─10─
次の休み。
ちょうど昨日の夜に、トーヤ君の課題を達成するかとが出来た。
一度初級魔法を使ってみようかな。
「あ、フリアとの約束……」
買い物に行こうって話だったよね。
呼びにくるって言ってたけど……。
ーーコンコン……
ノックの音。
「はーー」
ーーバァン!
「さあ行くわよユト!」
返事をする前に勢いよく扉が開き、フリアが突入してきた。
僕はというと、予想外の事態にビビって全く動けずにいた。
「この日をどれだけ待ったことか! さあ! さあっ!」
い、いやぁ……、フリアのテンションがなんかおかしい。
「今日こそユトを私色に染め上げる時なのよ! フンスー!」
ねぇ、フリアさんあなたそんなキャラでしたっけ?
「ふっふっふっ……」
ダメだこの人、早く何とかしないと。
「いくわよユト!」
あ、なんか記憶が蘇ってきた。
そうか、小さいときから僕は着せかえ人形にされていたのか……。
「うぷ……」
あれ……、吐き気が……。
なんだ今のは。
まさか封印されていた忌々しい記憶だったのか……!
これはきっとこの先恐ろしいことが起こる!
◇
案の定、僕は着せ替え人形になった。
「これよこれ! 私の唯一無二の生き甲斐!」
かれこれ一時間、同じ店でひたすら試着。
試した服が僕の横にずどぉんと積み上げられていた。
ええ、確かにリーンスタリアは服飾の街ですとも。
けど試着ばっかりだとお店の人が……。
「これ全部ください」
「買うのぉっ?!」
「当たり前じゃない! なんのために試着したと思ってるのよ!」
フリアはプンスカ怒るが、怒るところがおかしい。
「それじゃあ次のお店にいきましょ!」
待て!
次の店?!
一時間の試着をまた繰り返すというのか!!
「そ、それよりフリア、よくそんなお金があったね」
「アルバイトで貯めた分よ! 今こそ使うときだわ!」
「が、学費は……」
「それはそれ。これはこれ」
さいですか。
「じゃあ次にーー」
「お、ユトちゃん!」
フリアの言葉を遮って僕を呼ぶ声がする。
「あ、クロード君! 怪我はもういいの?」
「ちっ……」
クロードに話しかける僕の後ろから舌打ちが聞こえた。
なんか一瞬アルカより危ない殺気を感じた気がする……。
「ああ。ついさっき退院したんだ。トーヤが迎えに来てくれたんだぜ?」
「へぇ、トーヤ君が?」
しかし辺りを見渡してもトーヤ君の姿は見えない。
「あ、トーヤなら……」
「クロード。お前が欲しがってた本が……」
トーヤ君が何かをさっと裏に隠した。
「トーヤ君こんにちは」
「あ、ああ……、ユトちゃんか……。こんにちは。こ、こんな所で会うなんて奇遇だな」
「ユト、そろそろ……」
「お? そちらの方は?」
フリアに気付いたクロードが尋ねる。
「そういえば初めてだね。こっちはフリア」
「二年のフリア・チエリスです」
フリアはなぜかつーんとした態度で自己紹介する。
「はじめまして。クロード・ラインハートです」
クロードはいつもより落ち着いた声で話す。
「トーヤ・サザナギです」
トーヤ君は淡々としてる。
「……」
あ、あっれぇ、なんか微妙な空気。
「それにしてもすごい荷物だな……」
そんな空気を読んだのか、トーヤ君が話題を振る。
「あ、うん。さっきいっぱい買っちゃって」
「持とうか? クロードはまだ病み上がりだし、女の子にそんな荷物を持たせておくのも気が引ける。知り合いなら尚更な」
僕とフリアは顔を見合わせた。
それは持ってくれたら助かるけど……。
(ユト)
フリアがヒソヒソと話しかけてくる。
(こっちにしなさい)
(な、なんの話?)
(んもう! 鈍いわね! 付き合うならよ!)
(いや……、そんなつもりは……)
(どっちも顔はいいわね。クロードって子も悪くないけど、ユトを危険な目に遭わせたっていうのがあるし……。トーヤって子はお友達にも、私たちにも気をつかって、お姉さん気に入ったわ!)
(だ、だからそんなんじゃ……)
「荷物いいのか?」
「ひゃわっ!?」
トーヤ君が荷物を受け取ろうと手を出していた。
「っと、その前にクロード。この本は渡しておく」
「!」
クロードはトーヤ君から本を受け取ると、さっと後ろに隠した。
あー、そういうことか。
僕も経験なくはないけど……。
「じゃあお願いしようかしら」
フリアはトーヤ君にいくつか紙袋を渡した。
「それじゃあ、お礼と言ってはなんだけども、うちのユトの七変化を見せてあげましょう!」
「え?」
ちょっ!
