─23─
「ユトちゃんが……、転生者?」
バレた。
バレちゃった。
どうしよう、どうしよう。
いいわけ?
そんなの咄嗟に思いつかないよ!
ていうか今どういう状況なの?
なんか周りの景色もおかしいし、なんでトーヤ君とアルカ・ラカルトが一緒にいるの?
「っひっひっひ! 面白い顔ね! 分かってないようだから教えてあげるわ。私、このトーヤって子に殺されかけてるの!」
「え?」
「でも大丈夫よ? 私、死なないから!」
「トーヤ君」
「こいつがユトちゃんを殺そうとしてたから俺は!」
なんとなく話は分かった。
アルカ・ラカルトが何故かこの街にいて、たまたま見つけた私を殺そうとした。
そこをたまたま通りかかった迷子のトーヤ君が止めた。
これも神様の引き合わせなの?
偶然が過ぎる。
「トーヤ君はやっぱり転生者なの?」
トーヤ君は顔を背けたが、意味がないと判断したのかすぐに答えた。
「そうだ。そう言うユトちゃんもか?」
「……うん」
まだ隠せたかもしれない。
でもアルカ・ラカルトが居る時点でそれは無理。
「あらあら、あっさり認めちゃって。つぅまぁんなぁい」
アルカの上に黒い影が覆い被さる。
上を見上げると、巨大なドラゴンが降りてくるところだった。
「ドラゴン!?」
「遅いわよ、青銅竜」
「ミコよ、我は言ったはずだが」
「五月蠅い」
アルカは青銅竜に飛び乗った。
そしてどこからか髪留めを出すと髪の毛を結っていつものツインテールになる。
「いいわ、青銅竜。好きに暴れなさい」
「だが」
アルカはトーヤ君を指さした。
「あいつの能力のおかげで周囲の建物は壊れないわ。安心しなさい。あんたのダメージは痛みを感じる前に全部私が一瞬で治してあげるから。私の『再生』の力を信じて」
青銅竜は目を閉じた。
「人の子らよ、覚悟はできているな」
青銅竜の目が開き、カッと僕たちを睨みつけた。
咆哮をあげ牙をむける。
「ユトちゃん! 戦えるか?!」
僕は頷く。
この状況、できないとは言えなかった。
青銅竜が大きく息を吸う。
「ブレス!」
冷気が周囲を覆い、巨大な霜柱が立ち上がる。
トーヤ君は風の魔法を利用して飛び立った。
「まずは一発!」
トーヤ君は後ろで拳を作り、その手を思いっきり振り抜いた。
風の渦が真っ直ぐに青銅竜へ向かっていく。
風が青銅竜の翼を貫いた。
青銅竜は一瞬バランスを失い傾くが、翼の穴はすぐに塞がり体勢を立て直す。
そしてそのまま大きく開いた口でトーヤ君に噛みつく。
──ガチッ!
歯と歯がぶつかる音がしたが、トーヤ君は牙から逃れた。
「面白い使い方するわね」
「どうも」
トーヤ君は青銅竜の背に乗っていた。
「ここ、私の特等席なんだけど、降りてくれないかしら?」
「退いてくれないか?」
「なに? 説得?」
「話し合いだ。俺たちの戦いは決着が付かない」
「あんたが死になさいよ」
「お前の攻撃は俺には絶対当たらない、俺の攻撃はお前に通らない。戦うことは無意味だ。話し合い以外にどういう決着がある? 知ってるなら教えてくれ」
「そうねぇ。確かに確かに、あんたの言う通りね」
「だろ?」
「でも、遊んだっていいじゃない!」
「うわっ!?」
青銅竜が体を揺らしトーヤ君を振り落とした。
「青銅竜、もう一匹のガキを殺るわよ」
「くっ! やめろ!」
トーヤ君がアルカに向けて魔法を放つ。
上から手を振り下ろした。
風の上級魔法だ。
風が上からアルカたちを襲い、地面へと叩きつける。
「ったく、あんた底なしね! あれだけ魔法連発しておいてまだ撃てるの?」
アルカと青銅竜がむくりと起きあがった。
やはり彼女らにダメージはない。
「まぁいいわ。近くなったし」
青銅竜が牙を剥く。
もう、やるしかない。
でもどんな力を望む?
