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クラウス魔法学校は、三つある魔法学校の中でも一番歴史の古い学校だ。
この国を作ったクラウス・センテルディアは全ての魔法を自在に操れたと言われている。
その彼の名前を冠した学校を作り、彼のような人材を育成しよう、というのがこの魔法学校の始まりだとか。
ちなみに、僕らの魔法学校の名前であるランバートもこの学校を卒業し、世界で屈指の魔法使いになったのだという。
と、先生が説明してくれた。
「うちの学校とは雰囲気が違うね」
「千年近く残ってる建物ですからね。当時の面影を色濃く残しているんですよ」
「レニー先生も涎垂らしてテンション上がりまくってたぜ?」
「あの先生も大概変わってるからな」
その点は激しく同意だ。
でもまぁ、いい先生だと思うんだけどね。
「それにしても、本当に立派ですわね」
広い敷地に手入れの行き届いた庭の木々、煉瓦造りの校舎は二階建てで高さはないが、僕らでもなんとなくノスタルジックな気持ちに浸ってしまいそうな趣を持っている。
「全員魔育館に集合だ! いいか! ここは入り組んでるからな! 離れるな! サザナギでなくても絶対迷子になるぞ!」
「っく!」
トーヤ君は悔しそうに奥歯を噛んでいた。
まぁ、こればかりは仕方ないね。
◇
魔育館は校内で魔法を使うことを許されている唯一の場所だ。
ランバートにも魔育館はあるけど、クラウスの物は桁が違った。
土の地面は勿論のこと、川は流れてるわ、木は生えてるわ、岩石は置いてあるわでスペースも広い。おまけに観客席や売店まで完備となれば、これはもうただの学校の施設に収まらないだろう。
「すげぇな!」
観客席に立ったクロードが声を上げる。
これには素直に驚くしかない。
「これだけの設備があったらいろいろ出来ますね。ちょっと楽しそうです」
「うん、ちょっと羨ましいかも」
「……お父様に進言してみましょうか。エルスマスト家としてランバートの発展に貢献しなくてはなりませんわ!」
ロザリーさんはフンスーと気合いを入れる。
彼女は変わったところで義務感みたいなものをよく抱くみたい。
「まぁ、施設がいいからといって、魔法がうまくなるとは限らないがな」
トーヤ君はそんな風に言う。
負け惜しみのようにも取れる言葉だけど、トーヤ君の場合は自信と実力に裏打ちされたものがあるのだろう。
そう言われて、僕もなんだか頑張らなきゃいけないような気がしてきた。
「トーヤの言うとおりね」
不意に後から声がした。
そこには腰に手を当て仁王立ちしている快活そうな女の子と、長い前髪で顔の半分が隠れているどんよりとした男の子がいた。
僕らと同じ制服だからランバートの生徒なのだろう。
「リリシャとオウマか。何か用か?」
あ、先生が昨日言っていた交流試合に参加する二人だ。
「何か用? じゃないでしょ! 一緒に交流試合に参加するんだから!」
「個人戦だろ?」
「そーゆー意味じゃないでしょ! まったくトーヤは!」
「ま、トーヤが素っ気ないのは今に始まったことじゃねぇよ、リリシャちゃん」
「そうね、ノリが悪いというかなんというか……。その点クロードは同じノリで話せるから気楽だよ。ほら、このオウマなんて全然しゃべらないし、私しんどい……」
全員の視線がオウマに集まる。
「…………」
口も顔の筋肉もピクリとも動かない。
「む、無口な方なのですわね……」
「なんで私の周りには個性が強い人が多いんですか……」
カンナちゃん、それ他の人にとっても同じだから。
「って、話が逸れちゃったわ! 大体、トーヤが素っ気なさすぎるのよ! もっとこう、人の気持ちを考え──」
「リリシャちゃん、また脱線してるぜ?」
「む。で、何しに来たかというと、ちょっと顔合わせ。ランダム枠の子は?」
「あ、私」
僕は前に出る。
「ふーん……」
リリシャは僕をじろじろ見回す。
「名前は確か……」
「ユトです。ユト・アルシャマ」
「ああ、そうそう! あなたも有名よね。魔法実技の成績学年最下位」
「う……」
そこを突かれると何も言えない。
「あ、ごめんごめん。あなたを貶めるとかそんなつもりじゃないのよ。一緒に頑張りましょう!」
「うん……」
「そいじゃあ、トーヤ、クロード、ユト。開会式が終わったら控え室に集合だってさ! ちゃんと伝えたからね! 迷子とかになって遅れないでよ?」
「ぐ……」
「またあとでねー!」
リリシャはトーヤ君に釘を刺すと、ぶんぶん手を振りながら去っていった。
自分たちの班に戻っていったのだろう。
オウマって男子は結局最後まで何も喋らなかったなぁ。
どんな人なのか全然わからない。
「はぁ、リリシャは忙しないというか五月蠅いというか……」
トーヤ君は疲れたようで、だらりと体の力を抜いた。
「リリシャさん、元気そうな方ですわね」
「ああ、リリシャちゃんはいつもあんなテンションだぜ? オウマはまぁ、あんなんだわ」
「トーヤさんを呼び捨てにするなんて……」
お、おお……、ロザリーさんからどす黒いオーラが……!
