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今話の中に出てくる作品のタイトルですが、この話の中だけのフィクションのものです。
もし似たようなタイトル、同じタイトルの作品が実在しましても、一切関係ありません。
「はあ? 班長がいないだと? あのサザナギがか?」
僕はこくんと頷いた。
「トーヤの奴、前はど田舎に住んでたみたいだし、迷子に出もなったんじゃねぇか?」
「まさかの班長の失態ですね……」
「トーヤ君……、わ、私、探してきますわ!」
「そうだな……。ちょうどこのあと散策の時間をとる予定だ。その間に探してこい。連帯責任だ。それでも見つからない場合は私に言え。そうなった場合は治安兵に連絡する」
「わかりました」
◇
まさかの事態だった。
トーヤ君、しっかりしてそうなんだけど……。
ロザリーさんの話だと、リーンスタリアでも迷ってたみたいだし、もしかして方向音痴?
僕はクスリと笑う。
が、すぐに緩んだ口元を引き締めた。
昨日のロザリーさんの話。
『その、魔法学校にユウトって奴はいるか?』
そんなトーヤ君の台詞。
「……」
ユウト……。
優斗は僕の前世での名前だ。
それはつまり、トーヤ君が僕を探しているということなのだろうか?
でも、ロザリーさんはありふれた名前だとも言っていた。
たまたま同じ名前だったということも考えられる。
「あ……」
そうだ、僕はトーヤ君が異世界の人間じゃないかという疑いを持って彼に近づいたのに、今はそれを否定しようとしている。
「どうしたら、いいんだろう……」
使命……。
僕にはどうしてそんな使命がついてきたんだろう。
神様のせいで死んで、使命なんか押しつけられて、転生して。
普通に、この異世界で、生きていけたら良かったのに……。
──がやがや
頭を下げて歩いていると、とある店の前に人集りを見つけた。
そこは本屋だった。
壁という壁にポスターが貼られ、ちょっとしたイベントを行っているようだ。
『トリップファンタジーの巨匠! ルミリア・フェルデイン、新作発売記念! サイン・握手会!』
どうやら小説家さんの握手会のようだ。
ポスターの前にその作家の本がずらりと、全種類並んでいるようだ。
『異世界旅路、果てしなく』
『こちらの世界の空は青かった』
『異世界行ったらなんか知らんが美少女になっててブサ男にストーカーされてる件』
『勇者、世界をねじ伏せる』
『ポンコツチーターは足が速い』
こっちの世界でも似たような小説があるんだね。
彼が好きそうだ。
そのうちの一冊を手に取り、ペラペラとめくってみる。
うーん、テンプレートな展開。
異世界ものってやっぱりノリが大切だよね。
チートな能力を身につけたやつは爽快だなぁ。
僕の能力もこのくらいあればよかったのに。
そうしたら、使命ももっと考えなしに気楽にいけたのかもしれない。
変な制限があるから、変に作戦立てて、変な気を起こしてしまったんだ。
どう考えてもこの能力は欠陥品だ。
──ぺらぺら……
さらにページをめくる。
「え?」
その中に僕はあり得ない文字を見つけた。
この本は異世界転生ものの内容だけど、この主人公が転生した世界の、最初に出てきた街の名前。
それが……。
「トーキョー……」
偶然?
あ、そうか、偶然か。
そうだよね、空想の世界の街の名前だもん。
世界にどれだけの小説家が居るのか知らないけど、名前が被ることもあるよね。登場人物の名前なんて特にただかぶりだし。そんな偶然があったっておかしくないじゃないか。そうだよ、偶然偶然。
本を閉じようと思った。
けれど、そんな思いと裏腹に指はページをめくる。
そう、これが偶然だと決定づける確信を得るために。
「オーサカ……」
僕の考えはあっさりと打ち砕かれた。
偶然だろうか?
いや、それはない。
こちらの世界の街の名前からして、こんな街の名前が連想できるだろうか?
