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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・魔法学校交流戦
38/55

─36─

 戻ってきたオウマは僕の目の前に立ち両手を上げた。


「え?」

「ハイタッチだよユトちゃん!」

「あ、あー」


 そう言われて両手を上げると。


──パチン!


 小気味のいい音のハイタッチだった。

 オウマはそこに居る全員とハイタッチしたあと、何事もなかったかのように用意してあった椅子に腰掛けた。


「さて次はリリシャさんですね」

「よっし! いくよー!」


 リリシャが出て行く。

 リリシャはどんな風に魔法を使うんだろう?


『それでは二回戦目! クラウス魔法学校より、ヤルディ・ホルン! 堅牢なる守りは何者も通さないのか!?』

「わあああああああああ!」

『対するのはランバート魔法学校より、リリシャ・ウェルニッカ! とにかくやる気だけはある! と、強い意気込みを語ってくれたぞ!』

「オオオオオオオ!」


 やる気だけって……。


「やってやれ!」

「慌てなければ大丈夫だぞ!」

「がんばれー! リリシャー!」

「…………」


 皆で声援を送る。


「もち!」

『それでは試合開始だぁっ!』


 試合開始のアナウンスが響き、最初に動いたのはリリシャだった。


「先手必勝!」


 リリシャが下から掬い上げるように腕を振り上げた。

 すると、その腕の後から波が発生し、真っ直ぐ対戦相手のヤルディへ向かっていく。


「まだまだ!」


 リリシャは反対の腕で同じ動作をしてもう一つ波を発生させた。

 そしてまた反対の腕でもう一度。

 もう一度。

 いくつもの波がヤルディに襲いかかる。

 波が彼にぶつかる瞬間、彼が腕を振り上げるのが見えた。

 全ての波がヤルディに命中し、おおきな水しぶきが周囲に舞う。


「やったか?」


 クロードがそんなことを口走る。


「クロード、それやってないフラグだぞ」

「いやぁ、わりぃ。一度言ってみたかったんだよ」

「あのなぁ」

「命中する直前、相手方の詠唱動作が見えた。あいつはおそらく」


 あの動作には僕も見覚えがあった。


「ああ、相性で言えば、リリシャは不利かもな」


 水しぶきが消え、そこにあったのは。


「げげっ! 『ストーンウォール』!?」


 水は土には不利。

 それで全て打ち消されてしまうということはないだろうけど、リリシャにとっては厳しい状況だ。


「なるほど……」


 ヤルディは呟いた。


「な、なによ?」

「あんたそんなに強くないな?」

「そうよ! 四番目だもの!」

「ふぅ……」

「あー! ため息なんてついて! 私じゃ不足だって言うの!?」

「ああそうだ。俺は『クレイマン』かトーヤ・サザナギとやりたかった」

「それはそれは残念でしたねー!」


 リリシャはべっと舌を出す。


「たぶんトーヤも知らねぇだろうが……」


 クロードがぼそりと話し始めた。


「リリシャのやつ、ランバートに入るまで、まともに魔法なんて使えなかったんだぜ?」

「え?!」

「……そうか」


 トーヤ君は大して驚いた様子ではなかった。


「なんだ、びっくりすると思ったんだけどな」


 僕はすっごく驚いたけど!?


