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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・竜の巫女
29/55

─28─ トーヤ

 止めないと。

 ユトちゃんに人殺しなんてさせたくない!


「ユトちゃんこんなこと無意味だ!」


 ユトちゃんは笑顔で俺を見る。


「無意味じゃないよ。こんなに楽しそう!」


 だめだ、話にならない。

 それなら無理にでも……。


「あ、邪魔したらトーヤ君でも許さないから」


 その釘を刺す一言の裏には、狂気めいたものすら感じ取れる。

 だが、恐れていては……。


「くっ……」


 一歩足を踏み出したその瞬間。


「棘の鳥籠」


──ガシャン!


 俺の上から、3センチ程の棘がいたるところから突き出た鳥籠が落ちてきた。


「くそっ!」

「危ないからそこ入っててね」


 それならこんな棘必要ないだろ。

 今のユトちゃんは危険だ。

 なんとかならないのか……。


「よそ見しちゃだめよ?」


 アルカがユトちゃんに近づき、腹部めがけて回し蹴りをする。

 それに気付いたユトちゃんは身を捩らせ、間一髪の所でかわした。


「っ!?」


 かわしたはずだった。

 しかし、ユトちゃんの衣服の腹部が横一文字に裂け、そこからじんわりと血が滲んできていた。


「今までは遊んでたけど、もうそれもなし。私の一撃は全てドラゴンの一撃と考えなさい。よけてなかったらあんた真っ二つ、よっ!」


 アルカの繰り出す手刀はまるで剣だ。

 触れれば簡単に断ち切られてしまうだろう。

 ユトちゃんは今のところなんとか避けてはいるがやはり動きが違う。

 彼女の動作はやっぱり一般人そのものだ。


「痛いわよ」


 アルカがユトちゃんの死角に回り込み、腕を振り抜く。


──スパン!


 それは包丁が野菜を切るかのような光景だった。


「いったあああぁぁぁぁぁい!」


 ユトちゃんの左腕が持ち主から離れ、ぼてんと地面を転がっていく。


「ユトちゃん!」


 駆け寄りたいが鳥籠が邪魔で身動きがとれない。

 ユトちゃんはあまりの痛みからかその場に屈み込んでしまった。


「痛いわよね? 痛いでしょう? でもすぐ楽になるわ」


 アルカの手刀がユトちゃんの首に向けて振り下ろされる。


「ユトちゃ、おわっ!?」


 俺を囲っていた鳥籠が不意に消え、虚を突かれた俺は驚いてバランスを崩す。


──カァン!


 次の瞬間、なにか硬いものがぶつかるような音がしたので顔を上げると、アルカの手刀がユトちゃんの首の付け根でピタリと止まっていた。


「な、なんなのよ……」

「んべっ!」


 驚いているアルカにユトちゃんは舌を出して悪意のある笑顔を向ける。


「こーろーせーるーと、思った?!」


 アルカの表情が歪む。


「あはっ! お前の真似! 似てた?」

「……全然違うわよ……、クソガキ……」


 なんだ?

 どういうことだ?

 アルカの様子から寸止めしたとかそういうわけではなさそうだ。

 だとしたら、ユトちゃん自身が防いだことになる。

 じゃあさっきはなんで防がなかったんだ?


