瞬で到達する距離だ。


「いけ!」


 僕はファイアボールを放った。


「くっ!」


 それは見事にアルバートに当たった。

 アルバートがふっと笑う。


「惜しいねアルシャマさん!」


 炎の弾はアルバートをすり抜けていった。


「!?」

「人の目は光を見る。僕たちが見ている物は全て光なんだよ」


 うっ……、警戒するべきだった。

 光を使う相手にはよくある戦法じゃないか。


「光の屈折……」

「流石僕のアルシャマさん! 理解が早い! 素敵だよ!」


 どうする。

 今見えてるのはアルバートの虚像。


「さあ、今度こそ諦め──」

「ません!」

「……君も強情だね。そんなに僕とお話しするのが嫌なのかい?」


 アルバートの虚像が肩をすくめる。


「違うよ」


 虚像は意外そうな顔をする。


「確かに貴方は生理的に受け付けないところはあるけど……」

「はっきり言うね……。まぁ、そこも君の魅力だけどね!」


 ウィンクされる。

 寒気がするけど今は我慢。


「……私は弱いから」

「ん?」

「何かに頼らないとダメで、何もできないから」

「……」

「何でもいいから強くなりたい……」


 ああ、そうだ。

 僕の……、ユトの思いはずっと変わってない。

 僕がこの世界で目覚めたときから。


「だから私はこの交流試合で学べるだけ学ぶ!」


 今より成長したい。


「だから絶対諦めない!」


 明日、今日よりも強くありたい。


「……」

「……」

「……フフッ」


 アルバートが小さく笑う。


「なんだい、まるで僕が馬鹿みたいじゃないか」


 アルバートの表情が変わる。


「アルシャマさんの『強い』意志は、しかと僕に伝わったよ」

「……」

「いいとも。自慢できることではないけど、僕はこれでも学年二位なんだ」


 自信に裏付けされた強さがないと、相手にリタイアなんて迫れないだろう。

 アルバートは分かってるんだ。

 自分が勝つと。


「君を倒すべき相手と認める」


 アルバートが天を指さす。


──カッ!


 次の瞬間、巨大な光の柱が地面を貫き、大穴をあけた。


「手加減は一切なしだ」


 さっきと同じ魔法でこの威力……。


「本気でいくよ」


 彼の本気にどこまで対抗できるだろうか……。




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