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交流試合に参加するメンバーと、レニー先生、リリシャとオウマのクラスの担任がそれぞれ魔育館に用意された控え室に集まっていた。
「初戦はー、オウマ君! がんばってねー!」
オウマの担任であるミリン先生がオウマの肩を叩いて激励する。
「…………(こくん)」
あ、頷いた。
そしてオウマは控え室から出て行った。
「お、すげぇ! 近くで試合が見られるぜ! トーヤも来いよ!」
オウマの後について行ったクロードがトーヤ君を外に呼んだ。
「おっ、こりゃいいな!」
「おい待てサザナギ! また迷子に!」
いや先生、扉一枚隔てた向こう側ですから!
迷子になりようが無いですから!
どんなけトーヤ君信用がないんだ……。
こうしてクロードとトーヤ君と先生は扉の向こうへ消えた。
「ミリン先生、大丈夫ですかね」
そう話しかけたのはリリシャの担任、ソルト先生だった。
「あらー? ソルト先生、何かオウマ君に不満でも?」
「いえ、相手側の生徒ですよ。オウマ君は……」
「大丈夫よー。ちゃーんと調整してあるものー。出力は75%に抑えてあるわよー」
調整? 出力?
なんの話だろう?
「ねぇ、リリシャ……さん?」
「呼び捨てでいいわよ。その代わり私も呼び捨てするからね」
「あ、うん。リリシャ。オウマ君ってなんなの?」
一緒に行動していたリリシャなら何か知ってると思った。
「ああ、今の先生の話のことね? オウマは『オーバーフロー』っていう……えっと、なんだっけ?」
リリシャは首を傾げた。
いや、それを僕が聞きたいんだけど。
「ウェルニッカさん、以前授業でやったじゃないですか」
「すみません! 寝てました!」
悪びれる様子もなくリリシャは答えた。
「まったくあなたという人は……」
ソルト先生はため息をつき、言葉を続ける。
「いいですか? 生物には体に保有できる魔力の容量があります。……そうですね、コップと水をイメージしてください。コップは保有できる魔力の容量、水が魔力です」
僕とリリシャは頷いた。
「コップに水を注げば、いずれはいっぱいになります。普通、コップがいっぱいになると、注がれる水は自然に止まるのですが、それが何らかの理由で止まらなくなることがあります。そうなると、当然水はコップから溢れ出しますね?」
僕は頷き、リリシャは欠伸した。
「オーバーフローというのは、そういう状態の人のことを指します。溢れ出た魔力は制御が利きません。そこで魔法を使うと、溢れ出た魔力に魔法が引火して思わぬ出力の魔法が放たれてしまうんです」
僕は頷いた。
リリシャは鼻風船を作って眠っていた。
「だからオーバーフローの人間は魔力の抑制装置を付けるんです」
ソルト先生がリリシャの鼻風船を割ると、リリシャは目を覚ました。
「というわけ! ユト、分かった?」
と、リリシャはさも自分が説明したかのように言う。
「ウェルニッカさん、後日特別な補習を用意しましょう」
「げぇ……」
僕が苦笑いしていると、ソルト先生は。
「アルシャマさん、あなたのクラスでもこの授業はしたはずなんですが?」
「あ、ははは……」
ボーっとしてて聞いてなかったんだなたぶん。
「オウマの試合が始まるぜ!」
言い訳に困っていると、クロードがそう叫んだ。
ナイス助け船!
