─22─ アルカ
アルカ視点つづき。
グロ注意。
彼女の性質上すみません……。
ルールに引っかかっても嫌なので、残酷描写ありの注意を追加しました。
中央都市に着く頃には昼になっていた。
私を運んでくれた青銅竜は近くの森で休ませてある。
何かあったときは、呼べばすぐに来るだろう。
「とりあえずは食料品ね」
勿論代金を払って買う。奪ったり盗んだりはしない。
まぁ、払うお金は『拾った』ものだが。
買い物を済ませたらすぐに戻る。
目立ちたくはない。
そのつもりだったが……。
「……あの子」
本屋の前を通りかかったとき、見覚えのあるクソガキの姿が見えた。
誰かに手を引かれて歩いていくようだけど。
「ふーん……」
一瞬考えたけど興味の方が勝った。
どういう理由であのガキがここにいるのかは知らない。
ちょっかいを出してやろうかとも思ったが、流石に中央都市で暴れると面倒くさい。
だから後をつけることにした。
◇
二人は喫茶店に入っていった。
私は喫茶店の前、二人の座った席の前でそれとなく時間をつぶす。
「……」
断片的だが、話の内容は何となく理解できる程度には聞くことができた。
どうやらあのもう一人の女も元は異世界の住人らしい。
よく見れば有名な作家じゃない。
それが異世界の人間ねぇ。
ふぅん……。
しかし、よくもまぁこんな喫茶店で堂々と異世界なんて話ができたもんね。
まぁ、他の人間からすれば異世界の話なんて空想の話だし、何より話しているのがかの有名な異世界ものの小説の作者だ。皆ネタの話だと思うのだろう。
だが、話が進むに連れて次第に内容がシフトしていった。
竜の神子。
どうやら竜の神子を探してる奴が居るらしい。
「お察しの通り。犯罪者、アルカ・ラカルトだよ」
それが私だとも。
竜の神子。
竜の神子。
竜の神子……!
くそっ!
くそっ!
反吐が出る!
私が?
ざっけんな!
そんなクソッタレな『使命』知ったこっちゃない!
自分の腕を掻き毟る。
皮が剥がれて血が滲んできたが気にはならない。
どうせすぐ治る。
「クソが……」
余計なこと思い出させやがって。
私は、私は。
クソ苛つく。
今すぐ潰したい。
消し去ってやりたい。
ああ、やだやだ。
「あー、誰か殺そう……」
まだ腕を掻き毟る。
腕が酷いことになってるがそんな事関係ない。
場所を移そう。
こんなところで殺ったら後が面倒くさい。
本当はあのクソガキを殺ってやりたいが、あっちにはもう一人いる。
流石に分が悪い。
とにかく、とにかく、誰か。
「……」
私はくるりと振り返る。
喫茶店の中に二人の姿がまだある。
「いや……」
やっぱりあのクソガキにしよう。
卑怯ではないわよね。
だって、次会ったら殺すって宣言してあるんだから。
「っひ!」
魔法はあんまり得意ではないけど、あの子を炙り出すには十分よね。
うまくいけばこれで終わりだし。
右手の拳を握り、上に掲げる。
すると、炎の槍が形成されていった。
『フレイムランス』
火の中級魔法。
あとは見た目通り、槍投げの要領で投げつけてやればいい。
「っひっひっひ、どぉなるのかしらねぇ?」
槍を思いっきり投げつけた。
が。
──バシュ!
槍は一瞬で消えてしまう。
「あら?」
消えたと言うよりは消されたという感じだが。
「ユトちゃんに何をする」
後ろから怒りのこもった声がした。
「はぁ?」
振り返ると、そこには少年が一人、殺意のこもった視線を私に向けていた。
制服。
学生か。
確か最近この制服も見た。
ランバート魔法学校の生徒か。
「前回は邪魔が入ったから、今回はばっちり殺してあげようと思っただけよ。あんたも邪魔するの?」
「前回? ……お前、もしかしてユトちゃんとクロードを襲った、犯罪者」
知り合いか。
「アルカ・ラカルトか!」
「せいかーい!」
相手の懐に飛び込み腹に一撃をぶち込む。
『この世界の人間』なら、まずこれに耐えられるはずがない。
相手は軽く吹っ飛び、建物にぶつかって止まった。
本来なら弾け飛ぶような一撃だ。
「……く」
つまりこいつも。
「っひっひっひ、あんたも転生者ね!」
「そういうことか……」
でも何かしら、この違和感。
これだけ騒ぎを起こしても誰も来ない。
いや、静かすぎるわね。
いつから音が消えたのかしら。
風も吹いてない。
「お互い騒ぎになると面倒だろ?」
「ふぅん、あんたの能力ってわけ?」
それはこちらにとっても好都合ではあるが。
相手の能力は、要はこの空間全体に干渉できるもの。
かなり強大な力を持っているはず。
でも、それだけの力を持っていながら、それを人除けだけに使うかしら?