アルカの能力は『再生』。
いくら攻撃しても意味がない。
「青銅竜、長くなったけどあのときの『よし』はまだ有効よ。食べちゃいなさい」
「だから止めろ!」
トーヤ君が上からもう一度魔法を放つ。
「邪魔なのよあんた! あー、うっざ! 止めろ止めろ止めろ止めろ、命令すんじゃねえ!」
アルカはトーヤ君の魔法を全て受け、青銅竜に攻撃が通らないようにしている。
どうしてそこまでするんだろう。
アルカの青銅竜に対する態度は、他と明らかに違う。
「少女よ」
青銅竜が牙を納め言葉を紡ぐ。
「お前からは邪悪な匂いがする」
だがこれまでより鋭い殺気を放っていた。
「邪悪? 私が?」
「そうだ。腐り落ちた果実のように、甘く他を惑わせるような腐臭」
匂いって、アルカにも似たような事を言われたけど、僕ってそんなににおう?
一瞬、体を嗅がなければならないような衝動に襲われたけど、そういう意味ではないのは分かっていたのでやめる。
「ミコやあの少年とは違う、また異質なものだ」
違う?
「意味が分からないよ」
「我も分からぬ」
なにそれ……。
「我は──」
「青銅竜なにやってるのよ! 早くそのガキを食べなさい!」
アルカが青銅竜の言葉を遮った。
「今回ばかりは、ミコの行為が正しく思える」
「……」
「お前は葬られるべき存在だ」
「わ、私が何をしたって言うの!?」
理由もなく敵意を向けられる意味が分からない。
「行くぞ、邪悪なる者よ」
青銅竜の周りに冷気が渦巻く。
大きく翼を広げ、息を吸う。
ブレスの動作かと思ったけど今までのとは何か違う。
翼の皮膜が青白く輝き出した。
「ちょっと青銅竜! なにマジになってんの!?」
青銅竜が大きく仰け反り口を開いた。
その口から出たのは息などではない。
圧縮された冷気がまるでレーザーのように放たれる。
「や、やばい?!」
走って逃げる。
そのブレスが通った後は、一瞬で凍り付いていた。
思った以上にブレスは速い。
でも今、防御のために能力を使ったら攻撃ができなくなる。
逃げ続けてみようか?
けれど、10分で今のアルカと青銅竜が退いてくれるとも思えない。
攻防一体……。
そんな何かが……。
「いたっ!」
ブレスが僕の脚を掠り通過していった。
刺すような痛みがして、足がまったく動かなくなった。
「動かない……」
足は凍り付いていた。
そしてふくらはぎ、太股、腹、胸……。
氷はあっという間に体を浸食していく。
「邪悪なる者よ」
腕、首……。
「全てが凍り付いたときが最後だ」
「ユトちゃん!」
トーヤ君がこちらに掌を向けた。
すると、氷の浸食が止まる。
「『時間停止』なんて野暮なことしちゃ嫌よ?」
アルカが手を振ると、再び氷の浸食が始まった。
「っひっひっひ! これはいい眺めねぇ?」
アルカがトーヤ君を組み伏せる。
「ぐっ!」
「焦らないでじっくり観賞しましょうよ。ねぇ、ねぇ? あーっはっは!」
『時間停止』?
口が凍り付いた。
そうか、トーヤ君の能力は。
逃げろ。
時間を操れるのか。
早く。
このおかしな空間は。
逃げ……。
時間が止まってるから。
凍り、付く前……に。
それなら今の僕は。
に……。
──ピシィッ!
この時を……。
「はぁい、これでうざったいガキが一人退場しましたぁー!」
『私』は待ってた……。