──ガガッ、ピィー!!
『テステス……。あ、あー』
魔育館の下のフィールドにステージが現れた。
『これより開会式を始めます。各校の生徒は席についてください』
ステージの上に少し頭の寂しい先生が立ち、マイクを使って着席を促す。
「始まるな」
僕らは席に座り、この後先生方のありがたーいお話しに耳を傾ける。
◇
「長かった……」
クロードがふらつきながら廊下を歩いている。
「大袈裟だなクロード」
「作戦だ! 絶対作戦だ! 長い話で俺たちの体力を奪う相手方の作戦だ!」
「じょ、条件は同じだと思うけど……」
僕が苦笑するとクロードは。
「あいつ等は慣れてるんだよ! 毎回こんな話を聞かされて鍛えられてんだぜってぇ!」
と、声を大にして叫んだ。
それはあるかも……。
ちょっと納得する僕がいた。
「ちょっとそこの君! 今の話は聞き捨てならないな!」
誰かが僕らを呼び止めた。
「我々はそんな狡い真似はしない!」
声の主は大変憤慨した様子でカツカツと足音を立てて僕らに近づき、そして人差し指をクロードの胸に突き立てた。
「な、なんだよ?」
「撤回したまえ! 先生方の話が長いのはどの学校でも同じだろう!? みんな嫌で嫌で仕方ないのを我慢しているんだ!」
「べ、別に俺だって本気で言ってる訳じゃねぇよ!」
「ぬ? そうなのか?」
彼はあっさり引き下がった。
「こいつが言うことは大概冗談だ」
トーヤ君がフォローを入れる。
「これは失敬した」
彼はクロードから離れると、左手を胸の前に置きピシッと背筋を伸ばした。
「僕は自分の学校に誇りを持っているもので、そのこととなるとすぐにカッとなって周りが見えなくなってしまうところがあるのだ」
「は、はぁ……」
「僕の名はアルバート・ジェルミー。気軽にアルと呼んでくれたまえ!」
長身でモデルみたいな体のライン、キリッとした眉は自信に満ちあふれていて、僕とは対照的なイメージ。
アルバートと名乗った彼はクラウス魔法学校の制服を着ていた。
「その制服、ランバートのものだね。この廊下を通るということは、君達が交流試合の相手というわけだな!」
「ああ」
空気が少し詰まる。
「ふははは! そう身構えることはない。交流試合だ、もっと気楽に行こうではないか! ……あ、そうだ。君たちの名前を聞いておきたい!」
アルバートがそう言うと。
「俺はクロード・ラインハート」
「おお! 知っているぞ! 土の魔法が得意らしいな! 実力も高いと聞く!」
「お、俺って割と有名なのか!」
「いや、資料を見せて貰っただけだからな。有名ではないぞ!」
アルバートはあっさり否定する。
「トーヤ・サザナギ」
がっかりしているクロードを後目にトーヤ君の自己紹介。
「んん! その名前は本当に有名だぞ! ランバート史上最高の魔法使いになると噂されている! そんな君と戦えるかもしないとは光栄だ!」
「そいつはどうも」
アルバートはトーヤ君と握手すると、今度は僕に視線を向けた。
「き、君は……!」
「ユト・アルシャマで──」
アルバートがトーヤ君の手を振り払い、僕の手を両手でギュッと握った。
「美しい!」
「……は?」
え、なに? この展開。
「道端に咲くたんほぽのような健気な可憐さ! 僕は一目で君の虜となった!」
「はぁ?!」
「僕と結婚してほしい!」
「え、嫌です」
いろいろすっ飛ばしていきなりプロポーズですか!?
「ああ! なんて辛辣な言葉! だが僕は諦めない! 君を絶対振り向かせてみせる! では、さらばだ! ふははは!」
高笑いをしながらアルバートは走り去っていった。
なんか、まためんどくさいことになりそう……。
あ、魔法出てない……




