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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
最初の異世界人?
3/55

─3─

『いやぁ、転生だけじゃなくて、転性までしちゃうなんてね! ははは』


 頭の中で神様である青年の声がした。


(うるさい! こんなの聞いてないよ!)


 アルバイトから帰ってから、僕はずっと自室に籠もっていた。

 そんなとき、唐突に呼びかけを受けたのだ。


『それは責任負いかねるよ。私は魂をこちらの世界の輪廻に移し替えるだけで、器の性別まで操作する義務はないからね』

(もういいよ。それで、何でまた突然話しかけてきたの?)

『いや、君が使命を忘れていないか、その確認のためだよ』

(他の転生者、もしくは転移者を滅ぼすこと)

『うん、そうだ。君の前世の記憶が覚醒するまで十数年経ち、若干情勢が変わったけど、君の使命に変更はない。がんばってね』

(けど、こんな能力で人間超越した転生者に勝てるの?)

『それは君次第だね。彼らの能力は確かに強力だけど、君の能力は無限の可能性を秘めてる。……と、言えば聞こえはいいけど、正直厳しいね』


 そりゃそうだ。

 常に全力フル火力ノーリスクで能力を使える相手に対して、こちらは短時間の火力と、タイムオーバー弱体化のリスクがある。

 どう考えても分が悪い。


『まぁ、うまくいけば戦わずして勝てる選択肢もあるだろうから気楽にいきなよ』

(無茶言うな!)


ーーコンコン


 部屋のドアがノックされる。


『来客みたいだね。さて、私はお暇するよ。そうだね、次は君が転生者を一人滅ぼしたくらいにまた話しかけようかな。それじゃあ、よい生活を』


 頭の中から声が完全に消えた。


「はい」


 僕はノックに返事をする。

 すると。


「ユト、入ってもいい?」


 フリアの声だった。


「うん」


 かちりとドアが開いて、フリアが入ってくる。


「あの時から様子が変だったけど、大丈夫だっ……、って、まだ着替えてなかったの?」

「あ……」


 あの声のせいですっかり忘れてた。


「まぁ、いいわ。さっさと着替えちゃいなさい」

「え? でも……、……あ」


 そうか、女の子同士だからフリアは何とも思ってないのか。

 そう思い直して着替え始めるが。


「な、なんでそんな恥ずかしそうにしてるのよ! こっちまで恥ずかしくなるわ!」


 あ、いや、これは多分、きっと……。


「……小さいの、気にしてるの?」


 フリアの問いかけが、薄い胸に突き刺さる。


「う……」


 待て、まてぇ……。

 僕は男だぞ。

 いや、正確には『だった』だけど。

 胸の大きさとか気にする必要は無いはずだ。

 そう、だって男はみんなぺったんこ。

 以前となんにも変わってないじゃないか!