「あ、み、見る!」
控え室を出ると、そこには柵で仕切られた小さなスペースがあった。
ここからなら試合の様子も間近で見ることが出来る。
このスペースは反対側にもあり、そこには対戦相手のクラウスの生徒達がいた。
そこには、例のアルバートという生徒も居て、めざとく僕を見つけて彼がウィンクを飛ばして来たのでなんとなく屈んでよけた。
『第一試合目は、クラウス魔法学校より、ジョゼン・ガマッセイヌ! その暴力的な魔法の威力は他の生徒を圧倒する!』
観客席から歓声が上がる。
学校の生徒だけでなく、どうやら一般からの観戦者もいるようだ。
席はほぼ満員だった。
アナウンス付きで本当にお祭り騒ぎみたいだ。
『そしてランバート魔法学校からは、オウマ・ブンクニルだぁ! 無口な鉄仮面その下に秘めた実力とはぁ!?』
また歓声があがる。
盛り上がってるなぁ。
「よっしゃあ! オウマ! ぜってぇ負けんなよ!」
「落ち着いていけば大丈夫だ!」
「オウマ! やっちゃいなさい!」
「オウマ君がんばって!」
みんなで声援を送る。
「キャー! オウマきゅーん! 頑張ってぇー!」
「ミリン先生、もっと貴女は先生らしく振る舞ってください」
「諦めろソルト。ミリンのこれは永久に治らんよ」
「レニー先生、僕は貴女のような寛大さが欲しいですよ」
先生もいろいろなんだなぁ。
『それでは一試合目、スタート!』
「いくぜえぇっ!」
試合が始まるや否や、ジョゼンは炎を拳に纏わせオウマへ突撃していった。
そしてその拳を振り上げ、オウマに殴りかかるが。
「…………」
壮大に空振り。
「わざとだな」
トーヤ君が呟いた。
ジョゼンの拳は地面にぶつかって爆発し、砂埃を舞い上げる。
視界が悪くなり、ここからでも様子が確認しにくい。
「うおらぁっ!」
ジョゼンはすぐさま体制を立て直し、反対側の拳で砂埃をなぎ払う。
「オウマ君!」
拳に追従して炎の波が砂埃ごとオウマをなぎ払った。
「オウマがそこに居ればな」
「あいつの読みはマジでやべぇからな」
トーヤ君とクロードはニヤリと笑う。
「なにぃ!?」
炎の波の中から黒い霧が現れた。
それはじわじわとジョゼンにまとわりつき、やがて彼を呑み込んだ。
「『ブラインドール』。自分そっくりの人形を設置して、それに攻撃した者を一時的に盲目状態にする、設置系の状態異常魔法だな」
「砂埃なんか上げなかったら簡単に分かったんだろうけどね」
あの一瞬でそこまで考えてたのか。
「くそっ! どこだ!?」
オウマは悠々とジョゼンの前に立っていた。
そしてしばらくジョゼンがジタバタする様を眺めた後、腕をぐるんと一回転させ地面を叩いた。
すると空中に黒い球体が出現し、ジョゼンに向かって落ちていった。
「ぐべっ!?」
カエルが潰れるような音がしてジョゼンは戦闘不能になった。
「キャー! オウマきゅーん! 格好いいわよー!」
オウマは表情は変えず天高く拳を突き上げる。
あ、嬉しいんだ。
「あれ?」
オウマの周りに黒い靄のようなものが見える。
「あれが彼がオーバーフローたる証拠。最初に使ったブラインドールの余波ですね」
「溢れ出た魔力に魔法が引火した状態ということですか?」
「その通りです。オウマ君はもともと魔力の扱いがうまいのですが、敢えて先に直接攻撃力を持たない状態異常魔法を使い、溢れ出た魔力をある程度消費した後、攻撃魔法を使用してその威力を抑えたというわけです。制御装置を付けていると言っても、完璧ではないですからね」
魔法使用の順序まで考えてるんだ……。
オーバーフローじゃなくてよかった……。
『ジョゼン・ガマッセイヌ戦闘不能により! 勝者オウマ・ブンクニル!! 圧倒的頭脳プレーで勝利をもぎとったぁ!』
「わあああああああああ!!」
会場が歓声で沸き立った。
「ユトちゃん、成り行きとはいえ、参加してよかったろ?」
トーヤ君がにこりと笑いながら言った。
「うん、勉強になる」
本当に。
ただ魔法を出すだけじゃない。
ただ相手に当てるだけじゃない。
負けた方のジョゼンだって、魔法で砂埃を上げて視界を奪う虚を突いた戦い方をした。
オウマも相手が何をするのか呼んだ上で、魔法を使う順序まで考えていた。
今すぐには無理かもしれない。
でも僕も、能力に頼らなくても強くなれるのかもしれない。
「うん……!」
小さく拳を握って決意した。
『強くなろう』
と。
対戦相手の彼の名は……
まぁ、読んで字のごとくです。




