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僕と彼らの異世界譚  作者: 浮魚塩
激動!?修学旅行・竜の巫女
19/55

─18─ トーヤ

トーヤ視点です。

 修学旅行二日目。

 今日の昼前には中央都市に着くらしい。

 都会という場所は全く経験がないから少し楽しみだ。

 さすがに朝は皆テンションが低いようで、列車の中は昨日に比べたらかなりの静かさだった。


「ユトちゃん。ユトちゃん? ユトちゃん!」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「どうしたんだよぼーっとして。まだ体調が悪いのか?」

「う、ううん。体は大丈夫。ちょっと、考え事してて……」


 どこか余所余所しい。

 俺、またなんか悪いことしたか?

 考えてみても全く心当たりがない。


「おいトーヤ。ユトちゃんいじめんなよ」

「いや、昨日のこともあるし、ユトちゃんの様子が気になってだな……」

「ロザリーさん。ちょっと席替わってもらってもいいかな?」

「え、ええ。構いませんわ」


 俺の正面にいたユトちゃんはロザリーと席を替わった。

 さ、避けられてる!?


「失礼しますわ、トーヤさん」

「あ、ああ……」


 俺の前にはロザリーが座った。


「……」

「……」

「……」

「……」


 う……、こっちはこっちでなんか居心地が悪い。

 なんかロザリーは俺のことジト目で睨んでくるし……。

 そういえば、転校のとき案内してもらってから、そんなに話す機会無かったしなぁ。

 なんか久しぶりにあった人みたいで少し話しにくい……。


「あーっ! なんだよお前ら、空気わりぃな! 朝でテンション低いのは分かるけど、もう少し上げていこうぜ?」


 そんな空気に耐えかねてクロードが声を上げる。

 そしてクロードは自分の鞄をガサゴソとして何かを探し始める。


「これだ!」


 クロードが出したのはトランプ。


「よし、昨日はババ抜きだったからな! 今日は大富豪だ!」


 クロードは手際よくトランプを切っていく。切り終えると、慣れた手つきで皆にカードを配っていった。


「朝から金ですか? クロード君の守銭奴」

「うるせぇ! 金払ってでもこの空気を何とかしてぇんだよ!」

「その点は賛成ですね。流石はオールマイティーの雑用です」


 なんだかんだ言いつつもカンナは参加のようだ。


「それなら私も参加しますわ」

「貴重品係は絶対参加だぜ!」

「……関係ないと思いますが……」


 ロザリーも参加。


「私は、今そんな気分じゃ……」

「ユトちゃん。問答無用だぜ! 俺はこの得意な大富豪でユトちゃんに昨日のリベンジを果たさなけりゃならないんだ!」

「うわ、根に持ってたんですか?」

「なんだよカンナちゃん! 俺にも曲がりなりにプライドってもんが──」

「はいはいわかりました。ユトちゃん、さくっと蹴散らしてやってください」

「い、いやぁ……。大富豪はちょっと苦手で……」


 ユトちゃんはキリキリと油の切れたおもちゃのように頭をこちらに向けた。

 体調的なものではないようだが、相当顔色が悪い。

 そんなに苦手なのだろうか?


「クロード君、そんなので勝つつもりなんですか?」

「勿論だ! なんと言われようと構わない! 俺の意地だ!」

「汚い意地ですね……」


 クロードは譲る気はないらしい。


「ユトちゃん!」

「わ、分かったよぅ……。本当に弱いからね? 少し手を抜くぐらいがちょうどいい位の強さだよ?」

「よし! 決まりだな! トーヤは当然参加だろ?」

「この流れで断るほど空気が読めないわけじゃないさ」

「そうこなくちゃな! それなら最初はダイヤの3を持ってる奴からだぜ!」

 こうして大富豪……、という名のクロードのリベンジマッチが始まった。

 それにしても、やっぱりクロードを雑用にしたのは正解だったな。

 余計な仕事がない代わりに、周りに気を使うことができる。

 真面目なクロードらしい。

 クソ真面目でなくて本当に良かったけど。

 ムードメーカー、まったく、きちんと仕事してくれるよ。

 流石は俺の人選!


