─33─
今夜宿泊するホテルは、外観はとても立派で、このセンテルディアの町並みの中でも一際目立っていた。
内装もちょっとした高級ホテル。
いや、普通に高級ホテルなんじゃないだろうか。
これまで行ったことないから分からないけど。
僕はロザリーさんに訪ねてみる。
「ええ、いいホテルですわ」
ランバート魔法学校はセンテルディアにある三つの魔法学校のうちの一つ。
逆に言えば三つしかない学校の一つで、入学希望者はいつも定員オーバーしているらしい。
だから結構お金は持っているのだとか。
……というか、ほんと、よくこの学校に入れたな、僕……。
「さて、例によって荷物を置いたら夕食だ! 部屋割りはしおりに書いてある通り。フロントで鍵を貰ってそれぞれ部屋に向かえ。今が……」
先生が腕時計を確認する。
「18時22分。19時には全員ここに集合しろ! 班員の部屋はすぐ近くだ。班長は全員をしっかりまとめて行動するように! 建物の構造が少し入り組んでいる。いいか、間違っても班長が迷子になるなよ!」
周囲から笑いが起きる。
誰のことかは言わずもがな。
◇
「って、個室!?」
普通何人かで相部屋だよね?
そりゃ広い部屋ではないものの、学生が贅沢だと思う。
どれだけお金があるんだこの学校……。
「いいんじゃないですか? いくら友達と言ってもずっと一緒にいたら疲れることもあるんです。個人の時間がほしいときもありますよ」
「部屋は隣り合わせですから、いざとなったらすぐ行けますわ」
「でもよ、普通男子と女子はある程度離しておくもんじゃねぇの? ロッズではそうだったろ?」
「一般の客も宿泊してるだろうし、部屋の融通が利かないんだろ」
「まぁ、いいけどよ」
「あ、いくら班員と言っても女子部屋は男子禁制ですよ」
と、カンナちゃんは釘を刺すが。
「わ、私は別に気にしませんわ」
「んー、私も別にいいかな」
まぁ、トーヤ君とクロードなら間違いは起きそうにないし。
「は、はぁ? 二人とも何言ってるんですか?! ほ、保健係としてそれは許せないですよ!」
「保健関係なくね?」
「『健』全を『保』つ『係』です!」
「あ、なるほど」
トーヤ君が納得したように手を叩く。
「でも仮に何かあった場合、部屋は隣同士だから大声だしたら大丈夫だよ。トーヤ君もクロード君も今後の人生棒に振りたくはないだろうし」
「「き、気を付けます」」
男子二人は声を揃えて答えた。
「おっと、流石にそろそろ準備しないとな。集合時間に遅れたら先生がうるさいぞ」
集合時間まであと十分だった。
「オートロックになってるから鍵は忘れるなよ」
「了解です班長様」
僕らは急いで移動を開始した。
◇
「さて、みなさん、罰ゲームの内容は考えましたか? それでは始めましょうか。トーヤ君の公開処刑の時間ですよ」
夕食が終わった後、皆はトーヤ君の部屋に集まった。
今日の一件の罰ゲームをやるためだ。
カンナちゃんはしおりを丸めてマイク代わりにし、かなりやる気満々のようだ。
「お手柔らかに頼むよ……」
トーヤ君は諦めきっていた。
「誰からいきますか? 誰でもいいですけど」
「それなら俺から!」
クロードが立ち上がる。
「それじゃあ雑用さんからどうぞ」
「雑用って……、俺にはクロードって名前がだな……」
「クロードと呼んでほしいということが罰ゲームですか?」
「あー違う違う! えっとだな、一週間俺のパシリ……、って最初は思ったんだけどよ。ありきたりすぎで面白くねぇからな。これを用意した!」
クロードは後ろから紙袋を取り出した。
「それはなんですの?」
ロザリーさんが首を傾げる。
「あんまりいい予感はしないが……」
「夕食を食べてるときに思いついた。食べた後の時間を利用してダッシュで買ってきたんだぜ?」
「まさかクロードさん、無駄遣いしたんですの?」
「無駄遣いじゃねぇよ。そんな高いもんじゃねえし、後からも使える品だぜ」
「何でもいいですから早く発表しやがってください」
カンナちゃんが急かすと、クロードは紙袋からそれを取り出した。
「トーヤ、今晩はこれを着てろ!」
出てきたのは可愛いフリフリのたくさん着いたゴスロリドレスだった。
「え、マジか!? 着るのか?! 俺が?! それを!?」
「誰の罰ゲームだと思ってんだよ」
「ははは! ナイスですよクロード君!」
カンナちゃんは手を叩きながら笑っている。
「女装男子……。ちょっと興味ありますわ!」
ロザリーさんは真面目な顔してさらっとそんなことを言う。
そう言ったら僕は女体化男子だけどね。
言わないけど。
「面白そうだね。意外と似合ったりして?」
「っく、いきなり厳しいのが来たな……」
「みんな賛成のようだぜトーヤ。それじゃあ着替えだ!」
クロードが悪い顔してトーヤ君の肩をポンと叩いた。
「はぁ……、分かったよ……」
トーヤ君は深いため息をつくとトイレへ消えていった。
──数分後
トーヤ君がトイレから出てくると。
「あっはははははは!」
「くすくす、トーヤさん……! ふふふ……!」
「あぁ、これはやっちゃった感がすごいね……、ははは……」
「似合わねー! 似合わねぇわやっばり!」
フリフリの可愛い衣装から突き出た男の手足という物は違和感が酷すぎる。
カンナちゃんは大爆笑、ロザリーさんも抑えてはいるものの、さっきからお腹を押さえて小刻みに揺れている。