本当に偶然なのかもしれない。
でも偶然じゃないとも言い切れない。
「ルミリア・フェルデイン先生との握手会はもうすぐ締めきりになります。ご希望の方はお急ぎください!」
列を正す人がそう叫んだ。
「こ、これください!」
僕はルミリア・フェルデインの新刊を一冊掴み上げ、その場で店員にお金を渡すと握手会の列に並んだ。
「それでは、本日はここで締めさせていただきます」
僕の後ろでスタッフが人集りに聞こえるように叫んだ。
間一髪間に合ったようだ。
「……う、うーん」
勢いで並んだけど、どうしよう。
この人の作品なんて読んだことないし、話すことも何もない。
「やぁ、先生の作品はどれも味があって──」
前の方の人があれこれ話してるけどよく聞こえない。
話の種にでもなればと思ったけど。
むむ……、ダメだ。
列から離れようかな
「次の方どうぞ」
でも今更離れても……。
「どうぞ?」
この機会をなくしたらもうコンタクトはとれないかもしれないし。
「あの、お嬢さん?」
ポンポンと肩を叩かれる。
「あなたの番ですよ?」
「ひぇ?」
肩を叩いたのは整列させるためのスタッフさんだった。
「あなたで最後です、どうぞ?」
「あ、は、はい!」
あ、いや、はいじゃなくて……。
スタッフに促されて僕は前に進む。
間仕切りで仕切られたスペースにその女性は居た。
「やや! あなたのような学生さんも、私の作品を読んでくれるのですね!」
眠たそうな目、日に焼けていない白い肌、薄い藤色の髪の毛は肩のあたりで切り揃えられているが所々に寝癖がありその実全く足並みはそろっていない。
今でこそお洒落な服装でそこにいるが、普段はインドア派であろうことがその姿から容易に想像できた。
この人がルミリア・フェルデインなのだろう。
「名前は?」
彼女が手を出したので、持っていた本を手渡し、名前を告げる。
「ユト・アルシャマです」
「ユトちゃんか。いい名前だね。今日はどこから?」
「リーンスタリアからです」
「リーンスタリア! これまた遠いところから!」
その感もルミリアの手は動き、本にサラサラとサインを書いていく。
「リーンスタリアといったら、ハルルラ糸が有名だね。私はお洒落には興味はないけど、知識としては持っておきたいね。それで、ユトちゃん。制服ってことは修学旅行かなにか?」
「は、はい」
ルミリアはサインを書き終えて、本をぱたむと閉じた。
「……緊張してる?」
僕の様子を察してルミリアが優しく問いかける。
「す、少し……」
「ひはは、いいよ。ユトちゃんが最後だし、少し長めに話そうよ」
「でも……」
「いいのいいの。私もこの後暇だしさ。あ、そうそう、私の作品の主人公は学生が多いんだよ。だから、リアル学生のユトちゃんの話を聞いて取材する訳なんですよ。どぅーゆーあんだーすたん?」
場の空気を緩くしようとしてくれているんだろう。
ルミリアは柔らかく微笑んでくれた。
「そうだ、何か質問ある? 次回作の核心に触れないところまでなら話してあげられるよ?」
質問……か。
せっかく空気を和ませてくれたのに、それを踏みつぶすようで悪いけど……。
「トーキョー……」
「ん?」
ルミリアが首を傾げる。
「オーサカ……」
「私が出した街の名前?」
ここまではそうだ。
「京都……」
ルミリアの眉がぴくりと動いた。
「奈良、岩手、熊本、北海道、沖縄、香川、高知、兵庫、新潟……」
ルミリアがガタリと椅子を倒して立ち上がる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
ルミリアはゆっくりと僕の所まで歩み寄ると、ガシッと僕の肩を掴んだ。
「いやぁ! ほんと? こんな所で同郷の仲間に会えるなんて!」
ルミリアが痛いくらいの勢いで僕の肩をバンバン叩く。
「やっぱりあなたも……」
「そうそう。私はルミリア・フェルデイン。神様にこっちの世界に転移させてもらったんだよ」
この人もやっぱり異世界の人だ。