 あれ、なんか涙出てきた。


「ご、ごめんユト。お願いだから泣かないで」


 僕だって泣きたくて泣いてる訳じゃない。

 これまでの僕の性格が影響してるんだろう。

 ああ、でもこのままじゃまたフリアに迷惑がかかる。


「ちょっと、お風呂で頭冷やしてくる」

「あ、ユ……」


 僕は部屋のドアを閉めた。


「ふぅ……」


 フリアには悪いことをしたなと思う。

 せっかく心配して来てくれたのに。


「いや……」


 あのままだと気まずい空気になりそうだったから仕方ない。

 さて、気持ちを切り替えて、記憶の確認をしよう。

 僕らは学校の寮に暮らしている。

 僕とフリアは孤児院の出だが、アルバイトや奨学金のおかげで何とか学校に通っている。

 少し学費は高くなるが、寮での生活は快適だった。

 孤児院にも迷惑をかけないし。

 何より三食ついているのは大きい。

 制約や、規則はあるものの、それらは苦にならない。


「……」


 っていうか、僕結構苦労してたのか。

 前世の生活がどんなに贅沢だったか身に染みて分かる。

 などと考えている間にお風呂場。

 流石にこの時間は誰も入っていない。

 共用の大浴場でそんなに大きくはないけど、一人で入るには広すぎる。


 少し寂しい。


「あー、もういいや。さっと入っちゃおう」


 ボロボロの服を適当に脱いで、さっとシャワーを浴びて、どぷっとお湯につかった。


 ちょっとぬるい。


 まぁ、頭を冷やすにはちょうどいいかな。


 さてさて、もう一度頭の整理だ。


 前世の記憶と今の記憶と、しっかり区別しなきゃだね。


 えっと、僕、嵐山優斗は死んで、この世界に転生した。

 その際に神様から一日一回、望む力を10分間得られる能力をもらった。

 だけど、能力を得るのと同時に、使命とやらも押しつけられた。

 その使命は他の転生者、もしくは転移者を滅ぼすこと。

 なんでも世界の秩序を再生させるためだとか。

 確かに神様張りの力で好き勝手されたら、秩序も何もあったもんじゃない。

 一人ならまだしもそれがこの世界には五人居るというのだから尚更だ。

 まぁ、僕も含めたら六人になるんだろうけど。

 神様は僕が他の転生者のようにならないためにと能力に制限を付けたらしい。

 正直、戦いとかしたくないけど、神様が運命を結びつけたとか言ってたから、どのみち他の転生者に出会ってしまうのだろう。

 それが嫌で嫌でしかたない。


「……ブクブク」


 お湯に顔を半分沈める。

 気持ちが滅入ってしまいそうなので他のことを考えることにした。


 えっと、そうだ。

 学校のこと。

 『ランバート魔法学校』

 僕の通う学校の名前。

 主に魔法のことを勉強する、魔法の専門学校のようなところだ。

 ただ、記憶にある通り、僕には魔法のセンスはないようだ。なにせ魔法を使おうとすれば爆発するのだから。

 じゃあそれがどうして魔法学校なんかに通うことになったのか。

 それはフリアがここに居たからだ。

 どうやら僕は、彼女を追いかけここに入学したようだ。

 すごい執念だと思う。


「……あれ?」


 でも学校っていえば、異世界転生ものでもよく舞台になる場所だよね。

 まぁ、あれは主人公たちが学生だからっていうのもあると思うけど。


「……まさか、いないよね?」


 キョロキョロしてみるけど、お風呂には僕しか居ない。

 いやいや、今周りを見たところで誰か居る訳じゃないだろ。

 と、自分を落ち着かせるが。

 浴槽の隅になぜだか不自然に浮かんでいる桶。

 それが気になる。


「……」


 怪しい。


ーーばしゃばしゃ


 現在地からお湯を叩き、湯船に波を起こしてみる。

 結果、桶はあまり揺れず、その場から動く様子もない。


 怪しい。


 僕は立ち上がりゆっくりと桶に近付く。

 それでも桶は動かない。


「……」


 いや、まさかとは思うけど、ラッキー?スケベ的な主人公さんが居たりするのかもしれない。

 幸いなのか、お風呂には入浴剤が入っていて、お湯は白く濁っている。

 つまり、ぱっと見ではお湯の中に誰か居ても判別が難しい状況だ。


「……」


 じっと桶を見つめる。

 普通なら取り上げるところだけど……。


「えい!」


 あえて押してみる。


ーーむぎゅん!


 何かを押さえつけた。


「……ふん!」


 構わず押さえ続ける。


ーーゴポォ!


 空気の固まりが出てきた。


「……おりゃっ!」


 渾身の力を込めて押さえる。


「ーーーーーー!!」


 声にならない声が聞こえたような気がした。

 すると、湯船が大きく盛り上がり、何かが飛び出してきた。

 その反動で僕は弾き飛ばされる。


「死ぬ! マジで死ぬ!」


 お湯の中から現れた顔に、僕は見覚えがあった。


「て、転校生さん? なんでこんなところに?!」

「ユ、ユトちゃん! ち、違うんだ! 俺は!」

「の、覗きですか?! 変態なんですか?!」

「ご、誤解だ! これは事故で、くそっ! クロードの奴!」

「弁解は後で聞くから出て行って!」


 ひっ掴んだ桶を投げつけると、見事彼にクリーンヒット!


「すみませんでしたあああぁぁぁ!」


 彼はものすごい速さで退散していった。


「はぁ……」


 女の子としての記憶と感情が役に立った。

 僕は湯船につかり、先程のことを思い返す。

 転校生……。

 一ヶ月前この学校に転校してきて、同じクラスになった。

 確か名前は、『トーヤ』。


「……」


 転校生だからか、みんなとは違う異質な空気を放っていて、少しとっつきづらい。

 それでいて、なぜか彼の周りには女の子がよく集まっている。

 男子からは敵意の眼差しが向けられているけど、彼は全然気にしていないようだ。


「……」


 もしかしてトーヤ君は……。

 根拠はない。

 けれどさっきのやり取りがイメージ通りに進みすぎた。


「確認……しなきゃ……」





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