「あ、私からだ」


 ダイヤの3はユトちゃんが持っていた。

 ユトちゃんがそのカードを出してスタート。

 皆順当にカードを出していく。

 それぞれがカードを出し、二巡目。

 そろそろ誰かが仕掛けてくる頃だ。


「じゃあこいつだ!」


 クロードが一番強い数字、2を出した。

 これを越えるにはジョーカーを出すしかない。

 しかしこの時点で2か……。

 クロードの奴相当手がいいみたいだな。

 さすがに皆パスする。


「小手調べだぜ!」


 クロードが二枚カードを出す。

 4の二枚出し。


「まぁそのくらいならまだ出せますわ」


 ロザリーが7を二枚。

 次のカンナ、ユトちゃんはパス。


「俺は……」


 とりあえず9を二枚。


「ふっ!」


 クロードがJを二枚。


「パスですわ」

「俺もパスだ」

「また俺だな!」


 クロードが三枚をまとめて出す。

 そこからはクロードの独壇場だった。

 あっというまにあがり大富豪。


「い、言うだけのことありますね……」


 カンナは悔しそうだ。


「ふっ、俺にかかればこの程度」

「配ったのクロード君ですよね? 不正は──」

「するわけねぇだろ! ったく、カンナちゃんは疑り深いぜ……」

「疑わしきは罰せよです」

「だから何もしてないって! ほら次、ロザリーちゃんだぜ?」

「行きますわ! 平民、貧民に成り下がってはエルスマスト家の名折れ! 家は次代の当主である私が護らなくてはなりませんのよ!」


 ロザリーもなんか変なスイッチが入ったようだ……。


「ロザリー、家は今関係ないんじゃ……」

「トーヤさん! 私は背負っているものがあるのです! ですからここは、決して譲れない、決して妥協しない、それがエルスマストの名を背負っている私の使命! いざっ!」


 ロザリーはスパァンとカードを叩きつけるようにして出した。

 物凄い気迫だ。

 叩きつけたトランプの風圧を感じるようだった。


「……しめい……」


 そんなとき、ユトちゃんがぼそりと呟いた。


「ユトちゃん? 何か言った?」

「う、ううん。なんでもないよ。続けよう!」


 お、ユトちゃんもなんだか気合いが入ったようだった。


「私も負けてられませんね! いきます!」


 カンナも……。

 全体的にテンションも上がってきた感じかな。

 よし、俺も負けてられないな!











──リザルト


 大富豪、クロード・ラインハート。

 富豪、ロザリンド・エルスマスト。

 平民、カンナ・ヒノモト。

 貧民、トーヤ・サザナギ。

 大貧民、ユト・アルシャマ。











「やっばりまげだぁ……」


 ユトちゃんはズビズビぐずりながら椅子の腕かけにもたれ掛かった。


「ふははっ! リベンジは果たされた!」

「たまたま手札が良かっただけだろ?」

「なんとかエルスマストの名を護りましたわ! 先代様!」

「ロザリーちゃん、たかがトランプくらいで大げさですよ……」

「まげだぁ……。だからやりたくなかったんだよぅ……」


 う、うん、全体的に上がってきたようだけど、若干変な上がり方してるなぁ……。


「よし、第二回せ──」


──パンパン!


 手を叩く音がして車内の全員がそちらを向いた。


「よしお前ら。もうセンテルディアに着くぞ。降りる準備をしろ! 忘れ物はないか? あっても無いことにするからな? 貴重品はしっかり確認しておけ!」


 先生の言葉で皆がごそごそし始める。


「くっ、俺の強さの証明が!」

「ほらクロード。片づけ、準備だ」

「了解、班長様」

「ロザリー、貴重品は?」

「ええ、預かっていた物は全員分ありますわ」

「ユトちゃん、ゴミがないか確認してくれ」

「うん」

「カンナ、救急セット……」


 カンナは小さな箱をさっと俺に見せた。


「抜かりないですよ」


 よし!

 これでいよいよ中央都市センテルディアに到着だ!











 中央都市センテルディア。

 この国の中心。

 この世界の中心。

 全ての人がここに集まり、全ての技術がここで生まれ、全ての情報がここへ流れ込んでくる。

 見上げる限りの高層建築。

 リーンスタリアなんかより遙かに空は狭く、道には人が犇めき、空気は滞っていた。

 田舎になれているせいか、ここはとても窮屈で、忙しなく感じる。


「さて……」


 ここで一つ問題が浮上する。


「ここはどこなんだぁーっ!」


 都会の中心で恥ずかしげもなく俺は叫んだ。




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