─29─ トーヤ
だ、誰?
って、そんなのはどうでもいい!
一般人?
アルカはどうしてこの人を。
「おお、あれは噂のアルカ・ラカルト! それにユトちゃんだね! ……なんだか様子が違うようだけど? そこの少年、何か知らないかい?」
女性はスタスタと俺に寄ってきた。
「あ、え? や、危ないですよ!」
「ややっ!? あれは青銅竜! これはすごい面子だね!」
「いや、ですからね……」
俺が女性に説明しようとすると。
「ふむ、なるほど。だいたい状況はのめたよ」
「え?」
「アルカ・ラカルトの襲撃を受け、ユトちゃんが戦っている。それで恐らくこのおかしな空間はアルカ・ラカルト、ユトちゃん、もしくは少年、君の能力かだ」
能力?!
「もしかしたら青銅竜かな? 転生したらドラゴンでしたというのも面白そうだね」
「……」
転生!?
この人、分かって喋ってるのか!
「あ、あなたは……」
「私はルミリア・フェルデイン。しがない作家だよ。でもそれなりに有名なんだけどねぇ。少年、活字は嫌いかな?」
「いや、そういう意味ではなくて……」
「にしても、ユトちゃんはアルカ・ラカルトを殺す勢いだね。彼女は『竜の神子』だというのに。世界が救えなくなってしまうよ」
ルミリアは少し前に出る。
そして。
「ユトちゃん! アルカ・ラカルトを殺すのはまずい!」
ユトちゃんはルミリアに軽く会釈はするものの、その手を止める気は無いようだ。
「聞く耳持たないって感じだね。これは困った。やめて欲しいんだけどなあ」
「俺も彼女を止めたいんです! 何か方法はないですか!?」
この人はなんとなく信用できる気がする。
俺はとにかくこれまでの経緯と、分かっていることを、時間がないので俺たちの時間だけを早めて全て話した。
「そこまで分かっているのなら簡単だよ」
「え?!」
「私たちのような能力をいくつも保有しているのは、神様からすればよくない事だよ。分かるかな?」
「はぁ……」
「いや、悪いね。時間がなかったんだね。チート能力をいくつも持つということは、それは神様同然だ。神様がそれを許すはずがない。つまり、彼女の能力には何らかの制限があると見て間違いないだろう」
「制限……」
「君のおかげで強くなれたというユトちゃんの言葉、そして君の保有する能力。このふたつから導き出される答えは……」
「時間制限か!」
そうか、時間の止まったこの空間では時間制限は意味が無くなる!
それなら最初、ユトちゃんが能力を使おうとしなかったのも頷ける。
長期戦は彼女には不利だ。
使い所を見極めなければならなかったから、躊躇いがあったんだ。
「推測の域は出ないが、試してみるかな?」
「もちろん!」
今のユトちゃんは手がつけられない。
けれどおそらく、制限時間過ぎれば、元のユトちゃんに……。
「ごめんよ、ユトちゃん!」
俺は時間停止を解いた。
世界に時間が流れ始める。
「ひ……」
ユトちゃんの動きが止まった。
そして見る見るうちに顔色が変わっていく。
「ひやあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!」
奇声をあげ、ユトちゃんはその場で屈み込んだ。
「やだ! やだぁ! ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!」
「ユ、ユトちゃん……?」
「戻りたくない! 戻りたくないよぉ!」
泣き喚く子供より酷い。
「げほっ! げほ、げぼっ……」
ユトちゃんはせき込み始めたかと思うと、血の固まりを吐き出した。
「ユトちゃん! や、やばいんじゃないか?!」
「制限を設けられるような能力だよ? 多用すれば体に負荷が掛かるだろうね」
「やだよ……、やだ……、げほっ……」
ひとしきり駄々をこねた後、ユトちゃんはむくりと立ち上がった。
「し……を……」
ユトちゃんが何か聞き取れない言葉をつぶやくと、そこからは一瞬だった。
アルカとユトちゃんの間の距離が無くなり、次の瞬間にはアルカはもう倒れていた。
「な……」
ユトちゃんがゆらりと俺を見る。
そう思ったらもうユトちゃんが俺の目の前に立っていた。
「ユ……!」
やられる!
「げほ……」
が、ユトちゃんは再び血を吐いて力なくその場に崩れ落ちた。
「ミコ!」
青銅竜が倒れたアルカの元へ向かう。
それについてルミリアもアルカの所へいった。
「ミコよ!」
「大丈夫。息はしてる。死んではないようだよ」
「……そうか」
それを聞いて青銅竜は安心したようだ。
「けれどおかしいな。傷が治ってない……」
ルミリアは手を顎に当て考える素振りを見せる。
「ミコよ! しっかりするのだ!」
「ん……ん……」
青銅竜の呼びかけに応じてアルカがゆっくりと体を起こした。
最初はどこかぼーっとした雰囲気だったが、急に目を見開き周囲を見渡しだす。
「ミコ?」
「青銅竜! アルカは!? アルカがどこにも居ないの!」
「な、何を言っている。アルカはミコが名乗った偽名だろう?」
「違うの! アルカがいたの! 今の今まで! 私と!」
アルカが訳の分からないことを言い続けている。
流石にそれには青銅竜もルミリアも困った様子だった。
「ユトちゃん……」
俺は目の前で倒れているユトちゃんを見下ろす。
「君は一体アルカに何を……」
そして、俺に何をしようとしたんだ?