「マジですか! お供します! 俺も持ちます!」
「クロード君はいいわ。退院したばかりなんでしょ? それに、ユトを守って戦ってくれてたんだからね」
「お、俺は外で……」
「おいトーヤ! フリアさんの折角のご厚意を無駄にしてはダメだぜ!」
なんかもう、ダメかもしれない……。
◇
どうしてこうなった……。
「まずはカジュアルに!」
「普段のユトちゃんのイメージとは違う味わいが!」
「そうだな」
「ま、まぁこのくらいなら……」
次。
「ビシッとスーツ!」
「踏まれたい」
「気が引き締まるな」
「クロード君おかしい」
次。
「パンク系もありね」
「ギャップ萌ってやつですな!」
「なるほど」
「おなか冷える」
次。
「和服」
「しっとりしてていいな」
「ふむ」
「こんなのもあるんだ……」
次。
「ゴスロリもかわいい!」
「髪の色と相まって絶妙なバランス!」
「そうきたか」
「これは……いいかも……」
次。
「ネコパジャマ!」
「裾が短めな所がグッドですフリアさん!」
「……ねこ」
「トーヤ君、目が怖い……。で、クロード君は屈まない!」
次。
「スク水!」
「き、旧スクとはっ! フリア師匠流石です!」
「いや、学校指定のやつだろこれ」
「しくしく……」
もういやだ……。
こんな見せ物にされて、僕もうお嫁にいけない……。
「ああ、言葉でしかユトのかわいさを伝えられなくて悔しいわ……」
なんの話なのフリア……。
「それじゃあ」
フリアは徐に店員へ歩み寄る。
「これ全部ください」
「「「買うのぉ!?」」」
「なんのために試着しーー」
以下略。
◇
「荷物増えましたな」
「なんかごめん、トーヤ君」
「いいよ。俺から申し出たんだ」
「ユトちゃんのファッションショー! よかったぜ!」
「あ、ありがとう……」
嬉しくない。
「流石に一旦荷物を置きに帰った方がよくないか?」
「ううん。もう買い物には行かないと思う。フリアがあれじゃ……」
そこにはベンチに座り、うなだれているフリアの姿があった。
「萌え尽きたわ……。心も財布も……」
トーヤ君は若干呆れた様子で、「なるほど」と呟いた。
「じゃあこの荷物は寮まで運んだらいいんだな?」
「うん、ありがとう」
「流石に俺も持つわ。流石に量がやばいぜ?」
「クロード君もありがとう」
「ああ、任せて……おっ?!」
クロードが躓いてすっころんだ。
その拍子に、一冊の本が宙を舞う。
「あっ!」
本は開きながらくるくると回転し、萌え尽きていたフリアの膝の上に見事に着地した。
「キャアァァァァァァ!」
「フリア!」
僕は卒倒したフリアのもとに駆け寄った。
「うわ……」
その際に開いた本の中身が目に入ったのだが……。
勿論それがエロ本であろう事は予測していた。クロードも病院生活で溜まってただろうしね。
でも、流石にこれは引くわ。
マニアックというか、エロを通り越してホラーだよ。
「ユトちゃんその本はっ!」
「うわ……」
熱のない視線をクロードに送る。
「やめて! ゴミ屑を見るような目で見ないで!」
「うわぁ……」
僕はクロードから距離を離した。
「ちょ! ユトちゃん!」
クロードには少し優しくしてあげようかと思ったけどやめた。
「来ないでくださいケダモノ」
「ギャアアアッ!」
ショックだったのかクロードはそのまま動かなくなった。
「ユトちゃん、許してやってくれ」
「この本、トーヤ君がクロード君に渡してましたよね? トーヤ君もそういう趣味なんですか?」
「ご、誤解だ! 俺はそんな変態じゃなーー」
「お風呂……」
「わっ! わーっ! すみませんでしたあぁぁぁ! 荷物全部持ちますから許してください!」
「そんな穢らわしい手で荷物持たないでください」
「ごめんなさいぃぃぃぃ!」
悲鳴のこだまするこの集団は周囲から奇異の目で見られていましたとさ。
ほんと、なんだこれ……。
シリアスの後はギャグ回を挟むのがいいらしいが……。落ちないね……。