「いてて……、それにしても腕を落とされるのがこんなに痛いなんて……」


 ユトちゃんは左腕があった場所に右手を当てる。

 そしてすうっと右手を流していく。


「あれはミコの!」


 黙視してた青銅竜が声を上げる。


「な、なによそれ! ふざけてんの!?」


 ユトちゃんの左腕がすっかり治っていた。


「これは怪我が前提だし……、私、痛いのはやだなぁ」

「あ、あんたの能力一体なんなのよ!」

「ひーみーつ!」

「ざっけんなぁっ!」


 今のところユトちゃんが強いのか弱いのかも判断できない。


「少年よ、彼の者はお前のおかげで強くなれたと言った。心当たりはあるか?」


 青銅竜の問いかけに対し、俺は首を左右に振って返答する。


「確かに魔法は教えた。だが、こんな能力があるなら、そもそも魔法を覚える覚えないなんて微々たる意味も持たない。実際、ユトちゃんは魔法なんて使ってない」

「止めたいのだろう? 考えよ。鍵はお前が握っている」


 止めたいのはあんたも同じだろうに。

 俺に全振りかよ。


「……」


 とは言っても青銅竜は何かしたくてもできないのだろう。

 恐らく、今この中で一番弱いのは彼なのだ。

 歯がゆい思いをしているに違いない。


「うん、いろいろ試せたし、もういいかな」

「避けろミコ!」

「は?」


 ユトちゃんがいつの間にかアルカの後ろに立っていた。

 アルカの頬がすいと裂け、つぅと血が流れる。


「い、今のは俺の……」


 同じだから分かる。

 ユトちゃんは超スピードとかテレポートとかで移動したんじゃない。

 時間を止めて移動したんだ。


「首狙ったのに逸れた……」

「あんた……、……あら……?」


 アルカは自分の頬に手を当てる。

 手に付いた血。

 それを見てアルカはものすごい速さでユトちゃんから距離を置いた。


「なんでよ……」

「青銅竜に感謝だね! 逸れてなかったらお前死んでたよ」

「能力が使えない……」


 ユトちゃんがにこりと笑う。


「嘘よ! こんなの聞いてない!」

「今度こそ確実にやらないとね!」


 アルカとユトちゃんの距離がじりりと縮まる。


「我が出たところで時間稼ぎにもならぬ! 少年よ何か思いつかぬのか!」

「今考えてるんだ!」


 くそっ!

 なんだ?

 なんなんだ?

 ユトちゃんはアルカの能力のみならず、俺の能力まで使って見せた。

 人の能力をコピーできるのか?

 空に浮いたり、何かを作り出したり、攻撃を防いだり、アルカの頬を切ったのも何かしらの能力であるのだろう。

 いや、しかしコピー能力なんて対象がいてこそだ。

 それに相手と同じ能力を身につけたところで……。

 可能性はなくはないが。


「それなら……」


 アルカが能力を使えなくなったのは?

 ユトちゃんがなにかしたのか?

 だが、これは神様から貰った能力だ。

 そんな簡単に消せるはずがない。


「くそっ……」


 訳が分からない。


「いくよ!」


 ユトちゃんがそう言った瞬間。


「くっ、『再生』!」


 アルカが叫ぶと。

 何も起こらなかった。

 場の状況に変化がなかったという意味でだ。

 ユトちゃんはその場に立ち止まったままポカンとしている。


「ありゃ、ばれてた?」

「能力が、使える……」


 見ればアルカの頬の傷も治っている。

 能力が復活したのか。

 ユトちゃんの能力が解除されたのか?


「待てよ……」


 そういえば似たようなことが前にもあったな。

 今、俺は自由の身だ。

 そう、俺が戦いに介入しようとしたとき、ユトちゃんは俺を鳥籠の中に閉じこめた。

 だが、あの時。

 ユトちゃんがアルカの攻撃を防いだとき。

 鳥籠は消え、俺は外に出られた。

 しかしその前。

 ユトちゃんの腕が飛ばされたときは、鳥籠があった。

 防げるはずの攻撃を防がなかった。

 いや、きっとあの瞬間は防げなかったのだ!

 俺を閉じこめていたから!

 今までのこと、これらの材料から推測すると……。


「そうか……」


 ユトちゃんはいくつかの能力を使うことができる。それがなんなのかは分からないが今はそれで十分。そして、それらの能力は一つずつしか使えない。

 だから致命傷となるアルカの攻撃を、俺の拘束を解いて防いだ。


「まぁいいや。今度は違う方法でやるから」


 ユトちゃんの姿が消える。

 でもこれは俺の時間停止とは違う。

 身体強化だ。

 目にも映らない速さで動いているだけだ。


「ミコ!」

「打つ手無しね! 自業自得かしら?!」


 アルカも逃げ回るが、ユトちゃんの方が僅かに速い。

 いずれユトちゃんは追いつくだろう。

 くそ……、もう少し時間が欲しい。

 ちょっと後が怖いが……。


「ユトちゃん!」


 ユトちゃんに掌を向ける。

 時間よ止ま──。


「『再生』!」


 ユトちゃんの動きが止まる。

 推測は間違っていなかったようだが……。


「トーヤ君、また後で、ね?」


 なぜか嬉しそうにユトちゃんは俺を見ていた。


「今はこっちが優先!」


 ユトちゃんがまた動き出す。

 攻略法はアルカが既に見せてる。

 時間稼ぎにもならないか!


「しつこいわよ!」

「お前はしぶといね!」

「こっちの台詞よ!」


 二人の距離はじりじりと縮まっていく。

 はやく!

 ユトちゃんの能力はだいたい把握できた。

 後は俺がユトちゃんに何をしたかだ!


「イチかバチか……」


 アルカは何か思いついたようだ。

 とある場所に手を向け。


「『再生』!」


 なにをした?


──カチャ……


 後ろから扉が開いた音がした。


「おやおや? これはどういう状況かな?」


 ユトちゃんが出てきた建物から、もう一人女性が現れた。
















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