クロードはカメラを取り出しそんなトーヤ君を撮影していた。
「今後、何があろうとも俺は絶対女物の服は着ない!」
トーヤ君の耳が真っ赤になっていた。
「そ、それじゃあ次、行きたい人いますか? ぷっくくく……」
カンナちゃんは何とか話を進めようとするがトーヤ君の女装がどつぼに入ったようでまだ笑っていた。
「で、でわ私が……」
ロザリーさんが名乗りを上げる。
「頼む……、きついのは勘弁してくれ……」
トーヤ君が身構える。
「その……、買い物に付き合ってほしいんですの」
それを聞いて僕とカンナちゃんはハッとする。
「え、買い物?」
「ええ、お土産を買う際にお付き合いいただけると助かりますわ」
「そんなことでいいのか?」
「はい」
「わかった」
なるほど、そうきたか。
カンナちゃんに視線を向けると、なんだか嬉しそうにしていた。
「ロザリーちゃんはそれでいいですかね。じゃあ次は……」
僕とカンナちゃんは顔を見合わせる。
結局トーヤ君には全部罰ゲームを受けて貰うわけだから、順番はどうでもいいんだけど。
「じゃあ私、いこうかな」
「はい、いいですよ」
というわけで僕の番。
「えっとね」
クロードの罰ゲームを見て今思い付いたんだけど。
「確かトーヤ君、センテルディアタワーで、こっそり『センテルにゃん変装セット』を買ってたよね?」
「え?」
トーヤ君の目が泳ぐ。
「さ、さあ、そうだったかなぁ?」
いやいや、今更隠しても周知の事実ですから。
ていうか隠しきれてないから。
トーヤ君の部屋の隅に置いてある紙袋からそのラベルが「やあ!」と言わんばかりに顔を出している。
「そのゴスロリ姿に猫属性追加で」
クロードとカンナちゃんは最早床を叩きながら大爆笑し始めた。
「あっはははははは! トーヤ君どーぞどーぞ着替えてきてください!」
「ユトちゃんナイス! まじでグッジョブ」
「まあ! 猫のトーヤさん楽しみですわ!」
みんなノリノリである。
「わ、わ、わかったよ! 着替えればいいんだろ着替えれば!」
トーヤ君はやけくそな感じで言い放ち、変装セットの入った紙袋をひっ掴んでトイレへ入っていった。
「くぷぷ……。どうなるか楽しみですね!」
「カメラの準備は万端だぜ!」
「ちょっと酷いことしたかな?」
「いいんですよ。これくらいで。ね、ロザリーちゃん?」
「ええ、楽しませて貰っていますわ!」
──数分後
「あっはははははは!」
「やっぱりだめだわ! ますます似合わねぇ!」
「ふふ……! けほっ! あ、トーヤさん、とっても、ぷぷ……! 可愛いですわ! ふふふ……」
「これは永久保存版だね、ははは……」
「っく、俺は二度と、迷子にならな──」
──コンコン
そんなとき、部屋をノックする音がして。
「入るぞサザナギ」
先生が部屋に入って来た。
「ああ、すまん。フロントから鍵を借りてるんだ。明日の交流試合のことでどうしても話……が……」
先生はしばらく固まった後、無言で部屋から出ていった。
「あ、あ、や、あ! 先生! 先生! 違うんです! これは俺の趣味じゃ!」
って、トーヤ君、今その格好で廊下に出たら!
「あ……」
「「「「「あ……」」」」」
廊下では沢山の生徒がだべっていた。
その視線がトーヤ君に集まる。
「ちが! これには訳が! 俺はこんな!」
──ガチャン
部屋のドアが閉まった。
「あ、ちょ!」
トーヤ君は必死にドアを開けようとするが、ここはオートロック。
鍵は部屋の中にある。
「お、おい! みんな! 開けてくれ! 頼むから開けてくれ!」
ドアをドンドン叩く音がする。
「いやぁ、意図していた形とは違いますが、私の罰ゲームも執行できました。満足です!」
カンナちゃんは微笑ましく笑っているが、多分罰ゲームの中では一番きつい内容だ。
これをやろうとしてたのか……。
カンナちゃん恐るべし……。
「開けてくれえぇぇ!!」
トーヤ君の悲痛な叫びはしばらく響き続けた。
◇
「明日、このセンテルディアの魔法学校である『クラウス魔法学校』と交流試合があるのは分かっているな?」
トーヤ君とクロードは頷いた。
あの格好では先生がまともに取り合ってくれないため、今トーヤ君は普通に学生服だ。
「それぞれ五人生徒を出して魔法を使った試合をする。そこで我が校からは成績のいいトーヤ・サザナギ、クロード・ラインハート、オウマ・ブンクニル、リリシャ・ウェルニッカに出てもらう」
だからトーヤ君とクロードが呼ばれたのか。
でも、だとしたら、なんで。
「せ、先生。なんで私はここにいるんでしょう?」
トーヤ君とクロードは分かる。
じゃあなんで僕はここに呼ばれたんですか。
「ああ、最後一枠はランダム枠だ。そこでユト・アルシャマ、おまえが選ばれた」
う、う、うそーん!
「だ、だって先生! 私の魔法実技の成績は知ってますよね!?」
学年最下位。
「知らん。まぁ、交流試合で勝ち負けなど気にする必要はない。アルシャマは自分の出せる全力を出せ」
そんな!
「で、でも!」
「抗議したところで変わらん。しっかりやれ、アルシャマ」
「ま、なんとかなるって!」
「難しく考えず気楽にやればいいさ」
「そんなこと言ったって無理なものは無理だよー!」
どうしよう……。
また思う時間に投稿できなかった……
魔法の要素が消えかかってますが、次回は目立ってくれると思います。