「リリシャは普段から人一倍練習してたからな。クロードよりももっとな」

「おっと、それは誉め言葉として受けとっとくぜ。あのヤルディとかいう奴はリリシャより俺たちとやりたかったみてぇだが、後々が恐ろしいのはリリシャだぜ」

「俺たちも余裕こいてたらあっという間に追い抜かれるかもな」

「いや、トーヤ、お前のレベルはぶっちゃけ頭一個も二個も飛び出てるから。そう簡単には追いつけねぇよ」


 すごい。

 リリシャは四番目。

 あのヤルディは気に入らないようだったけど、この四番目は価値ある四番目だ。


「リリシャー! がんばれー!」


 だから負けて欲しくない。


「ありがとー! ユト!」


 リリシャがこちらに向かってぶんぶん手を振る。


「余裕だな?」


 その隙をついてヤルディがリリシャとの間合いを詰める。


「全然余裕ないし!」


 リリシャは指を二本揃えて立て、ヤルディめがけ振り抜いた。

 水の剣は空を切り、屈んで避けたヤルディが手をくいっと動かそうとした瞬間。


「そこ、危ないよ?」


 リリシャはニィっと笑い、足でドンと地面を踏む。


「……!」


 ヤルディは後に飛び跳ね、ゴロゴロと転がる。

 その直後、ヤルディの居た場所から水の槍が突き出した。


「足で……?! ちっ、足癖の悪い女だな!」

「それはどーもどーも」


 リリシャはもう一度地面を踏む。

 ヤルディの下から再び水の槍が突き出す。

 リリシャは何度も地面を踏んだ。

 次から次へと槍が突き出し、ヤルディはそれをかわしていく。


「はっ! 足で詠唱動作されたときには驚いたが、バカの一つ覚えだな!」

「そうね、私はバカだよ。馬鹿みたいに練習したからね! でも……」


──パシャ……


 ヤルディの足に冷たい何かが触れる。


「こ、ここは!」


 そこは魔育館の中を流れている小川だった。


「ゲーロゲロ!」


 リリシャは両手で蛙を編み、その口を大きく開いた。

 すると小川が膨れ上がり、水は徐々に形を成していく。

 それは一見すると巨大な蛙だが、大きく開いた口はまるで蛇のようだった。


「ここに誘い込むため────」


 水がヤルディを呑み込んだ。


「…………」


 しばらくの沈黙。

 そして歓声が巻き起こる!


『ヤ、ヤルディ・ホルンの戦闘不能により、リリシャ・ウェルニッカのしょ──』


──パァン!


 アナウンスの声をかき消す破裂音が館内に響いた。


「あー、やっぱだめか」


 リリシャが残念そうに呟いた。


『あ、あれは!?』


 さっきの破裂音はヤルディを呑み込んだ水が飛び散った音だった。

 その中から土のブロックが現れる。

 そのブロックはサラサラと崩れ去り、その中からヤルディが姿を現した。


『ヤ、ヤルディ・ホルンはまだ倒れていないぃぃぃぃ!』


 巻き起こる歓声。

 あの絶体絶命の状況から、ヤルディは生き残ったのだ。


『試合続こ──』

「はいはーい! 私棄権します!」


 リリシャが明るく叫んだ。


『な?』

「いやぶっちゃけあれが通らなかったら私に勝ち目無いよ」

『聞き間違いでなければ、本当に棄権でいいのですか?』


 リリシャはキュッと拳を握り。


「はい」


 と、笑顔で答えた。


『リリシャ・ウェルニッカ棄権により、ヤルディ・ホルンの勝利だあぁぁぁぁ!』


 観客席からはどよめきの後、歓声ではなく拍手が巻き起こった。


「相手との実力差を見るのも、また力だ」


 トーヤ君はそう言ったけど、どこか悔しそうにも見えた。


「おい」


 ヤルディが退場しようとするリリシャを呼び止めた。


「さっきのは本当に危なかった。ここにあるのが小川でなければ、俺は水圧に押し潰されてただろうな」


 リリシャは振り返らない。


「小川でも押し潰せないとだめなんだよ。私とあなたの力量の差は誰が見て分かる。ごめんね、つまんない試合させちゃって……」

「……いや、俺も悪かった。あんたを見くびっていたよ。次は──」

「次は絶対潰してやるから」


 ヤルディはキョトンと呆気にとられた表情を一瞬見せ、そして小さく笑った。


「……ふっ、やってみろよ」


 ヤルディはリリシャに背を向け去っていった。











「ごめんなさい、負けましたー!」


 戻ってきたリリシャは垢抜けた声でそう言い放った。


「なんだよ棄権なんて勿体ねぇな」

「いやぁ、とっておきが通んないんじゃねぇ」

「まぁ、リリシャならあれくらいの差はすぐ埋められる」

「だといいけど。あ、次はユトの番ね」

「う、うん……」

「あ、ごめん、私ちょっとトイレ行くね」


 リリシャは足早に控え室を後にした。


「……え? ちょ、リリ……」


 僕の方を誰かが抑える。


「…………」


 オウマが首を左右に振っていた。


「追うなって?」


 オウマは頷いた。


「でも……、さっきのリリシャは……」


 目の縁に小さな水滴が見えたんだ。


「いいんだよユトちゃん。リリシャはそっとしておこうぜ」

「そうだ。次はユトちゃんの試合なんだからな」

「う、うん……」


 相手方の控えを見てみると。


「うわ……」


 出てきたのはあのアルバート・ジェルミーだった。









皆さんは、手で蛙、編めますよね?

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