「人除け……」
喫茶店を見てみる。
「なぁるほど、あんたの能力、時間を操る能力ね!」
喫茶店のあの二人、完全に止まっていた。
「ご明察。だが、それを知ったところでどうなる?」
「それだけじゃないわよ。時間を止められるなら、なぜ私の時間を止めないの? 何をするにしても、それだけであんたの勝利は揺るぎない物になるわ。それをしないということは」
何らかの制約がある。
さっき奴を吹っ飛ばしたとき、建物にぶつかったのに壁は無傷。
「時間を止めた物には干渉できないのね?」
「察しがいいな……」
不意に相手の姿が消えた。
次の瞬間背後から鋭利な何かが突き刺さる。
いや、突き抜けたと言った方がいいのかしら……。
私の体には大きな風穴が空いていた。
文字通り風に貫かれたのだ。
風の中級魔法『ウィンドレーザー』……。
体のど真ん中を打ち抜かれ、背骨をなくした体はべちゃりと崩れ落ちた。
「終わりだ」
そのガキはカッコつけて私に背を向けた。
「っひ! 終わり?」
ガキがぴたりと止まる。
そして振り返り驚いた表情で私を見ていた。
「な……、に?」
あー、たまんなくうざったいわ。
その表情、めちゃかちゃにぶっ潰してやりたい。
「お前……、ゾンビか?」
「ゾンビ? っひっひっひ! あーはっはっ! ぞぉんびぃいいい? 臭い臭い! あんなクセェ連中と一緒にすんじゃねぇ!」
「なら……」
「あんたと同じよ。転生の時、神様から能力をもらってるのよ?」
私の腹の穴が塞がる。
「再生か!」
「そうよ。だからあんたの攻撃は無駄。誰も私を殺せはしないのよ」
「それなら!」
またガキが消えた。
何をするつもりかは分かってる。
さっきと同じ。
時間を止めてノータイムで魔法を撃つつもりだ。
しかも乱射。
文字通り塵も残さないレベルで私を消すつもり。
でも……。
「むぅだぁっ!」
再生のレベルが違う。
「消えろ!」
魔法が私に向かってくる。
いくつも。
いくつも。
何回も。
何回も。
何度も。
何度も。
でもねでもね?
「那由多の攻撃も無駄なんだからぁっ!」
魔法を全部受けても私は壊れない。
「化け物!」
「化け物とは心外ね。あんたも同類なのよ? 同族」
「お前なんかと一緒にするな!」
「一緒よ。このゴミ屑が! わかんねぇのかよ! てめぇがしてることは何だ? 私を殺そうとしてる。人殺しだろーが! きゃーころさないでー! っひっひっひ!」
「っく!」
「返す言葉もないでしょう? あんたは正義じゃない。悪よ? 殺人鬼さん?」
「黙れ!」
「あーっ! いいこと思いついた!」
あいつの能力は時間を操るものだ。
対して私の能力は再生。
確証はないけど試してみる価値はありそうね。
「できるかしら? 能力の応用」
掌を喫茶店に向ける。
「な、何を!?」
「っひっひっひ」
後は少し待てば。
──カチャリ……
「な!」
喫茶店のドアが開き一人の少女が顔を出す。
「トーヤ君? これは……」
うまくいった!
時間停止なんてカッコつけて言ったって、所詮は『一時停止』。映像が止まってまた動くように、『再生』してやれば時間は動き出す。
「また会ったわねお嬢ちゃん?」
「あ……、アルカ・ラカルト!?」
「あのときの約束通りまた会ったから殺すわね!」
「ユトちゃん逃げろ!」
またガキが消える。
けどぉ。
「そこね?」
「くっ!」
時間を再生してガキの姿を捉えられるようにした。
「気にすること無いわよ? 私知ってるんだから」
「何を……?」
喫茶店から出てきたガキを指さす。
「この子も」
「やめっ!」
いい顔ね。
「転生者だもの!」
「やめてっ!」